のううた | ナノ

意外とみんな見てるものよ

「あ、日吉君こんにちは。」

昼休みの図書室に行った帰り、大量の資料を持った佐倉さんに会った。朝練の時だって普通に挨拶をしたのに、いちいち律儀な人だ。

「どうも。」

3年の先輩方は屋上でみんなでご飯を食べているんじゃなかったか。それとも毎回ではないのか。

「日吉君は・・・図書室に帰り?」
「ええ、まあ。佐倉さんは何かおつかいですか?」

未確認生命体に出会うにはPart2の表紙を見せると、佐倉さんは何度か瞬きをしながら凝視した。さては、興味ありだな。

「えー・・と、部活の資料系を部室に持っていこうかなって。」
「昼休みにわざわざですか?後で部活の時で良くないですか?」

どうせ授業が終わればすぐに部活なのだから、その時に持っていけばいいのに。大事な昼休みを雑用に使うなんて勿体無くないか?

「うーん、そうなんだけど、私、ことりちゃんや乃亜ちゃんに比べて仕事が遅いから、せめてこういうことはやらないとなって思って。」

佐倉さんは真面目だ。馬鹿がつくほど。

「あの2人が早すぎるだけじゃありません?別に遅いとは思ったことありませんよ。」
「そうなのかな・・・。なんか日吉君に気を使わせちゃったね、ごめん。」

佐倉さんは十分に頑張っている。別にあの2人に劣っているとは思えない。友達だから、対等でいたいのか。性格も見た目もバラバラだと思うが。
それに、2人がいない時もマネージャーの仕事をやっているのを知ってる。

「手伝いますよ。」
「え?!大丈夫だよ!せっかくのお昼休みなのに。」

両手に抱えた山積みになった資料を半分よりも多めに奪い取る。佐倉さんは即奪い返そうとしてきたが、両手が塞がってて上手いこと取れないみたいだ。

「先輩が両手に荷物抱えてるのに、手伝わずスルーって、後輩としての在り方を問われそうですしね。」
「え!そんなことないよ!それに、私が勝手にやってることだし。」
「奇遇ですね。俺も勝手にやってるので、気にしないでください。」
「日吉君っ!」

こそこそ仕事をやっているのを、見かけるたびに声をかけてきた。しかし責任感が強いのか、頑固なのか、毎度毎度断られてしまった。そのあと見かけると、忍足さんやら滝さんが手伝ったりしてるんだよな。同級生だから頼めるのか、それとも言い負かされているのか。どちらにせよ釈然としない。
年下、というだけでこうも不利になるというのか。

「日吉君、本当に」
「佐倉さんがなんと言おうと持っていきますから。」

小走りでついてくる佐倉さんに言った。先輩は往生際が悪く、まだでも、と呟いている。

「かわいい後輩のわがままだと思って諦めてください。」

仕方ない。今回だけは不利な『後輩』ポジションを有効活用してやる。










「ねぇ跡部、今日の買い出しアタシが行ってくる。」
 
そう言うと、跡部はゆっくりとこちらを見た。

「いや、無理だろ。」
「は、なんでよ。」
「お前迷うだろ。」

失礼なやつだ。そう何度も迷子になるわけがないだろ。あれは四天宝寺に邪魔されたからだ。普段のアタシは落ち着いている。

「そんな毎回迷子になるわけないでしょ。」
「3回中2回迷ってたよな。」

ああ言えばこう言うやつだな!性格がひん曲がってやがる。なんて奴だ。
人の嫌がることをしてはいけない、と親から教わらなかったのか?親の顔が見てみたいわ。見たわ!めっちゃ美人だったわ。

「逆にさ?3回中の1回はちゃんと帰ってきてるんだから、その1回に賭ければいいじゃない。」
「崋山、胸張って言えることじゃねぇぞ、それ。」

正論すぎてぐうの音もでない。しかし、毎回教子だけが買い物担当っていうのはどうなのだろうか。毎回遠出させられてあの子も可哀想だ。

「崋山って、欠点なさそうなのに、可愛らしい弱点持ってるよな。」
「跡部だって完璧そうに見えて節足動物苦手とかいいギャップしてるじゃない。」
「それはお互い様だろうが。第一、あれを気持ち悪く思わない方がどうかしてるだろ。」

たしかに。乃亜が倒したって聞いて、耳を疑った。部室に残したアタシらも悪いけど。ていうか普通に袋に入れたまま持ってたし。・・・忘れよう。

「とにかく、行きたいなら誰か連れて行け。」
「バカね、部員連れてったら練習量減っちゃうでしょ。」
「誰も部員とは言ってねぇだろ。」

そう言った跡部の視線の先には、ボールのカゴを抱えた教子と乃亜。

「わかった。」

そこまでいうなら喜んで連れて行こうではないか。跡部に向かってにやりと口角を上げた。










「いただきます。」
「・・・美味。」

跡部に言われた通り、ことりはマネージャーを連れていった。

「うーん、おいしい!」
「チーズケーキ最高。」
「あたしもういいや。」

二人共。
人数指定はされていないはず。ただ、全員で行くな、と怒られそうだったので、跡部が居なくなった隙に行くことにした。

教子がいれば道案内は安心だ。思ったとおりすぐに終わったので、前回滝たちと行ったケーキ屋をリベンジしにきた。もちろん、制服に着替え直している。

「乃亜ちゃんもういいの?まだ2個しか食べてないよ?」
「いや、2個で十分じゃない?」
「そっか・・・残念。でも本当に私たちだけ先に部活終えちゃってよかったの?」

教子の問いにことり大きく頷いた。
彼女の言い分はこうだ。
いつも頑張ってくれているので、今回は3人で息抜きがてらケーキでも食べに行ってはどうだろう?
ただ、一つお願いがあって備品の発注書だけ、お店に渡して欲しい。翌日受け取りに行く、と。

特に何もない日にそんなことを言うだろうか、と2人は疑問を抱いたが、あまりにもことりが嬉しそうだったので、納得して今に至る。

ちなみにケーキの感想を跡部に述べたところ、無料券を3人分くれたので、本日の出費はない。期限も明日までだったので、タイミングも最高だ。

「やっぱり跡部君って優しいんだね。」

人のことを方向音痴みたいな言い方をする跡部が悪い。そう、跡部が悪い。

「実は私この間階段踏み外して転びそうになったんだけど、跡部君が助けてくれたの。」
「へぇ、跡部ってそんなことするんだ。」
「うん。ちょっとドキドキしちゃった。」

あの日は部活に遅れそうになってて、つい慌てて階段を降りていたら見事に一段踏み外してしまい、腕を引いて助けてくれた。バランスを崩して彼に密着してしまい、予想以上に近いとこに顔があってドキドキしてしまった。

「もしかして、跡部のこと好きになった?」
「えぇ?!まさか!」

乃亜ちゃんが不思議そうに聞いてきたので慌てて否定をした。

「確かに距離的にドキドキしたけど、それだけで好きにはならないと思うし・・・。」
「跡部は無理でしょ。」
「ドキドキしたのに?」
「うーん・・・説明しにくいけど、好意的なやつじゃないというか・・・。」

うまく説明できないけれど、乃亜ちゃんはふぅん?と納得できていないような顔をした。そもそも跡部君は違うというかなんというか。

「跡部君は、その、イケメンすぎてそういうのじゃないっていうか。」
「そうね、顔が良すぎてダメよね。」
「ことりちゃんに言われてもな。」
「なにそれ。」
「・・・そうなんだ。」

その後ゆっくりケーキを堪能して帰り、跡部君にこってり怒られた。




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