のううた | ナノ

ぶっちゃけますと。





「そうだとは思ってたんだけど。」

乃亜はポツリとつぶやく。下には気持ち良さそうに眠る迷える子羊、ジローちゃん。
ほらね、デートじゃなくて膝枕。


「えー?」
「膝枕だよね。」
「膝枕だよー?」

贅沢に部室のソファーの上で、だ。座るこちらも柔らかいから、それはいいんだけど。

「膝枕いつもしてるじゃん。」

デートなんて言うから、気構えてしまった。無駄な気を使った。


「えー?なにー?乃亜ってばもっとデートらしい事したいのー?」
「いや、大丈夫。」

短く答えれば、ジローちゃんはちぇー、と唸った。


「ねー、乃亜ー。」
「なに?芥川氏。」
「名前で呼んでほCー。」

ジローちゃんは目をつむったままだ。寝ないのだろうか。


「嫌だCー。」
「真似すんなCー。」
「だってこれ楽Cー。」

そう答えると、ジローちゃんはぱっと目を開いた。




「俺は楽しくねーし。」


時々口悪くなるよね、ジローちゃんて。基本寝てるから、性格がよくわからないんだけど。

なんとなく、一緒にいたくないんだよね。なんとなく。


「・・・寝ないの?」

「・・・・・・。」


あれ、・・・黙った?
ジローちゃんは無言のまま、身体を起こした。

そして、こちらを凝視してくる。・・・なんか、おかしい。


「部室で男女2人っきりなのに、寝るわけねーし。」

「は、」

言葉を返そうとした途端、乃亜の視界は一転した。






「え」
「びっくりした?」

芥川は笑顔で告げた。
いつもとは違う笑顔で。
その時の乃亜の目が、少し揺らいだのを芥川は見ていた。


「乃亜もこういうタイプでしょー?表面上は別の自分でさ。」

乃亜の上に覆いかぶさる芥川は、そのまま彼女の手首を抑える。

「や、」
「めないよ。いつも俺に距離置くじゃん。離してなんてやんない。」

怖い。
ただそれだけしか思わなかった。
何で、こんな事になっているのか、わからなかった。

「最初はさー、かわいーこだなぁって思ったんだけどね。」

どきどきどき、と心音が速くなる。照れ、とかではない。恐怖からだ。


「見た目で判断されるの、嫌いでしょ?」

この笑顔はいつもの笑顔じゃない。いや。彼からすると、本当の笑顔なのかもしれない。


「寝るのもさ、別に寝るの好き、とかじゃないんでしょ?面倒なんでしょ?接するの。」

その笑顔が怖い。



「はっ・・・はなっ」
「仕事速く終わらせて、直ぐに何処かに行って。本当の自分隠して、でも本当は気にしてもらいたくて。」

芥川の腕に力が入る。

「痛っ、」
「でもさ、言わなきゃわかんねーじゃん。俺ら、会ったばかりなんだし。」

言っている事は最もなのだが、状況と表情がおかしい。


「・・・確かにかわいーよ。めっちゃタイプ。その気分屋演じてるのも見てて楽しい。」
「やっ・・・」

怖い。怖い怖い怖い!

「やだしか言えないの?」

芥川は自分のネクタイを外す。

「怖い?」

「・・・っ」
「その顔、いいよね。」


芥川は笑顔で乃亜の手首をネクタイで縛る。


「っいいかげんに!」
「するのはどっちだよ。わかってんだろ、」
「・・・。」


芥川の顔が近づいてくる。

どきどきどき。

心音は速くなる一方。



「乃亜ってモテるでしょ?・・・こういう状況、初めてじゃないでしょ?」


芥川にそう言われ、乃亜は彼を睨みつける。

「ほら、できるじゃん、そんな顔。」

「・・・そりゃあね。」


「このままさ、

・・・どうなると思う?」



彼からは想像できない笑みを浮かべ、さらに顔を近づけて来た。













「美味しい!」
「そう?良かった。」

嬉しそうにケーキを口にすることりに、滝は笑顔で返す。

チケット、もらっておいて良かった。
実は、跡部からもらったチケットだ。跡部ありがとう、と滝は改めて跡部に感謝をする。

2人きり、は流石にハードルが高い。向日はちょっとうるさいから、忍足に声をかけておいて良かった。幸い、彼は佐倉さんに気がある。
それに、2人とも良く甘いものを食べる、と言っていたし。


「滝君、私まで誘ってくれてありがとう!」
「いいえー。甘いもの好きでしょ?誘う他ないよね。」

佐倉さんも嬉しそうだし。

「忍足君も、ケーキとか好きなの?意外だなぁ。」
「ん?あー・・・まぁ。」

忍足はちょっと上の空だけど。
俺はケーキ好きだけど、甘いものは苦手だもんね。でも、来ちゃうよね。

「美味しいね!ことりちゃん。」
「美味・・・」

あんな笑顔みれるんだから。
忍足は2人を微笑ましい目で見ていたけど、途中で携帯をいじり出す。送信先には跡部の名前。

「どうしたの?」
「ああ、ちょい気になってな。」

ジローの事だろう。
彼は二面性があるから。

普段はそんな素振りないけれど、たまに別人のように冷徹になる。
本当に、夢かのように。

見たのは一、二度だけど、多分あれが本性だ。

「大丈夫やと思うねんけど、ちょい心配やん。」

普段はあの寝坊助をやっているが、昨日は機嫌がすこぶる悪かった。学校の人たちは知らないが、レギュラー数名は知っている。
ジローに好きな人が出来たのは今回が初めて。初恋、というやつ。
どう押すのか皆目見当がつかないから、心配ではある。


「大丈夫でしょ。さ、食べよ。」
「・・・せやな。」

それでも忍足の事だ。多分跡部にメールした。それに俺らが気にする前に、跡部も気にかけているだろう。

まだ出会って日が浅いのに、本性は出さないよ。

「なんの話?」

不思議そうに崋山さんが聞いて来た。佐倉さんが、忍足と一緒にケーキを取りに行ったから、暇なのかな?

「ジローと荒波さん、どうしてるかなぁって。」

崋山さんも気にしてるのかな。荒波さんの事。

「・・・デート?」
「でもどうせ部室で膝枕だよ。いつもと同じ。止める相手がいないだけ。」

そう答えれば、崋山さんはピタリと止まった。そして、黙り混んでしまった。今・・・変な事言っただろうか。

・・・そうだ。崋山さん、ジロー気に入ってるよね。



「・・・滝も、本当は乃亜誘いたかった?」
「え?」

崋山さんは小さい声でそう言ってから、また、黙ってしまった。

何で荒波さん?


「荒波さん、ケーキ好きなの?」
「いや・・・そうじゃなくて。」

ん?じゃあなんで聞いてきたんだろう?

「荒波さん、そもそも食べなくない?」
「・・・そう、だけど。」


俺、何かいけない事でも言ったのかな?よくわからないけど、

「俺は崋山さんを誘いたかったんだよ。」
「・・・そ、そお。」


なんかいきなりぎこちなくなったな。・・・ぶっちゃけようかな。




「本当は崋山さんと2人で来たかったなぁ。」
「え、」
「2人きりだと、デートになっちゃうから、崋山さんに断られそうで、さ。」

「・・・。」

・・・あれ、また黙っちゃった。ひ、引いてるのかな?俺、早すぎた・・・かも。


「・・・ケーキ・・・美味しい。」

崋山さん・・・聞かなかった事にしたな。でもさ、ちょっと顔が赤いよね。

「今度2人で遊び行こうよ。」
「・・・ん。」

ちょっと照れたような顔で、返事をしてくれた。なんだかこっちまで恥ずかしくなって、紅茶を飲むふりをして、視線を外した。


いい顔が見れたな、なんて。












「何にしようかな。チーズケーキもいいけど、ガトーショコラも美味しそう!」

教子は嬉しそうにケーキを見た。その横で、忍足は極力甘くないものを探す。

「抹茶のムースケーキも美味しそう!あ!ミルクレープ!」

普段は体重を気にして控える教子だが、マネージャー業が中々ハードなので、今日くらいは、と嬉しそうにケーキを見つめる。

ことりちゃんは元々モデル体系で、乃亜ちゃんは食べない。そんな2人といると、必然的に気になってしまうが、今日はいい。明日控えるもん。


「・・・ケーキ好きなん?」
「うん!それにここのケーキ、すごく美味しいしっ。」

教子が笑えば、忍足は一瞬だけ目を逸らす。幸い、見られてはいない。

「ぎょうさん食べたい種類あるみたいやけど、制覇でもするんか?」

そう聞けば、教子はケーキをまた見つめる。

「ううん。チーズケーキとガトーショコラで迷ってるの。」

そう言って、教子は悩み出す。どちらも食べたいけど、お腹に余裕がない!

胃、縮んだ?・・・いや、もういっぱい食べたもん。

「せやったら、一個ずつ頼んで、半分ずっこでもしよか?」

姉によくやられるので、慣れている忍足は、ただなんとなくきいた。

すると、そんな手があったのか!と言いたげな顔で、教子が見つめて来た。


「さすが侑士君っ!」

教子は満足そうに笑う。が、逆に忍足は固まってしまう。


イマ、ナント・・・?



「・・・あ!ご、ごめんね忍足君!向日君が侑士侑士言うから、つい。」

忍足の表情を見て、教子はとっさに謝った。
迷惑だったよね。馴れ馴れしいよね、ごめん。

「・・・いや・・・かまへん・・・けど・・・。」


侑士君、
は爆発的な破壊力だと思わないか。忍足君、ではなく侑士君、だぞ。

ここに跡部がいたら完全に自慢しに行く。とりあえず岳人よくやった。明日納豆買って行こう。投げつけよう。


「そ、そっか、これじゃフェアじゃないよね!じゃ、じゃあ私の事は教子って呼んで!」

「・・・はい?」


何でそうなる。
しかし、佐倉さんは本気みたいだ。慣れているのか?

「・・・あんな、佐倉さ、」
「侑士君。」

ほら、と言いたげに佐倉さんが見つめてくる。その目線もまた、鼓動を速めるのだが、自覚は無いんだろうな。

ポーカーフェイス、便利なもんだ。

「さ、」
「教子、だよ、教子。」

折れる気はないらしい。
一度目線をそらす。

照れた顔は見られたく無い。


あんな、勇気・・・いんねんで。

「・・・、」
「ゆーし君?」

生殺しかっちゅーねん。
いっそ殺せ。


・・・ええい。もうどうにでもなれ。


「・・・教子・・ちゃん。」

「・・・!は・・・はい。」


・・・本当に。
この子は。



「いたっ」
「・・・はぁ。」

ぱちっ、とかいい音がしたな。

「ゆ、侑士君?(なんで叩かれたんだろう?)」


無理、恥ずかしすぎ。
言い出しっぺもちょっと赤らめんなて。


「・・・戻ろか。」
「・・・うん。(ちょっと恥ずかしかったな。)」






もう呼べない。




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