Dear親友様
ーーー『どうしてあんな不良娘に勝てないの!』
ーーー『交友関係見直したほうがいいんじゃない?』
違うよ。悪い子じゃないんだよ。影響なんてされてない。
だから、彼女のこと、悪く言わないで。
「ごめんね、忍足君も滝君も。買い物つき合わせちゃって。」
「気にせんでええよ。女の子が持てる量じゃあらへんし。」
「そうだよ、佐倉さん。今日はオフだし、いいのいいの。」
今日は部活がオフの日だった。まっすぐ帰っても良かったけれど、昨日、跡部君がそろそろ備品を足さなきゃ、と言っていたのを思い出した。
本当だったら、乃亜ちゃんとことりちゃんとカフェにでも行こうと思ったけれど、いつでもいけると思ったので、買い出しを名乗り出た。
リストを渡すだけでもいいみたいだったけど、最近筋トレをしていないので、筋トレついでにと思った。
下駄箱で忍足君と滝君と出会い、今日の予定を聞かれて説明したら、一緒に行ってくれることになった。自分たちで使うものだから、自分たちで運ぶって。
「本当にありがとう。しかも重たい方ばかり持たせてしまって・・・。」
「ええよ。姉貴にも、重たいもんは男が持つもん、って散々持たされとるし。」
「俺も俺も。父親によく、男女は力の差が違うからってよく言われたし。ほら、そこまで重くない。」
滝君は笑顔で荷物を軽々と上に上げる。
そんなさりげなく、その、紳士的なことできる人ってそんないないと思う。
本当に2人とも頼りになる。
私は姉妹だったから、各々でって感じだったな。
「で、でもやっぱり悪」
「佐倉さん。」
「は、はい!」
「男っちゅーんは、頼られると調子乗る生き物やから、わぁ、ありがとう。でええの。」
もう一度同じことを言おうとしたら、忍足君に止められてしまった。多分まだこの話を引っ張っても同じことの繰り返しだろうから、もうおしまいにしよう。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
もう一度言えば、2人はまた笑顔で返事をしてくれた。
「でもさ、珍しいね。佐倉さん1人なの。」
「ことりちゃんは本屋に寄るって。乃亜ちゃんは先に帰っちゃったんだ。」
「崋山さん、本屋か。読書好きなのかな。」
「ことりちゃん、最近お菓子作りにハマってるって言ってたからお菓子関連の本買いに行ったんだと思う。」
親がご飯作らない人だからー、と前に聞いたことがある。だからことりちゃんが作るしかなくて、それで上達したんだって。そしたら楽しくなってお菓子も作り始めたって。
「女の子やなぁ。」
「合宿の時のご飯、美味しかったよね。」
「中学生で、料理が上手とか、ええお嫁さんになれそうやな。」
「・・・どしたの、忍足突然。」
お嫁さん・・・はまだ早いんじゃないかな。たしかに家事全般得意で、美人でスタイル良くて頭も良くて。
「うっ。」
「え、どうしたの佐倉さん。」
「う、ううん。なんでもない。」
すごいなぁ、ことりちゃん。私とじゃ天と地の差だよ。いいもん。逆にこんな美人さんと私友達だよ、羨ましいでしょって開き直ってやる。羨ましい。
「そういえば荒波さんも最近変わったよね。」
滝君の言葉に私は頷いた。
最近、部活中にいなくなることがなくなった。前は、早く終わらせて、部室裏とかで寝てたりしたのに。終わったら戻ってくるようになった。仕事は相変わらず速いけど。
あと、跡部君とよく話してる。
嫌い!とか言ってたけど。
「跡部から仕事もらいに行ってるで。跡部も跡部で生徒会のこと頼んどったのは驚いたわ。」
「整理整頓でしょ?俺たちが言ったら断るのにね。」
そっか。仕事もらいに行ってたんだ。
「ジローみたいに睡眠欲が強いのかと思ったけど、最初だけだったのかな。」
「でも、前よりも部屋に戻る時間がすごく早くなったから、早く寝てるのかも。」
「宍戸の次は岳人がなんか言っとったし、崋山さんも怒っとったから、寝ないようにしてるんやろな。」
部活はやっていているけど、眠そうなのは目を見ればわかった。
「・・・確かに、むかついちゃうかもね。ちゃんとやってる人からしたら。」
そう言ったら、忍足君も滝君も黙ってしまった。
四天宝寺の人たちが来た時も、立海に行った時も、きちんと仕事をしていたかと言われれば、胸を張って肯定は出来ない。やっていたけど、楽していた時間もある。白石君の手当をすると言って、保健室でそのまま寝てしまった。立海では仁王君がいないからと、前半はどこかに行ってしまった。
冷静に考えれば、部員に対して失礼だ。一生懸命やってる部員に対して。だから、ことりちゃんが怒るのだって、心の中ではわかっていた。
「それでも乃亜ちゃんは、私にとってすごく大事な人なの。」
もしここで、テニス部の人を敵に回すことになっても、私は乃亜ちゃんにつく。
「私ね、親が勉強勉強ってうるさい人でね。学歴こそが全てって教えられてきたの。」
母は高校教師、父は塾長。立派な職に就くには、勉強をしっかり。常に上位に、と。
姉も妹も元々頭が良かったから2人はずっと上位にいた。
「だから、ずっと勉強ばっかりで、小学校の時のあだ名、勉強虫だった。」
最初は塾を理由に断っていた。100点取るまで遊びに行くことは許されなかった。断り続けていたら、話かけられることもなくなった。
あいつは勉強しか頭にないから、遊んでもつまらない、と。暗い、と。
あの時は凄く辛かった。
「中学でも、友達なんか出来ないまま、何も変わらないって思ってたんだけど、乃亜ちゃんに会った。」
姉が一個上の学年で、生徒会で成績も1位で。そのことを、親、クラスメイトにまで言われていた。だからまた勉強漬けの毎日だった。剣道部だって、親に言われて入った。そこにも姉がいたので、比べられた。
友達作りは苦手だった。どうせまたつまらない、と言われると思った。そのことに怯え、自分からも声をかけることが出来ず、当然、友達はできなかった。
「1年生の時に同じクラスになって、突然言われたの。息抜きも大事だよって。」
ーーー『 佐倉さん、ずーっと参考書とか教科書睨んでるじゃん。息抜きも大事だよ。 』
息抜きしながらでもできるよ。
そう言われても困った。私は姉や妹と違い、優秀ではないから、2人の倍努力しなきゃいけなかった。じゃないと両親の期待に応えられなかったから。両親が、勉強は大事な事と、ずっと言っていた。その意味はわかっていたし、他の人たちだってそうだと思っていた。両立は不可能、なんだと。
でも乃亜ちゃんは違った。
遊ぶ時は遊んでいた。それでも常に上位にいた。何度も1位を取っていた。
私が遊ばずに必死にやっていた勉強を、遊びながら超えていった。
「部活やって、放課後遊びに行ったりして、それでも学力テスト1位なんて、すごいなって思ったの。」
同時に悔しい気持ちもあった。
根っからの天才なのかなとも思った。
だけれど、同じ塾に通っていることを知った。天才では無かった。努力の人だった。
ダメ元で勉強方法を聞いてみた。
乃亜ちゃんは驚いた顔をしていたけれど、笑顔で教えてくれた。乃亜ちゃんの勉強方法は効率が良く、やりやすかった。
そうしたらやっと勉強に余裕が出来て、他の人とも話せるようになった。それから少しして、ことりちゃんを紹介された。美人な子がいる、と噂だけは聞いていた。
ことりちゃんも凄くいい人だった。一緒に勉強したり、買い物に行ったり。私が行ったことのないような場所に一緒に行ってくれたり、手作りのアクセサリーをくれた。
3年になるまで、乃亜ちゃんを抜くことは出来なかったけれど、勝てないと自覚していた。それでも、話しかけてくれたこと、友達になってくれたこと、それが凄く凄く嬉しかった。乃亜ちゃんがいなかったら、きっと私は中学3年間、勉強虫のままだったかもしれない。
3年になってから、部活や生徒会で前よりも遊ぶ回数が減ってしまったけれど。乃亜ちゃんは少し変わってしまったけれど。あなたのおかげで今の私がいる。
家族には乃亜ちゃんと関わることを反対されているけれど、それでもわたしに取っては1番の友達だ。
明るく元気で誰からも好かれる乃亜ちゃん。いつも私の話を聞いてくれて、色々教えてくれることりちゃん。
「2人とも、大事な親友、なの。」
みんなにも、伝わるといいな。
滝君と忍足君は、笑顔で そうだね と言ってくれた。
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