のううた | ナノ

とある部長の憂鬱。



「なんか久しぶりだね!3人で買い物とか!」
「正確に言うとお使いですぜ、教子さん。」
「3人いる事をいい事に、こんなに頼む?べちゃんのくせに。」

上から順に、教子、乃亜の、ことりが告げる。機嫌のほども、上から順に良、普、悪である。

「荷物は大丈夫でしょー。」
「確かに。」

買い物はもう終わった。スポーツ用品や部室関連、おまけに生徒会室関連も、だ。なめてる。
いつもなら注文だけで、学校に届けてもらう。しかし今回はなぜか受け取りまで、だ。
嫌がらせだろうか、とも思ったのだが。

「でもいてくれて助かったよ!ありがとう!」

教子はそう言って後ろにいる彼に振り向く。

「お・・・おう。」

お礼を言われた張本人、宍戸亮は、腕が震えるほどに荷物を持ちながら、少し遅れめに歩いていた。


いや、訂正しよう。
全ての荷物を持っていた宍戸は限界寸前だった。


「・・・でもやっぱり持つよ!」

見兼ねた教子が宍戸に近寄る。


「いーのよ、教子。」

ことりが冷たく言う。
そうそう、と乃亜が続ける。

「この間は悪かった。許してくれ、・・・とか全然許せませーん。乃亜さん傷ついたもんブロークンハートだもん。心粉っ々だからね。」

敵意むき出しで睨み続けていた事を謝った。

そう。マネージャー自体は悪くないのだから、勝手に敵意を向き出すのは失礼だ。

佐倉は逆に謝ってきたが、2人は違う。


「面と向かってウゼェ、は無いなー。辛かったなー。」
「宍戸ってば、2人きりの時を狙って暴言吐いたんでしょ?それをごめんで済ませるのは無いでしょ。これぐらいはやってよね。」

荒波はどうにしろ、崋山は本当にキレている。友達傷つけたんだ。そりゃそうか。


「・・・ああ。」

これくらいで許してもらえるなら。全然軽い。
うぜぇ、はねえよな。うぜぇ、は。


聞こえない程度に嘆息して、宍戸はもう一度荷物を持ち直した。













「やあ、いらっしゃい。今日は蓮二だけなのかい?」


同じ頃、病院、とある一室にて。

「皆は少し遅れてくる。」
「そう。」

柳の返事に幸村は短く答えたあと、カーテンを開く。今日は天気がいい。


あれから何日経っただろう。頭を過る。

「蓮二だけ先にくるのも珍しいね。話があるんだろ?」
「さすが精市だな。」

それだけ会話をして、柳は椅子に腰掛ける。幸村はどうぞ、とお茶を差し出す。

「この間、氷帝のマネージャー達にヘルプに来てもらった。」
「氷帝・・・って乃亜たち?」

早々に話題を切り出す柳に、流石だな、と感心する。

「精市。親睦会の時、初めて会った荒波に、異常なまでに引っ付いてたな。」
「荒波?・・・ああ、乃亜の事か。」

光の中から現れたあの3人。誰もが警戒と不信の目で見ていたのに、精市だけ、ただ彼だけが、真っ先に向かっていった。




「荒波に・・・特別な感情を抱いていないか?」
「え?」
「俺の勘違いでは無いはずだ。」

荒波が丸井に抱きついた時、仁王に猛アタックをしていた時、休憩中だって、彼女を見ていた。
わからない程度に、眉が動く。


「すごいね、蓮二。」

精市はいつもの笑顔で答える。
違う。今はそんなものを見せて欲しいんじゃない。

「どこから来たかもわからない人間だ。やめておけ。」
「どうして?」

精市は笑顔のままだ。
だがわかる。少し、苛立っている。

「いずれは元の世界に帰る。
思えば思う分。悲しくなるんだぞ。」

精市は倒れた。
今、大好きなテニスができない。
大好きなものが出来ないのに、
また新しく出来た好きなものを失うのは。


「それは、乃亜達のこと、警戒しているの?」

精市は、変わらぬ顔で答えた。

「ああ。」

警戒しないわけがない。
次元が違う、だぞ。
不協和音だ。本来交えない出来事。恐怖でしかない。
精市が抜けただけで、辛いのに、また、何か起こるのか?



「蓮二。君は、俺が退屈しないように、本をくれたよね。」

「・・・ああ。」

精市は大切そうにその本を開く。

「病気の少年の元に、異世界から少女がやってくる・・・。」


・・・そうだ。
無理に笑っていた精市を、元気付けるためにと買ったのだ。
その異世界からやってきた少女と、少年は恋に落ちる。

「・・・信じているのか、精市は。」

確かに買った。買ったが。
だが、本当に・・・?


「よく夢に見てたんだ、
目の前で辛い、辛いって泣く・・・女の子。」


「精市」
「震えて泣いてる・・・乃亜」


その目は、とても愛おしそうな目だった。普通の相手には向けない、優し差で溢れた瞳。

「蓮二達にはわからないだろう?大好きなものが出来ない苦しみなんて。」


・・・そうだ。
完璧にはわからない。

だが、

「荒波よりはわかっているつもりだ。」

精市の指がピクリと動く。



「所詮夢かもしれない。でも、泣いていたんだ。辛いって。」
「夢だ、それは。」

これ以上、彼を悲しませたくない。叶わないものは、きっぱりと諦めた方がいい。まだ、浅いうちに、断ち切らせる。




「・・・なっちゃったんだ。」
「・・・精市」
「好きになっちゃったんだよ!乃亜の事!・・・諦めるなんて、できない。」

声を荒げたのは、いつぶりだろうか。こんなに泣きそうな顔をして。
病気の事は心配させまい、と笑って隠していた精市が、・・・荒波に関しては必死に。

「・・・。」
「・・・諦めたくないんだ。蓮二。たとえ、出会った時間が短くても、好きに・・・なっちゃったんだ。わかるだろ?」


・・・もう、何も言えまい。
言っても無駄だろう。止められない。

だが、精市。

あの3人は、まだ、深い何かがあるはずだ。
好きになったのなら、受け止めてやれるのか?受け止めたとして、その、荒波は、お前を理解出来るのか?
そんなことを聞いても想像通りの答えを言うのだろう。
願わくば、その思いが叶わないように。














「・・・はぁ。」
「白石、自分またため息しとるで。」

その頃の四天宝寺。3-2。
窓の外を見つめながら、白石蔵ノ介 (14歳)は深い深いため息をついた。
前の席に座る忍足は、呆れ顔で彼に視線を移す。

「へ?そんなしてへんやろ。」
「しすぎや。呼吸並みにしとる。」
「呼吸並みって発作やん。ハアハアやん。変態・・・変態ちゃうわ!」
「落ち着けや!」

白石がおかしい。ゴールデンウイークあたりからおかしい。凄くおかしい。
いつも上の空で、たまに携帯を見て・・・ニヤつく。



ファンの子に見せてやりたい。

「蔵リンは変態さんちゃうでしょ!もう!変態さんって言った方が変態さんなのよ!謙也くんっ!」
「なんでやねん!つかどっから湧いた!」
「は?謙也何言うとんねん。小春はどこからでも湧く湧き水、いや、天然水やで。」

今日は3-2でご飯を食べるつもりでいた一氏と金色は、とりあえず忍足をいじりだす。

「白石は確かにおかしか。でも謙也の方が笑いのセンスはあるばい。安心すっとね。」
「意味わからんわ!」

そこにふらふらと千歳、石田がやってくる。

「三年皆集合やな。ようこそ、3-2へ。」

白石はメンバーを見て告げた。
そしてお弁当を広げる。そういえばお茶を忘れた。

「ほんまや。なんや、全員集合かいな。」

一氏が忍足をどけ、そこに座る。

「やーん。運命やんっ!」
「仲が良いのが俺らの売りたい。」
「いや、一人忘れとるから。」

もう色々といじられていた忍足は深く突っ込まないことにした。
ごめん、小石川。
心の中でつぶやく。

「で、本題よね、蔵リン!この間から調子悪いでしょ?どないしたん?」
「調子はええよ?100%勇気やで。」
「それは頑張るしかないな。」
「お前らなぁ・・・真面目に考えられんの?」


はぁ。とため息をつく。
なぜか殴られた。解せぬ。


「謙也のくせに!生意気やで!」
「はああああ?!」
「まあまあユウくん!謙也くんは置いといて、やで!」
「置いとくな!」

俺の扱いが雑い。凄い雑い。

「この間の事。恋、してんでしょ?氷帝のマネージャーさんかしら?」
「ほお、白石、恋か。」

金色と一氏が告げれば、白石はがしゃん、とお弁当をひっくりかえす。満タンを、だ。


「な、なななな何言うとんのや。こ・・・こ、こ。え?小石川?確かにおらんけど!」
「「「(わかりやす) 」」」

部長の明らかな動揺に、皆微笑ましい気持ちになる。

「おい、白石、それ俺のお茶。」
「あ!お?すまん小石川!」
「・・・忍足、やけど。」

動揺して、手元にあったお茶に口をつけたが、それは忍足のであった。そしていない小石川に謝る。

「あーん!動揺してる蔵リンかわうぃーいー!」
「いくら白石でも小春に手えだしたら許さんぞ。」

D2組は特に首を突っ込んでいる。
石田は首を傾げていたが、白石の肩を叩いた。

「アドレスは交換したんか?」

その一言で、白石はがくりと肩を落とした。

「白石は見た目の割に奥手たい。そこがむぞらしかっちゃ。」
「せやな、女慣れしてそうでチャラそうやけど。」
「銀さんそないなこと言うたらあかんよ!」

顔面の偏差値は高い白石。他校からも噂になっているものの、押してくる女子に弱いのが難点。
そして、試合中の発言にも難点。

残念なイケメン、と言うやつだ。

「番号は聞いてへんの?ちゃっかり待ち受けにしちゃってるのに?」
「あ!ち、ちが!それ、妹やねん!」
「白石の妹そんな顔ちゃうやろ。」


スマホのディスプレイには、金太郎に連行されていたあの女子マネ。
目を閉じている、ということは、保健室で寝ていた時か。

隠し撮り、なんて白石らしく無いが。


「蔵リンは荒波さんが好きなのね!」
「ち・・・ちが」
「一番こまか子やね。・・・崋山、むぞらしか。」


千歳はことりのことを頭に浮かべる。どうやらタッパがある子はダメらしい。
ちょっとへこむなー、と千歳はため息をつく。

「千歳くんは崋山さんが好きなのね!んもう!私はね!佐倉さんいいと思うの!」
「あぁ?佐倉ぁ?あの泣いてた奴やろ?小春!浮気か!」
「黙れ一氏。」

聞きて側に回っていた忍足は、部員達を見て思う。恋・・・か。

今はテニスでいっぱいだ。
好きな子もいない。


白石がここまで上の空になるほど、【 恋愛 】の破壊力は凄いのか。自分はまだ子供だな、と。

「連絡先知らないなんて!無駄な時間やで!蔵リン!跡部くんの親戚なんやろ?跡部くんに聞いてみようや!」

そう言って、金色は白石の携帯を奪い取り、素早い動作で跡部景吾の番号まで移動させた。

「・・・いや、でも。・・・迷惑・・・やろ。」

ほら、と渡された携帯を、彼は受け取らない。
この間の2日間会ったっきりだ。記憶に無いだろう。頭血だらけの変な奴、くらいの意識だろう。
下心が出てしまう。

「んもう!うじ石!うじリン!」

一向に受け取らない白石に、金色は発信ボタンを押す。


「・・・え、小春、押し、」
『・・・はい。』
「びゃあああとべ君や!」
『・・・は?』

2コールで出た跡部に、白石は手まで動かして焦り出す。
はい、蔵リン。
などと、ハートをつけながら金色に言われ、震える手で受け取る。


「・・・も、もしもし?し、し・・・白石、やけど。」
『なんだ、緊急の用事か? 』
「いや、別に緊急っちゅー訳やないんやけどな?小春が勝手にコールしてしもて 。 」

電話越しの跡部、ちょっと迫力ある気がする。

「はよ本題話さんかい! 」
「 はい!その、聞きたいことがあるっちゅーかなんちゅーか ・・・。」
『だからなんだ。 こっちもそんなに時間がねぇんだよ 。』
「あんな、蔵リンは荒波さんの電話番号が知りたいんやって!」
「 小春ぅぅぅぅぅ?! 」

頭の中で考えをまとめていたのに。小春ってば鬼畜だな。鬼だ。大鬼だ。

「はよ話さんからや。跡部くんかて忙しいんやから。」
「せ、せやな・・・。」
『は?携帯の電話番号ってことか? 』
「教えてもろてええ? 」
『・・・。』


途端跡部が黙り込む。
これはまずかったのか?

「・・・もしかして、付き合ってる、とか?」

彼女だったりとか?だから教えたく無いとか?いやあん、跡部くん!そんな素振りなかったのに!
恋、バナやな!
なぜか金色のテンションは上がる。


「・・・跡部君と・・・付き合ってる・・・。」
「まあそのマネージャー結構可愛い顔してたしな。」

また肩を落とす白石。そこに忍足はなんのフォローもいれない。

確かにあの子は可愛かった。背も低いし。親戚だし尚更。

「短い春やったな、白石。」
「直ぐに次が見つかるやろ、気にしなや。」

誰も、フォローはしない。


『・・・やけに盛り上がってるようだが、別にそういうんじゃねえ。携帯もってねえんだよ。』
「持ってない?!お年頃の娘さんやのに?」
『その言い方やめろ。』
「じゃあまだ蔵リンにチャンスあるんやね!」
「ちょ、小春、ほんまやめて。」

穴があったら入りたい。
白石は心からそう思ったが、金色は実に楽しそうだ。

「携帯ねー。持ってへんならしゃあないねー。ありがとー!跡部くん!」

そう言って金色は電話を切る。そして白石の肩を叩く。今日は叩かれまくりの彼である。

「携帯、持ってへんって!また、会いに行くで、蔵リン!」



小石川を除く四天宝寺三年は、ここに、白石を応援する会を立てるのであった。





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