のううた | ナノ

おひるやすみ

明るく元気で優しくて。
頭の良い人気者。

「テストの順位見たか?」
「あー、見た見た。アタシ、忍足よりも跡部の方が頭いいと思ってたわ。」

宍戸君とことりちゃんがお弁当をつつきながら言った。
中間試験が終わった。この間ゴールデンウィークが終わったばっかりだったのに。
もうこの世界に来て、何日経ったのだろうか。
鈴ノ宮も中々のお嬢様校だったけれど、やはり氷帝は比じゃない。
もう、「あら、ご機嫌よう」とか女子生徒に言われたりする。少し焦る。
紳士淑女育成校なのかな・・・。やっぱり慣れないし、ちょっと恥ずかしいよね、ご機嫌よう、なんて。

「アーン?完璧な人間なんていねぇんだよ。」

跡部君はそう答えて、重箱の中をつつく。
いやいや、跡部君、私からしてみれば貴方は完璧な人だと思う。

頭も良くて、人望もあって、すごくお金持ち。最後のやつは彼の力ではないけれど。
それでも嫌な顔ひとつせず、私たちを家に置いてくれるし。

200人はいるテニス部員を束ねる部長だけあって、洞察力も鋭くて、世話焼き。

「まあ跡部は部長の仕事も生徒会長もやってるし、大変なんやろ。」

忍足君がフォローに入る。
確かに。私も生徒会と部活で大変だったなぁ。ま、どちらも副の方だけど。でも勉強も遅れを取らないように塾も通ってた。お父さん塾長だったし。お母さんは教師だから、家じゃずっと勉強だった。・・・それでも1位にはなれなかったなぁ。

「は?別に忙しくねぇよ。余裕だ。」
「なんでそこで見栄張るんや。」

あくまでも忙しいとは言いたくないんだな。わかるけれど。順位が低いのを、部活や生徒会のせいにはしたくない。

「跡部、嘘でも忙しいって言ってくれないと。跡部よりも暇な俺たちが恥ずかしくなっちゃうよ。」

滝君が困った顔をしながら言った。確かに、跡部君は私達が仕事終わった後にも色々やっているみたい。イベント行事の考案とか、お金持ちならではの家のこととかもあるみたいだし。
この間の立海に助っ人行った時のやり取りも彼だもんね。

「滝大丈夫よ。ここに努力してる姿勢すら見せない奴がいるから。」

ことりちゃんが乃亜ちゃんを指差す。彼女は相変わらず、体育座りで顔を埋めていた。15分はあの体制だから、多分寝てるんだろうな。

「それな!こいついつも寝てんのに、なんで3位なんだよ。」

向日君が納得のいかない顔で告げた。
試験の順位は、上から忍足君、跡部君、乃亜ちゃん。
私とことりちゃんはというと、20番代あたりをうろうろしていた。
特に英語が進んでるの。選択にギリシャ語があったよ。取らなかったけどね。英語は私達が習ったとこより少し進んでた。

「あぁ、荒波さん、すごいよね。」
「授業中は爆睡してるけどな。」

滝君の関心の目とは裏腹に、隣に座る跡部君は呆れた顔をしていた。

「は?もしかして毎回寝てんのか?それで順位そこまで行くか普通。」
「いや、たまに起きて黒板だけ写してすぐ寝る。」

宍戸君は驚いた顔で乃亜ちゃんを見つめていた。そうなんだ・・・相変わらず寝てるんだ。

「ハイスペックかよ。」
「・・勘違いされたら困るけど、あたしら君たちより1年進んでるからね?前回正解したんだから、間違えないよ。英語は鈴ノ宮より進んでたからわからなかったけど。」
「うわ、ウゼー。」

乃亜ちゃんは伸びをしてから跡部君の箸を強奪する。
それを見た跡部君は、取り皿を渡した。
相変わらず乃亜ちゃんは食事量が少ない。でも最近、夜はパフェを食べている。
糖尿病になっちゃうよ。
流石に跡部君に「主食を食わないなら甘いものは禁止だ」と怒られていた。
それ以来、夜だけでも少し食べている。
今日はお昼から食べるみたいだから安心した。

「でも三位だよ。すごいね荒波さん。」
「・・・まぁね。見えないとこで努力してるから。」
「学校でも家でも寝てるのに?夢の中で勉強してるとでも言うわけ?」

純粋に感心している滝君に対して、乃亜ちゃんはさほど嬉しそうではなかった。それに対して、ことりちゃんは呆れたように言う。

「あ!それ良いかもね!夢の中でめっちゃ勉強してるー」
「マジふざけたこと言ってんなよウゼェ。」
「ま、まぁまぁ、向日君!」

向日君は乃亜ちゃんの事、あまり好きじゃないみたい。確かに、四天宝寺が来た時も、遠山君に連れられていなくなっちゃったし、それは年上である乃亜ちゃんが止めるべきだったけど。その後も白石君を手当てするから保健室に向かったらしいけど、寝ちゃったって言われたし。
作業が終わったら昼寝してるし・・・。
もう少し真面目にやってくれ、って言うのもわかる。それはわかる。
でも、乃亜ちゃんは。
それでも乃亜ちゃんは私の大事な友達だ。

「いいよ、向日。真面目に相手してるアタシらが馬鹿みたいだから、ほっときな。」

乃亜ちゃんを睨む向日君の肩をことりちゃんが叩く。

ことりちゃんの言葉に乃亜ちゃんは一瞬動きを止めたが、本当に一瞬だった。そして、黒豆を箸で取る。

「豆かいな!」
「え、何忍足。」
「荒波さん今日はご飯食べるやん、って思ったのに黒豆って拍子抜けしてもうたわ。」
「おい、米も食え。」

ついつい口を挟んでしまった忍足君に、乃亜ちゃんは大して気にしてないようで、ふーん、と短く返事だけした。
それに対して跡部君は乃亜ちゃんのお皿に小さいおにぎりを一つ乗せる。

「げ、やめろ!」
「言葉遣いが悪いぞ。増やされてぇのか。」
「はぁ?!いつもこんな言葉つ・・・もう!」

反論している乃亜ちゃんを他所に、跡部君はおかずを2、3品乗せ始めた。
それをみた乃亜ちゃんはもう何も言わずに、嫌そうに食べ始めた。

「多いよ跡部。」
「どう見てもすくねーだろ、幼児の量だ。」
「はいはい乃亜さん5歳。・・・ジャッカル元気かな」
「黒豆で桑原を連想すんのやめろ。」

そうだよ乃亜ちゃん。
ジャッカル君はそんなに黒くない。

「また行きたいなぁ・・・」
「は!?」
「え?」

向日君に驚かれてしまった。
だってまた行きたくなっちゃった。
真田君も怖い人だと思ってたけど凄くいい人だったし。
それに向こうはマネージャーいないみたいだし、大変そうだからたまには助っ人に行きたい。私なんかでよければなんだけど。

「教子は大事なマネージャーだし!しっかり仕事してくれるし!荒波いかせろよ!」
「はー?何いきなり。喜んで行くし。」
「お前はダメだ暴走女。」
「はいー?ちょっと失礼すぎませんかねー、跡部さん。」

向日君が褒めてくれるのは嬉しいけど、乃亜ちゃんと跡部君が喧嘩しそうなのはちょっと嫌だな。

「お前の携帯は俺が預かってんの忘れてねぇだろうな?消してやってもいいんだぜ?画像」
「!!!」

跡部君が乃亜ちゃんに何かを耳打ちしたけれど、そこは聞き取れなかったか。みんなわからなかったみたいで、不思議そうな顔をしている。
乃亜ちゃんだけが驚いた顔で跡部君を睨んでいた。

「鬼!悪魔!赤也!」
「アーン?なんで切原が出てくる。」

乃亜ちゃんは跡部君を睨んだまま、残ったご飯を食べだした。

「じゃあアタシが行って来ようか?」
「え?!崋山さんが?!」

今度は滝君が驚いていた。

「別にいいよ。幸村いなくて大変らしいし。アタシは教子や乃亜みたいに暴走しないから。」
「うぅ。あれは最初だけだよ、ことりちゃん。」

あれはたまたま感極まった、というか。だって生身で動いてるんだよ?!そりゃあテンションも上がるよ!それに乃亜ちゃんほどじゃないよ。

「ことりでいいんじゃないのー?あたしはパスー。」
「珍しいやん。仁王好きや言うてへんかった?」

今回は興味なさそうな乃亜ちゃんに、忍足君は首を傾げた。
そうだよね、仁王さん仁王さん!って仁王君のことすごい好きだと思ったんだけど。

「あたしが行ったところで、別に誰も喜ばないんだし、だったらテキパキ仕事することりか教子でいいんじゃないの?みんなと仲よかったし。」

ごちそうさま、と乃亜ちゃんは跡部のお茶を奪い取った。
そして立ち上がって荷物を持つ。

「帰んのか?荒波」
「うん。次体育だからね。」
「あ、そうだったな。俺も出る。」

そう言って跡部君は立ち上がる。

「あ、私これ片付けとくね!行ってらっしゃい。」

広げてある重箱を片付け始める。
ことりちゃんもお茶を飲む手を止め、手伝ってくれる。

「悪いな。」
「ありがとー教子。体育は寝れないからめんどくさいなー。」

乃亜ちゃんあくびをしながら出て行ってしまった。

「・・・乃亜ちゃん、今日変だったね。」
「・・・そう?いつも通りでしょ。」

お皿を片付けながら、閉じられた扉を見つめた。

明るく元気で優しくて。
頭のいい人気者。
孤立していた私に声をかけてくれた。
大事な友達。
私の憧れ。





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