すべてのはじまり
もしも・・もしも願いが叶うとしたら。あなたは何を願いますか?
・・・私は。
放課後、3人の少女達は学校の屋上にいた。帰ろう、とは思っているのだが、2人が、目を覚まさない。佐倉教子はため息をついた。読んでいた本を一旦閉じる。
「ことりちゃん、乃亜ちゃん、そろそろ帰ろう?」
教子は横で寝息を立てている崋山ことり、荒波乃亜を軽く揺さぶった。
「・・・んー。やばい、ガチ寝してたわ。」
ことりがのそのそと身体を起こす。おはよう、と教子は笑う。普段はふらふら歩きながらどこかでしゃべりこむのだが、今日は天気がいいから、屋上で喋ってから帰ろう、と話をしていた。とりあえず今日話した内容は、来週、動物園に行こう、という遊びの約束。
「天気いいからね。寝ちゃうね。」
「ん。なんか変な夢見たんだよね。」
「あ、それ、あたしも見た。」
いつの間にか身を覚ました乃亜が、教子、ことりに次いで言った。
「なんかねー、テニプリのゆっきぃでてきた。」
ヘアバンドの人だよ、と乃亜は付け足して言う。やけに鮮明に覚えている、あの顔。
「あー・・・あれが幸村。」
ことりが続けて言う。乃亜の説明と、夢に出て来た人物は同じみたいだ。・・・と言うことは、
「病室?」「病室。」
ことりが問えば、乃亜はすぐに答えた。
同じ夢だろうか?あの切ない顔。なんてリアルな夢なんだ。
ことりと乃亜が目を合わせる。
「このさみしい世界に・・・」
「・・・色が入ってくれたら。」
乃亜とことりが続けて言う。そしてすぐに驚いた顔をする。夢で言っていた言葉だ。一部一句間違いがない。
本当に同じ夢を見ていたのだろうか。ということは、だ。
「「このさみしい世界に、色が入ってくれたら。もしこの声が届くのなら。」」
もしも、この声が、届くのなら。
「「今すぐ逢いに来て・・・」」
夢の中で、彼はそう言っていた。あの病室で、下を向いて。すごく切なそうに、悲しそうに、泣いていたかは、わからないけれど。
「凄いね!二人とも同じ夢をみ・・!」
ているなんて、
そう続けようとして、教子の言葉は止まる。目の前の2人が光出しているからだ。
「え?えっ?!な、なにこれっ?!」
乃亜が焦った顔をする。2人の身体は徐々に薄れていく。
「乃亜ちゃん?!ことりちゃん?!どうしたの?!」
「わ、わかんないよ!ただゆっきぃのセリフを復唱しただけだよっ!」
乃亜が泣きそうな声で言う。その間にも2人の身体は薄れていく。足が消え始めた頃、ことりが冷静に口を開いた。
「ねぇ・・・これってさぁ」
しかしそれは2人の耳には入らない。
「え?ね、ねぇ!どうして教子は光ってないの?何でっ?!」
「わ、わからないよ!何で2人だけなの?その幸村君の台詞に何か効果でもあるの?!」
乃亜も教子も泣きそうだ。ことりはまさか、などと疑問を浮かべている。幸村の言葉が、実現する・・・のか?
「ま・・・待ってよ二人とも!!行かないで!!!」
不安になった教子が、2人の手を掴んだ瞬間・・・
3人の少女が、この世界から姿を消した。
小説で読んだことがある。病弱な少年の元に、異世界から少女がやってくる。少女は少年を励まして、少年は病気に立ち向かう。
彼は彼女に恋をして、彼女も彼に恋をしていて・・・。彼の病気が 治った時、彼女は帰ってしまう。
結ばれること無く。
それでも彼は想い続ける。
もう二度と、逢えない少女の事を。
夢の中でよく見る。泣いている少女。辛い辛いと泣いていて。この世界は嫌だって。・・・叫んでる。
大丈夫だよ、って手を伸ばすと、いつもそこで夢が終わる。
ねえ・・・君は一体だれなの?
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