のううた | ナノ

部室に出てくるヤバイヤツ

「あのさ!」
「うおっ?!な、なんだよ崋山。」

部活終了後、テニス部は部室でダラダラと着替えていた。すると突然部屋のドアが開き、マネージャー達が入ってきた。

「ちょっといいかしら。」
「ノックくらいしろ、崋山。」
「いや、もう15分も経ってんのよ、流石に着替え終わってるでしょ。ってやだ!ジローちゃん?!」
「んー?あー、ごめんねー、俺まだなんだー。」

芥川以外は着替えを済ませていたが、彼はまだタンクトップとパンツ姿。

「え、いつもとほぼ変わらなくない?」
「えー?何ー?乃亜ー。」
「いや、べつに?」

小さくぼやいた乃亜に対し、芥川は笑顔で彼女の方へ足を進めるが、乃亜はゆっくりと教子を盾にして逃げる。

「えーと、あ、芥川君。と、とりあえず着替えたらどうかな?」
「・・・ちぇー。」

盾にされた教子は、芥川からの視線を逸らしながらも、苦笑いで彼を促す。

「で、なんだ。」

中央のソファーに腰かけたまま跡部が言うと、ことりは無言で跡部のところまで足を運ぶ。

「・・・アタシ、今朝、ここ通った時、見たの。」

声を殺して、ことりが言う。一瞬で部室が静まりかえる。

「は・・・は?み、みみみ見たって、何見たんだよ、崋山。」

動揺しながら向日は聞いて、そのまま忍足の後ろに隠れる。

「ことりちゃん、その、あの・・・み、見たって・・・」

ことりの真剣な顔に、教子は祈るように手を重ね、彼女に問いた。ことりは静かに頷いた。

「今日はアタシが鍵当番だったから、皆より先に部室行ったでしょ?そしたら、いたの。」
「い、いやいや待てよ、崋山、それ以上は言うな!」
「そ、そうですよ、あ、あの、一回落ち着きましょう?!」

静かに言うことりを向日、鳳が制止する。
一方の教子は、やだぁ、と小さい声を漏らしていた。

「なんで止めるんだ、鳳。崋山さん、続けてください。」
「うーん・・・俺はちょっと聞くの怖いかな。」
「え?俺は聞きたいCー!」

少し嫌そうな滝とは逆で、芥川は興味ありげに身を乗り出した。

「荒波さんはそう言うの大丈夫なん?」
「え?だって、そもそも。」

忍足の問いに、乃亜は小首を傾げている。

「そりゃあアタシだって!信じたくなかったわよ!だって・・・朝だったし?こんな所で見るなんて思わないじゃないの!」
「そ、そう思うなら俺らに強要させようとすんなよ!寝れなくなったらどーすんだよ!!」
「向日、俺のまくら貸したげよっかー?低反発。」
「そう言う問題じゃねーんだよ!」

ことりが口を開くたびに、向日は半分涙目で訴えてくる。教子は耳を塞いで「あー、あー、」と聞こえないように徹していた。乃亜は辺りを見渡している。

「か、崋山先輩、佐倉先輩が怖がってますし・・・その。」
「チョタも怖がってやんのー!」
「こらジロー、茶化すんじゃねーよ。」

鳳も、教子と同じく両手を重ねて祈り始める。よほど面白いのか、芥川は指を刺して笑い、それを宍戸が軽く止める。

「なんでアタシ1人が背負わなきゃいけないのよ!元々あんた達の部室なんだから、あんた達が片付けるのが筋じゃないの?!」
「片付けられるわけねーだろ!!」
「とにかくアタシは絶対に嫌だから!今日中に片付けてよね!!」
「いや、無理だろ!!」

ことりと向日が言い合う中、日吉はどこか嬉しそうにしていた。すると跡部はため息を吐きながら、席を立った。そして首を回しながら、ゆっくりと歩く。

「片付けるも何も、一体崋山は何が言いてぇんだ。」
「くそくそ跡部、わざわざ言わせる気かよ!」
「そ、そうだよ跡部君!人が嫌がることはやっちゃいけないんだよ?!」
「・・・何言ってんだ佐倉。」

跡部の言葉に、向日と教子が止めに入る。後ろで鳳が大きく頷いていた。

「おい、向日も佐倉も何言ってやがる。まさか幽「わーっ!!」・・・おい。」

呆れながら言う跡部を教子は遮った。そんな教子に跡部はため息を吐いて首を掻いた。

「やめて!お願い!これ以上は言わないで!」
「いや、そもそも幽」「いやー!!」
「佐倉さん、落ち「無理ぃー!!」・・・そ、そう。」

もう、それに関わる単語すら聞きたくないのか、跡部や滝が宥めようとしても、悲鳴しか上げない。

「女の子やね、佐倉さん。」
「・・・あそこまで怖がっちゃったら大変そうだね。」

怖がっている教子を忍足は優しい目で見ていた。そんな忍足の横で、乃亜は教子に言う。

「教子、多分、思ってるのと違うと思うよ。」
「何が?!一体何が違うっていうの?!」
「え?だから。」
「ことりちゃんの言うそれが、私の言うあれでは無いと言うのなら、乃亜ちゃんそれをわかるように証明してよ!」
「佐倉さん、荒波さんの首が・・・」

恐怖のあまりキャパオーバーした教子は乃亜の肩を掴んで力強く揺さぶる。滝が慌てて2人の間に入り止めるも、教子は泣きそうな目をしている。

「いたたたた。まずさ、教子の言ってるやつだとしたら、片付けるって表現は違うと思うんだよね。そもそもただの中学生のあたしらには何もできなくない?」
「そ・・・そうだけど。」
「それに、ことりはもし見たとしても、あ、見えたわ、のタイプだし。」
「そうね。」

先程まで騒いでいたことりは静かに肯定した。どうやら今は落ち着いたようだった。

「あれ?崋山さん、もう大丈夫なの?」
「なんか、教子見てたら落ち着いた。」
「えぇ・・・じゃ、じゃあことりちゃんは一体なんの話をしてたの?」

すっかり落ち着いたことりを見て、教子も落ち着こうと深呼吸をした。

「そ、それは・・・。」
「は?お化けじゃねーのかよ。紛らわしい言い方すんなよ!」
「何よ、別に誰も幽霊だなんて言ってないでしょ。」
「そうだね。あと、あそこにいるし。」

勘違いして怯えていた向日は、恥ずかしさを誤魔化すため、ことりに八つ当たりを試みるも、言い返されてしまう。それを乃亜は無視して、奥を指差す。

そこには黒い大きな塊があった。

「「いやぁああ!!」」
「あー、ゴキじゃん。」

ことりと教子が悲鳴を上げて扉のほうへ避難する。そこには既に跡部が立っていた。

「いいかてめーら、ソイツを倒すまで出て来んじゃねーぞ。」
「は?」
「ちょっと待ちなさい跡部!」
「わ、私もっ!」

跡部は捨て台詞を吐くと、部室の扉に手をかけた。それを見たことりは教子の手を取り、跡部のジャージを掴みながらついていく。
跡部は扉を開けると、2人を連れて素早く出て行った。その速さ、ものの5秒。

「・・・はぁあああ?!おい、跡部!崋山!何してんだよ!」

状況をいち早く理解した向日は扉を押したが、ピクリともしない。多分、3人で扉に寄っかかっているのだろう。他のメンバーも言葉を失ってしまった。

「ちょっと待てよ跡部、佐倉と崋山だけ外出すなよ。荒波はどうすんだよ。」
「今開けて、奴が飛んできたらどーすんだ!俺は節足動物が大嫌いなんだ!」
「くそくそ跡部偉そうに言ってんじゃねーよ!」
「せやで跡部。だいぶダサいで。」
「苦手なものにダサいも何もねぇだろ!開けて欲しいならさっさと片付けやがれ!」

先程までの冷静さが嘘のようだった。
跡部も取り乱すんだ、とことりと教子は驚きつつも、扉を押さえることに必死だ。

「なんか少しずつ動いてんなとは思ったけど、跡部の野郎絶対わかってたよな。」
「もうここは諦めて倒すべきだよね。申し訳ないけど、俺は無理だな。」
「堪忍な、俺もパスや。」
「えー、萩も忍足もダメなのー?じゃあ宍戸よろしくー。」
「はあ?!俺がやんのかよ!」

3年は冷静に会話をしながら、やんわりと譲り合いを始めていた。

「え、だって、萩も忍足も似合わないもんね。向日はくそくそうるさいし。」
「はあ?!俺がいつくそくそ言ったんだよ!」
「ずっと言ってるCー。ボキャブラリーねーのかよー。」
「ぼきゃ・・・?うるせーな!」
「宍戸さん、お、俺がやりますよ!」
「何言ってんだ長太郎、震えてんじゃねーか。」

先輩の手を煩わせるなんて!
鳳は震える手で上履きを持とうとする。
しかしそれを宍戸が止め、自分の上履きを掴んだ。

「そうだよチョタ。宍戸がやってくれるよ。なんか、似合ってるし。」
「おい、滝それどう言う意味だよ。」
「萩の言ってること俺わかるー。」
「俺も。」
「満場一致やで、宍戸。ほな頼むわ。」
「やらねぇとは言ってねぇけど言い方が腹立つんだよな。」

同級生たちの裏切りに合いながらも、宍戸は目標に目を向けたが、それと同時に、バン、と強く叩く音が響いた。

「・・・荒波さん?」
「倒したよ。」

乃亜は手際よく、それを袋へ入れ、口を結ぶ。

「なんか、お腹すいちゃった。」

終わったよー、と乃亜が扉を叩くのを見ながら、よくそれをした後にお腹すいたと言えるな、とレギュラー陣は軽く引いたのであった。



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