のううた | ナノ

気になるお年頃

丸井はアホなのか?
柳に言われた。ひどく、残念そうに。

「俺さ、自分で言うのもなんだけどさ、恋愛とかわりと敏感な方なのよ。」
「そ、そうなんだ。」
「なのに柳ってばよ。」

隣の教子は困った顔をしているが、しっかり返事を返してくれる。

「クラスの奴らが付き合いだしたら結構わかるし?誰が誰を好きとか見たらわかるし?だから柳にアホって言われて納得出来ねーっつーか?」

ポケットに入れていたガムを口にする。残念な事に、最後の一つなので、後でまた買いにいかなければならない。

「丸井君ってよく人のこと見てるってこと?」
「そ。こう見えて流行りとかにも詳しいぜぃ?」

ふふふ、と教子は楽しそうに笑った。教子とあまり話した事ないけど、教子もいい奴みたいだ。マネージャー業も一生懸命やってくれるし、性格もいかにも女子っぽい。

「赤也は、荒波にぞっこんだろぃ?って、それは誰でもわかるか。」
「あー、ずっと乃亜先輩乃亜先輩って言ってるもんね。今日もいないってわかった途端元気無くなってたし。」

初めて会ったときに、頭を撫でてもらったからだろう。実に単純な奴だ、と言いたいところだが、スキンシップは反則だ。
頭を触られてコロッと落ちたのがここにもう1人いるのだから。

「そりゃあ荒波ってよく見ると可愛いと思うけど、性格がなぁ。」

可愛ければなんでも許す、という言葉は嘘だろう。可愛かろうが、やって良いことと悪いことがある。

どうせ今日も赤也が、仁王先輩のせいですよ、乃亜先輩が来ないの!と仁王が理不尽に責められるんだろう。流石に少し同情してやらなくもない。確かに変わっているが、こうも拒否られては、流石の仁王も罪悪感を覚えるだろう。
俺には何も言ってこないが、柳や柳生には何かを言っているのを何度か見かけたことがある。

「仁王君と会った時はびっくりしたし、ちょっとサボり癖はあるけど、本当の乃亜ちゃんはすごく優しいんだよ。」

ジャッカルに会った時の彼女も相当だったが。とはいえ、今は普通なのだから、恋というものは偉大だ。

「教子どうなんだよ。」
「え?」
「ジャッカルと話さなくていいのか?」

俺だったら本当は、今すぐにでもことりのところに行きたい。さっき幸村君と何話してたんだ?と直球を投げる。仮に幸村君がライバルだとしたら、彼に勝てる手段は会話の頻度だろう。たくさん会話して、意識をこちらに向かせるしかない。俺のいいところをことりにたくさん見せるしかないのだ。
好きならば、諦めずにアピールしろ。

「いや・・・私のは、好きっていうか・・・その・・尊敬みたいなものかな?」

尊敬?大きな声で大好きです、とか言っていなかったか?けれど深掘りはやめておこう。暴走すると面倒だし。

「んじゃジャッカルは告られ損だ。」
「え?告られ?」

誰だってあんなこと言われたら意識すると思うけどな。




「おや、佐倉さん、丸井君、こんなところにいらしたんですか。」
「あ、柳生君。」
「おー、比呂士じゃん。」

こんな所とは、部室裏の水道場だ。そこで教子を見かけ、そのまま愚痴った。教子は嫌な顔ひとつせず、ドリンクボトルを洗いながら、うん、うん、と頷いてくれた。

「何かお手伝いしましょうか?」
「ううん、大丈夫。これは私たちマネージャーの仕事なので。」
「いえ、いつもは我々部員がやっていることですし。」

比呂士は慣れた手つきでボトルを洗い出す。ま、俺がずっと話しかけてたから教子の仕事が終わらないんだけどな。

「だったら、尚更私がやるよ!今日はマネージャーとしてきたし。マネージャーの仕事やらせて!」

比呂士か洗うボトルを奪う。比呂士は困りましたね、とさほど困ってなさそうな顔で言った。

「ではこういうのはどうですか?佐倉さんとお話をする口実として、一緒にやらせてください。」
「口実、ですか?」

おーい、教子、敬語移ってるぞ。ついでに手も止まってるぞ。

「お恥ずかしながら佐倉さんとお話をするのに、口実がないとお声をかけれなくて。」

そういうわりには全く恥ずかしそうじゃない。
しかしそこまでして、話したかったのか、と印象を与えることはできる。

「そんな・・・口実がなくても、私でよければ全然話すのに。」
「そう言っていただけると光栄です。次からは遠慮なくお声がけしますね。」

なるほど。比呂士は中々やる男みたいだ。口実作戦、か。でも俺はそういうまどろっこしいのはパス。
ちなみになんだかいい雰囲気だが、席を外すつもりはない。

「なあ比呂士。」
「はい?どうされました、丸井君。」
「お前、比呂士だよな?」
「・・・はい?」

なんか、妙にタイミングが良い。心配しなくても、俺にはそういうつもりはない。
さっきまで仁王の事いじめてたし、あいつならやり返してくるはずだ。とくに、良い雰囲気だったら、邪魔すると思う。俺がさっきやりたかったように。

「残念ながら、今回は本物ですよ。」

比呂士は少し悩んでから答えた。ん?待てよ。

「今回はってどういう意味だよ。」
「え?あっ・・・いえ。」

いつも冷静な比呂士が焦っている。じゃあマネージャーがいるどこかの日に仁王と入れ替わってたってことか。・・何の必要があって?

「比呂士も大変だな。」
「いえ、もう慣れましたので。」

俺のパートナーがジャッカルでつくづくよかったわ。

「仁王君って、試合の時以外も、変装するの?」
「・・・気ぃつけろよ、教子。アイツ、マジでタチが悪いから。」
「えっ?!」
「丸井君、佐倉さんを怖がらせてはいけませんよ。佐倉さん、確かに仁王君は部員に変装してはリアクションを楽しんでいますが、悪事はしませんよ。」

・・・比呂士、それはフォローしてるに入らない。寧ろ株を下げている。でもまぁ仁王だから良いか。何で女子と全く会話しないくせに俺よりもバレンタインのチョコ多くもらってんだよ。なにがミステリアスでかっこいい、だよ。考えてることが意味不明すぎるだけだろ。
箱を開けてみればすぐ「参謀」「柳生」だ。

「変装して、リアクションを楽しんでる・・。」
「あ、いえ、違うんです、佐倉さん。」
「人をからかって楽しむなんて!そういうの良くないよ!」

教子はわなわなと震えている。

「いや、ほら、教子。友達のノリってのがあるだろぃ?」
「ノリ?じゃあ例えば、私がことりちゃんに変装して丸井君のことからかったらどうするの?許せる?」
「え、あ、・・・う。」

頼むから辞めてくれ。もし口説いて、私、教子でーす。なんて言われてみろ?恥ずかしくて一生会えねーっつーの。

「乃亜ちゃんにも言っておかないと、仁王君はダメだって。」

ダメもなにも、仁王側がNG出してるから平気だろ。


「お、おったおった。佐倉、崋山が呼ん」
「この最低男っ!!」
「・・・は?」

教子は仁王を睨みつけてからコートへ戻っていった。

「な・・なんなんじゃ。」
「とりあえず謝っとくわ、わり。」





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