お出かけしよう!
「ねえねえねえ!何で乃亜昨日いなかったんだCー!俺の誕生日会だったのにー!」
芥川、ご乱心である。
朝練の最中、芥川はズカズカと乃亜に近づき、目の前なのに大声で言う。
「そ、そうなんだ。(こどもの日だった、そういや。)」
近づいてくる芥川を手で軽く押しながら、乃亜は遠慮気味に言う。
「芥川君、誕生日だったんだ!おめでとう。」
「ありがと!そ!そう!毎年テニス部で誕生日会やってんの!何でマネージャー達いなかったの!」
「何で立海のマネージャー引き受けたの!跡部!」
そんな芥川の言葉を聞き、ことりは跡部を睨みつける。アタシの天使の生誕祭だったのか!
「悪ぃ。」
まだ連絡手段のない3人。柳が跡部にお願いをして、了承した。
すっかり、忘れていたのだ。
「そんなに怒らないでよ、ジロー。荒波さん困ってるよ。」
滝が2人の間に入る。乃亜は助かった、と安堵の息をついた。
「萩じゃまー!」
「わがまま言うたらあかんで、ジロー。」
プリプリと怒っている芥川に、今度は忍足が止めに入る。
「ぶー!いーよ!じゃあさじゃあさ!放課後デートしよデート!」
「は?!」
「跡部!乃亜貸して!」
嬉しそうに言う芥川に、跡部は視線を向けながら、少し考える。
「そいつに直接言えばいいだろうが。」
跡部にそう言われ、芥川は乃亜に視線を戻す。
「えー、と、」
「決定ー!イエーイ!うれCー!」
「・・・まじか。」
どうやらあたしは今日、デートみたいだ。
乃亜はため息をついた。
「・・・はあ。」
億劫だ。デート?本気で言ってんのか?どうせ部室でゴロゴロでしょ。今日は休みだし。
「行かねえのか、ジローが待ってるぞ。」
跡部が言う。人の気も知らないでさ。
「ねえ、跡部。」
「どうした。」
「デートってさ、なんでするのかな?」
「は?」
ジローちゃんに関して、デートではないな。うん。遠山もそうだったし。
「いってきまーす。」
質問をしたものの、答えなど聞かずに立ち上がる。そこに跡部が手をつかんだ。
「んー?」
「遅くなんじゃねえぞ。」
「はいはい。」
親かよ、と乃亜は心で思いながら、教室をあとにした。
「ジローがやらかさなきゃいいが。」
跡部は小さくため息をついた。
「か、や、ま、さん!」
「きゃっ!」
後ろから声をかけたら、なんとも可愛らしい悲鳴を上げた。
そして驚いた顔をしている。
「た、滝か・・・びっくりした。」
「ふふ、ごめんね。」
1人だと、結構無防備だよね。部活中は、ピリピリしている、というか、気を引き締めすぎてる、というか。
「今日、オフでしょ?良かったらカフェ行かない?おしゃれで可愛いんだ。街とかまだフラフラしてないでしょ?」
だって、いつもリムジンでしょ?もったいないよ。楽しい場所、たくさんあるのに。
「カフェ・・・。」
「ケーキバイキングのチケットもらってさ。」
「ケーキ・・・。」
凄い目がキラキラしてる。
「ケーキ、すきなの?」
「大好き!」
「そ・・・そう、・・・。」
びっくりした・・・凄い嬉しそうに言うんだもん。嬉しそうな顔して、さ。
大好きって、それだけ言われたからテンパっちゃった。ハハ、
「じゃ、行こうよ。」
「うん!」
ご機嫌な崋山さんに、ちょっと待ってて、と声をかける。
「行こうよ、一緒に。」
「いや、お邪魔虫やろ。」
「佐倉さんにも声かけたんだ。」
本を読んでいた忍足に声をかける。佐倉さん、の名前でピタリと動きが止まった。
「佐倉さんだけ暇しちゃうじゃん、誘わなきゃ。よく喋るでしょ?」
「・・・せやな。(ばれたかと思ったわ)」
「楽しみだね、崋山さん。(バレバレだよ。)」
昇降口で待つ教子の元に、3人バラバラの感情で歩き出すのであった。
「あ、樺地!日吉!」
「・・・鳳。」
「今日は先輩のとこ行かないのか?」
校門を出たところで、日吉と樺地が歩いているのを見かけた。
鳳は急いで2人に駆け寄る。
「まぁね。樺地こそ、跡部部長と一緒じゃ無いんだ。」
「・・・今日は、帰っていいって。」
普段は跡部と帰る樺地だが、跡部に大丈夫、と言われ、偶然会った日吉と帰ることにした。
「3人で帰るの久々だなぁ。あ、ねえ!これからどこか行かない?」
嬉しそうに話す鳳の横で、日吉が嫌そうな顔をする。
「・・・大丈夫。」
「本当?!樺地はオッケーだって!日吉は?」
今日の鳳はよく喋る。大体どこに出かけると言うのだ。そろばんがある、と断ろうか。いや、道場にしようか。
「・・・日吉も・・・大丈夫。」
「は?!」
「本当に?!良かった〜!」
何で樺地が許可とってんだよ!
今日も鳳面倒臭そうだろうが。扱いが。
「さっき、家でゆっくりするって・・・言ったから。暇・・・。」
「ああそうだな!暇だよ!全く!」
結局。
「(暇だからいいんだけど。)」
「−そうですか。・・・いえ、こちらこそ、変な質問をしてすみません。・・・ええ。はい。・・・はい、お願いします。では、失礼します。」
やはり、こんな非現実的な出来事、対処法なんて無いか。
榊は通話終了のボタンを押し、椅子に腰かけた。
跡部さんが面倒を見てくださるらしいが、そこは安心として、問題は彼女たちのメンタルだろう。
そろそろ、帰りたいのではないのか。
見ている限り、良くも悪くも馴染んではいるみたいだ。
テニス部のマネージャーにさせた事で、自然と跡部や忍足が精神的にフォローしてくれている。
彼らには少し負担かもしれないが。けれど、以前より、楽しそうに見える。
「・・・漫画のキャラクター、か。」
荒波が持っていたファンブック。日に日にページが消えていっている。
それよりも、修正もされている。
例えば、好きなタイプ。
一時期真っ白になり、気づいたら、【気遣いできる子】など、書き換えられているのだ。
歴史が変わっている。・・・いや、正しく書き直されている。
「・・・ハハ。」
考えれば考えるほどわからないな。
ファンブックを一旦置く。
もう一つ、気がかりな事がある。
「・・・時を超えた少女たちは、そこで、本当の自分と向き合い・・・。」
読み上げる。
「・・・・・歪む。」
榊は再度ため息をついて、部屋をあとにした。
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