のううた | ナノ

かわいそうなこ



「傷つくなら大口叩かなきゃいいだろ。」

次の時間は体育だ。
確かに着替える時間は必要だが、教室に戻るにはまだ時間はあった。

「なにが。」

目を合わせる事もなく、2、3歩先をコイツは歩いていた。いつもは場に似つかない愛想笑いを振り撒いて、崋山に呆れられているのに、今日は余裕がないのだろうか。

「努力してんのかは知らねーが、相手してるだけバカみたい、はちょっと言い過ぎだと思うぜ。」
「・・・よく言うよ。跡部だってそう思ってるんでしょ。」

一度足を止めたが、すぐに歩き始める。
頭は動かさず前だけを見ている。

「まだ会ってそこまで日が経ってねぇのに好き嫌いなんてあるかよ。お前らのことまだ全然知らねぇんだぜ。」
「・・・向日も宍戸もあたしの事嫌いみたいだけど。」
「向日は感情で動くからな。宍戸はもう違ぇだろ。」
「どうだか。」

どうやら俺はコイツに嫌われているらしい。だからか、いつもみたいなテンションは無く、冷たく言い放ってくる。
それはそれで、コイツの表の部分だとは思う。

「習ったことは間違えないよ・・・必死に勉強したんだから。」
「お前優等生だったのか?」
「・・・最初はね。」

それだけ言って足を止めた。
俯いて床を見つめている。

「どうした。」
「・・・1番じゃなきゃ意味なかったから。」
「なんでだ。」
「あ・・・でももういいのか。」
「おい。」

一点を見つめてボソボソと呟いた。かと思えばなにかすっきりしたのか、笑顔でこちらを見た。

「授業中寝てるでしょ?あれ結構内申に響くんだよね。だからせめてテストは1位取らないと。」
「・・・は?」
「ま、それも受験の日に行けなくておじゃんになっちゃったけど!」

傷ついていたことなどまるで本当に無かったかのように、笑顔で話し続ける。

「まて、順を追って話せ。」
「・・・ねぇ、跡部。」
「おい話を聞け。」

何度か話を遮っても、構わず続ける。掌を重ね合わせてそれをずっと握っている。自分の体温でも確認しているのだろうか。

「独り言だと思って無視して欲しいんだけど。」

そう言って、自分の手を見つめている。
ここで口を挟めば、コイツの事を、謎のままで終わってしまいそうだったので、コイツの目の前に立つことで肯定を表した。

「・・・褒められたくて1位を取ってた。何回も何回も。一生懸命勉強して。」

視線だけ、俺の足元を見ていたが、すぐに目を閉じて、話を続ける。

「でも、別に眼中にはなくて、優等生は意味ないんだなって思った。だったら逆に不真面目になれば注意してくれるのかなって、思った。それもとくに何もなくて、何も言われなかった。」

佐倉が、コイツは金髪に染めている、と言っていた。それも少し落ちかかってて、まるでプリン状態で綺麗とは言い難い。オシャレで染めているわけではなくて、ただその時染めただけだとしたら。染めて、不良っぽく演じたってのか?

「もしかして私の名前知らないんじゃないかな、とさえ思った。だって呼ばれた記憶ないもん。もし何かやったりしたら、あの人が出てきて・・・それで・・・。」

突然言い留まる。視線だけを移せば、少し泣きそう顔と目が合った。慌てて視線を床に戻し、何度か呼吸を整えている。

「・・・まるで荒波乃亜なんて初めからいなかったように、1日が過ぎ、また朝になる。確かに荒波の表札の家があって、荒波乃亜って書かれた生徒手帳だってある。部活のグループラインにだって乃亜って名前が存在するのに、荒波家の中にはいないんだよ。」

優等生になっても褒めてもらえず、悪いことをしても叱ってもらえない。
1番認めてもらいたい両親には認めてもらえず、『存在していない』で片付けてしまう脳。
プレゼントをもらったことがない、と言った。捻くれてるだけかと思っていたが、存在の消失から何も信じられないのではないのだろうか。

「頑張って存在をアピールしたのに、無駄だったんだよ。それなのに、まだ1位にならなきゃって思ってる。そしたら褒めてくれるかなって。ここにはいないのにね。・・・頭が悪いんだよ、この【荒波乃亜】って人は。」

何度主張したのだろうか。
主張しなければならかったのか。
唯一の味方になるべき存在ではないのだろうか。親というものは。

「ネグレクトか。」
「違う違う。そもそも存在しないんだから。」

またいつもの愛想笑いを振りまきながら首を振って否定する。肯定すれば、より惨めになる。

「何言ってやがる。お前今俺の目の前にいるだろ。話してる。他のやつとだって話してる。いないわけねぇだろ。」

何年も、自分の存在を否定してきたというのなら、こんな言葉など意味はないのだろう。

「お母さんが生きてれば・・・」
「・・・」
「・・・あっ、」

目を伏せながら漏らした言葉を、聞き逃すはずがない。しかしバツが悪そうに目線を泳がせた。

「お前の家庭事情はしらねぇが、存在自体否定すんじゃねぇ。大切な仲間がいるんじゃねーのかよ。そいつらは少なくともお前のこと必要としてんじゃねーの。」

「・・・してない」
「は?」
「必要となんかしてない。・・・友達なんかじゃない。」


否定したいような、肯定してもらいたいような、なんとも言えない顔で、首を振った。











prev / next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -