のううた | ナノ

この気持ちに名前をつけるならば。

いいこだね、そう言って撫でられた時の手の感触が忘れられない。
「すごかったね、イルカのショー!」
「ペンギンってよく見るとあんまり可愛くないね。」

今日は教子と乃亜と3人で神奈川の水族館にやってきた。深海魚特集があるから行きたい、という乃亜の要望で。
事情を話すと、いつものことだから、送り迎えがついて、気分はまるでお嬢様だ。

「乃亜が深海魚見たいって言ったからきたのに、ペンギンに釘付けじゃない。」
「女子は大体ペンギンかイルカに惹かれるのが決まりでしょ。」
「何言ってんの?」
「それに深海魚想像以上に可愛くない。」
「基準かわいいかどうかなんだ・・・。」
「おじさんみたいなのいたよね。」

たしかにあれは中々怖かったけど。つい、うわって言ってしまったけど。

「乃亜ちゃんってそんなにかわいいものに興味あったっけ?」
「失礼だなぁ。あたしだって一応女の子だからね。」
「乃亜の興味あるものって睡眠じゃないの?」
「1番はそうだけど。」

最近可愛いものに目覚めたのか、教子と2人で騒いでいると、本当だ、と会話に混ざるようになった。先ほども「可愛くない?」と白イルカのキーホルダーを購入していた。

「でも私嬉しいなぁ。」
「どうしたの、教子。」

教子は嬉しそうな顔で、ふふと笑みを浮かべでいる。

「最近3人で遠出して遊んでなかったから、私、すごく嬉しい。幸せだなぁ。」
「おおげさね、教子。これからも何度だって行けるじゃない。」
「そうだよ。」

教子は思ったことを素直に言える。表情からもわかる。そこがより女の子らしくて羨ましい。自分は恥ずかしがっているのを見られたくなくて、強く言い返してしまうから。
本当は嬉しいのに、喜んでいる自分を想像すると、柄じゃないというか。自分じゃないと思ってしまう。弟のために、しっかりした頼れる姉になろうと思っていたから。

おかげで「崋山はしっかりしてるから」が振られ文句になってしまったけど。

「そういえば、ここから立海ってそんな遠くないよね。」
「そうなの?今部活中かな。」

そうだったんだ。てことは、病院も近いのだろうから。学校の近くに水族館があるって楽しそう。学校帰りにいつでも遊びに行けるじゃん。

「幸村君、今病院だよね。」
「え?あぁ、柳がそんなこと言ってたかも。」
「せっかくここまできたし、お見舞い行かない?」
「・・・え。」

場所だったら以前ブン太に教えてもらったことあるけど、いいのだろうか。
この時間帯ならテニス部はまだいないだろうし、退屈してるかもしれないけど。

「そうね・・・せっかくだしお花でも買って行きましょうか。」

ブン太とのトーク履歴を開き、教子に携帯ごと渡す。今何してるんだろう、とか気になってみたり。











「やあ、いらっしゃい。」

電車に乗って二駅、歩いて10分。病院自体が大きくて、迷うことなく着くことができた。幸村とは前回連絡先を交換したので、行く途中で連絡を入れた。
部屋に入れば、穏やかな顔と目が合った。

「あれ・・・乃亜は?」
「ごめんね、幸村君。乃亜ちゃんは下で待ってるって。」

流石に3人で行ったら迷惑だと思うから、と乃亜に言われた。普段はレギュラー陣が7、8人で来てるんじゃなかったっけ?3人ならまだセーフじゃない?

「・・・そっか。」
「アタシ呼んでくるよ。」
「いや、いいんだ、崋山さん。」

一体乃亜は何の不満があって立海を拒否しているのか。自分から嫌われるようなことをして、流石に申し訳なくなったのか。

「病院って独特な匂いがするから、苦手だったのかも。」
「・・・そっか。そうかもね。」

教子が首を傾げていえば、幸村は少し悲しそうに答えた。

「あ、幸村君、お花買ったんだけど、花瓶借りてもいい?」
「ありがとう、大丈夫だよ。」

お水入れてくるね、と教子は病室から出ていった。

「崋山さん、よかったら座って。」
「あ、うん、ありがとう。」

教子が居なくなって、改めて2人きりなんだと自覚すると、妙にドキドキしてきた。この間の件が脳裏に過ってなんだか恥ずかしい。

「体調は大丈夫なの?」
「うん、ありがとう。」

心臓が高鳴っているのがわかる。なんでこんなに緊張してるのよ。

「崋山さんは何かある?どんなことがあったか教えてよ。」

崋山さんの事を聞かせて。乃亜の事を聞く人達ばかりだったから、その言葉だけで嬉しくなる。好きな食べ物や好きな科目、そんなありきたりな話をした。幸村は笑顔で頷いてくれて、こちらもつられて笑顔になった。

「ふふ、崋山さんの話って本当に面白いね。」
「そ、そう?普通だよ。」
「あ、崋山さん、ちょっと動かないでね。」
「え?」

幸村はそう言ってこちらに手を伸ばしてきた。頭の近くまで伸びてきて、咄嗟に目を閉じる。

「髪の毛にゴミがついてたよ。」
「あ、ありがとう。」
「サラサラだね。」

取れたよ、と幸村はゴミを捨てた。というかさりげなく髪の毛のこと言った?

「崋山さんの髪、ストレートですごく綺麗だよね。」
「あ・・・ありがとう。」

下を向いて髪の毛を整える。ふりをする。
おちつけ。髪を褒められただけだ。幸村レベルの美人さんに褒められたら照れるって。そう、跡部と一緒。
多分跡部に言われても照れる。イケメンの破壊力。美人の破壊力。

「お待たせしちゃってごめんなさい!・・・ことりちゃんどうしたの?」
「な、なんでもない。」

この感情がなんなのか、知っている。でも、そんなわけがない。そんなわけないのに、鼓動は速いままだった。











「あーーーー!!乃亜先輩じゃないっスかーっ!!」

病院の外にあるベンチで、浅めの眠りにつこうとしていたら、赤也の声が聞こえてきた。もう少しで眠れそうだったのに、少し残念だ。
赤也の後ろには、レギュラー陣が勢揃いしていた。そこには嫌そうな顔のブン太と仁王さんもしっかりいた。

「全然立海来てくれないから俺寂しかったんスよ!どうしてきてくれないんスか?!ていうかなんでここにいるんスか?!どっか悪いとか?!」
「いや、精市の見舞いだろう。」

一方的に喋り続ける赤也を止めたのは、やはりというべきか、世話役であろう柳だった。
頭を軽く叩くと、赤也は静かになった。ボタン式かなにかか。

「え、何、幸村君の見舞い?荒波1人で?」
「ちがうよー。ことりと教子が行ってる。」
「は?ことり?マジかよ・・・。」

ことりの名前が出た途端、ブン太が焦り出した。そして、「先行くわ!」と走り出してしまった。それをジャッカルが追いかけていった。

「荒波さんは行かれないのですか?」
「3人で行って、ゆっきぃが疲れたら悪いじゃん。」

とか言って、本当は合わせる顔がないだけなんだよな。抱きしめられて逃げてきちゃったし。
しかし柳生はそうですか、とだけ言って深くは聞いてこなかったので安心した。

仁王さんを盗み見ようとちらりと見たら、なぜか目が合ってしまい、慌ててそらした。

「すまないが、荒波と少し話をしたいから、皆は先に行っててくれないか。」

柳の言葉に赤也は駄々をこねていたが、真田に怒られて、大人しく連行されていた。もう一度仁王さんに目をやったが、今回は目は合わなかった。

「荒波は精市のことどう思ってるんだ?」

みんなが中に入った事を確認してから柳は言った。どう思ってるって何?良し悪し?

「どうって・・・いい人だよ。」
「・・・それだけか?」
「早くテニスできるようになればいいな、とは思ってる。」
「そうじゃない。」
「柳の言いたいことよくわからないんだけど。」

ずっと目を閉じてるし、表情も変わらないから、どうして欲しいのか、どう答えを出せばいいのか、正解がわからない。
それに、身長のせいもあると思うが、妙に威圧感を感じる。全てを見透かされていそうで気分が悪い。

「そうだな、単刀直入に言おう。精市はやめておけ。」
「は?」

本当に何を言っているんだ。

「ゆっきぃ?仁王さんじゃなくて?」
「・・そうだったな。仁王もおすすめはしない。」
「サボり魔は信用できないってこと?」

そうじゃない、と柳は言う。じゃあなんだって言うんだ。無理に否定しなくても良い。信用の無さはもう十分にわかっているし、怒られてるし。

「いつか元の世界に帰るのだから、恋に落ちるべきではない。」

いずれ傷つくぞ。
柳はそれだけ言って歩き出した。



恋に落ちるべきではない?

どうしてあたしにだけ言うんだよ。





prev / next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -