のううた | ナノ

浪速のヤカマシーズ!!

「ちょっと、どこまで行くの?もう戻るよ!」

乃亜は前へ前へと進む遠山に大きい声で言う。ちょっと付き合ってと言われ、有無を言わさずに手を引っ張り歩き続けた一年。未だ上機嫌。

「そろそろ先輩達怒ってるよー。知らないよー。」
「かまへんって!もうすぐやから!」

構わなくないだろ、全然。自分で言うのも中々説得力が無いのだが、団体行動必須、じゃないのか。あたしはせんが。

「あのね、道もわからないのにどこに行きたいの?」
「いっちばん高いところに決まってるやん!」

「・・・そ。」

決まってるんだ。
そうだよね、屋上から見渡したいのかな。学校全体。

だったら高等部の方が高いけど、言うのはよそう。

「・・・屋上行ったらすぐ帰るよ。」
「はーい!」

はーい!って!こいつ、はいとか言うんだ。屋上ならもうすぐだから、付き合ってやるか。

今日は跡部いないし、あたし自身よく居なくなるから、心配はされてないだろうし。少しくらい、ね。

「戻るまで乃亜とデートやなっ!」

遠山が嬉しそうに告げる。すると乃亜は一瞬固まったが、直ぐに呆れ顔になる。


「それ意味わかってて使ってる?」
「一緒に遊ぶことー!」

一瞬でも気を引き締めた自分が馬鹿だった。一体誰だ、このコにそんな事教えたのは。

呆れ反面、妙に安心したのは誰にも言えない。






「多分な、金太郎の事やから、屋上だと思うんや。」

白石は困った顔で言う。

「ホンマ世話の焼ける奴や。」

それに続けて謙也が言う。

「屋上は寝やすいCー。昼寝でもすんのかな。」

芥川はあくびをしながら言った。寝やすいけど、時間帯によってはまぶしい。部室の裏がベストプレイスなんだよな。

「ジローじゃねぇんだから。」
「宍戸ひどいCー。」

宍戸はあまり乗り気じゃ無いみたいだ。それもそうか。

「あんなに乃亜の事睨んでたのに、どういう風の吹きまわし?」

「は?」

あんなに睨みつけてさ、わかんないわけないでしょ。宍戸の気持ちもわからなくもないけど、あんなに露骨にやる事でもない。


「えーと、芥川君?話が読めんのやけど・・・。」

「・・・忘れろジロー。」

忘れろ、なんて御都合主義だろ。

「今は何も言わないけど、謝りなよ、ちゃんと。」
「・・・わぁってるよ。」

乃亜は傷ついた素振りは見せない。逆に佐倉の方が傷ついたような顔してた。すごい仲間愛だよね。


「なぁ、白石。俺ついていけてないんやけど。」
「心配すな。俺もや。」
「威張ってどうすんねん!」

謙也は首をかしげた。この氷帝2人、仲が悪いんだろうか。

芥川、とかいうやつは笑顔だけどよく分からないピリピリした空気を出している。

宍戸、というやつも深くは聞くな、と言いたげな、尚且つ申し訳なさそうな、気まずそうな顔で。


・・・氷帝、チームワークどうなっとんのや。


「しかし金ちゃんは、そのマネージャーを何で連れてったんや。」
「荒波さんやろ?昨日もなつい・・・。」


白石は思い出した。昨日の遠山の発言を。

【ええ匂いなんやでっ】


「・・・どないしたん、白石。」

なぜかエンドレスで流れてくるええ匂い発言。白石は振り払おうと頭を振る。ただ目が回るだけだった。

段々と押し寄せてくるよからぬ想像。あぁ、あの上目遣い可愛いかっ

「ほぶぇさっぶうぇい!」

「・・・は?」

意味の分からない奇声を発したのち、白石は頭を壁にガンガンと打ち付ける。

「ちょ!ほ、ほんまにどないしたんや!落ち着き!」

慌てて謙也が止めに入ろうとしても、彼のパワーとスピードは並ならなかった。

「・・・なにやってんのー?」
「さあな。」

芥川と宍戸は冷静に四天宝寺を見ている。

「無駄や!無駄!それこそ無駄な考えや!!」

がんがんがん、と頭を打つ音は次第に大きくなっていく。


「白石、自分・・・死ぬで。」

「いや、無駄なんて失礼や!無駄なんかやない!でも無駄やろ!こんなこと考えてそれこそ失礼やて!無駄がないのが白石蔵ノ介ちゃうんか?!バイブルちゃうんか?いやでも昨日のは考えても・・・だからダメやて!あかんて!こんなんあかんて!無駄や!無駄無駄無駄無駄!」

額から血が出てきたのは言うまでもない。そして完全に違う世界に行っているであろう白石を、もう見つめる事しかできない謙也。

「無駄無駄無駄無駄ってもしかしてディオ?!ジョルノ?かっちょEー!!」

芥川に関しては目を輝かせている。



「・・・何してんの?白石。」
「あー!謙也もおるでー!」

そこへ前からやってきたのは手をつないだ乃亜と遠山。2人の姿に白石は手を止める。

「あー、乃亜ー!会いたかったCー!」
「わっ・・・いきなり抱きつかないでよ。」

乃亜を見かけた芥川は、目にも止まらぬ早さで遠山を剥がし、抱きついた。

ほぼ毎日のように抱きつかれたり膝枕を強要される身としては、もう逃げる気も起こらない。
乃亜は大人しくした。

「あー!ずるいわー!ワイもワイもー!」
「ずるくねーし、手つないだだろおしまい。」

若干声が低かったのは、気のせいだろう。ふんぎい!っと暴れる遠山の頭を、謙也は軽く叩く。

「勝手に行動すな言うたやろ。金ちゃんのせいで皆部活止めたんやで。反省しい。」
「・・・堪忍な、謙也、白石。」

わかりやすくへこむ遠山に謙也は頭を撫でた後、戻るで、と告げた。


「あ、あああ荒波さん大丈夫か?怪我とかあらへん?」
「いや、そっちの方が大丈夫じゃないでしょ。」

額から血を流しながらも真顔で言う白石に、乃亜は少し引き気味に言う。絶対こいつ大丈夫じゃない。

大丈夫大丈夫と言いながらも、少しふらついている。

ハァ、と乃亜はため息をした後、芥川から離れる。

「保健室連れてくね。」

そう言って、白石の手を引っ張る。

「えー。」
「ありがと、捜しにきてくれて。手当したらすぐ戻るから。」

そう言って白石を連れて、乃亜は歩いて行った。


「・・・ちっ」
「お、俺らは先に戻るで。(今、こいつ舌打ちしよった。)」













「落ち着いたか?佐倉さん。」

忍足と部室に行った教子はハンカチで目を拭きながら、頭をこくこくと縦に振った。
我ながら本当に情けない。

「ご、ごめんね忍足君。」
「別に構わへんて。あと、荒波さん達と合流したらしいで。けれど白石が怪我したから荒波さんと白石は保健室寄ってから来るみたいや。」

忍足は未だ鼻が赤い教子に告げてから、隣に座った。
教子は「そっか・・・。」とだけ短く返事をした。

「で、佐倉さんは白石に何か思ってる事でもあるんか?」
「え、」
「さっき小さい声で言うとったやろ、何で白石君なのって。」

しっかり聞こえていた。泣いてしまう少し前、少し悲しそうな顔で言っていた。昨日初めて会ったはず。ここでは特に接触なかった。という事は、昨晩の出来事なんだろう。跡部の家に泊まった時に、何かあったのだ。


「・・・なんでも知ってるね、忍足君は。」

佐倉さんはそう言って笑った。最も、眉毛はへの字でまだ涙が溜まっていたから、苦笑いで。

「たまたまやて。」

「乃亜ちゃんってばね、全然ご飯食べないでしょ?」
「・・・せやね、全然見んな。」

あの子死んでしまわんか正直心配やけど。


「昨日もね、そうだったの。」
「・・・おう。」

「・・・でもね、白石君凄いんだよ。乃亜ちゃん、連れてきちゃったの。」

元々は走って行った遠山君を止めに行ったはずなのに、と佐倉さんは続けた。

「凄いなって・・・思ったよ。でもね、同時に、何でだろうって、悔しくなったの。」
「・・・。」

「私やことりちゃんが毎日言っててダメなのに、何で会ったばかりの白石君が・・って。」
「嫉妬したんか?」

うん、と彼女は頷いた。

仲の良い友達同士なんだ。付き合いが長いんだ。わかっているつもりなのに、違う人にやられるのは、辛いところ。

佐倉さんは嫉妬した。やってのけた白石に。
同時に悲しくもなった。自分にはできなかったことが。

「たまたまやろ。」
「え?」

「たまたま荒波さんはお腹空いたんちゃう?たまたまお腹空いたら、たまたま白石がそこにおった。だからたまたま一緒に戻った。」
「お、忍足君?」
「ポジティブに考えよ、佐倉さん。そしたら、これは嫉妬じゃない!悔しくなんかないっ!ってなるやろ。」

うまい事は言えない。なに一つ言えないが。

「白石のおかげちゃうから。ヤキモチ、なんかとちゃう。な?」

嫉妬した、と素直に泣けるのは、本当に荒波さんが好きだということ。とてもとても優しい、ということ。


その感情はとてもいいものだと思う。

「白石なんかに嫉妬したら勿体無いって。」

今やもう支離滅裂で意味がわからなくなっているけど、とにかく、その感情が綺麗だと思ったんだ。


「ありがとう。」
「いや、意味不やったろ、すまんな。」

佐倉さんは首を振った。

「ううん。元気づけようとしてくれた。それが凄く嬉しいの。ありがとう。」

えへへ、と少し恥ずかしいそうに笑う彼女に、照れ臭くなったのは内緒。












「いやぁ、申し訳ないわ。」
「いや、いいけどさ。本当に何してたの?」

白石の頭に包帯を巻きながら、乃亜は言った。

「へ?あ、・・・いやぁ、別に何も?」
「ふぅん。」

なんなのだろうか、この胸の高鳴りは。2人きり、だとどうも緊張してしまう。というかさっきのよからぬ考えが消えぬままに2人きりだ。死ねる。

「なんかよくわかんないけど、部長なんだから。怪我には気をつけないと。」

できたよ、と荒波さんは告げた後、前髪まで直してくれた。
傷痕残らないといいけどねー、と彼女は告げたのち、道具を閉まっていく。

「おおきに。」
「いいえー、マネージャーですから。」

金髪だからギャルかと思ったけど、そうじゃないらしい。
仕事も速いし、明るいし。可愛いし。手当も出来るし、可愛いし。


「・・・まだ痛いとこある?」
「・・・へ?」
「ぼーっとしてるじゃん。」

心配してくれるし可愛いし。

なにより可愛いし。

「いや、大丈夫やで。」

「・・・。・・もうちょっと休もっか。」

荒波さんは何か考えたのち、ベッドに寝転んだ。今、俺が座っているベッドに、だ。

「ほっばどぶ!」

・・・また変な奇声を上げてしまった。落ち着け自分。

「ちょっと、寝る。遅れるってメールしといてー。」

荒波さんはそう言った後、枕に顔を埋めた。まさか本当に寝るのか・・・?・・・近い。

「やけど、荒波さん。」

返事はない。
いやいや、おやすみ三秒かっちゅーの。


「・・・まさか、ほんまに寝てへん?」

・・・返事は、ない。

・・・いやいや。いやいやいや!

「荒波さーん。ガチなん?ガチなんか?早よ戻ろ。な?」

・・・神様仏様銀様。この子ほんまに寝とる。規則正しい寝息たてとる。うつ伏せやけど、時折「むぅ」とか言うとる。息、もれとる。

・・・しかし。



髪綺麗やなぁ。・・・触っても、

「っちょまっ!」

wait!wait!ちょ、待てよ!
変態か!あかん!ダメダメダメダメノーノー落ち着け白石!

「・・・・・・っ。」

心臓がうるさい。
寝てるんだから、ばれないし。

・・・いや、許可なしに、

「・・・・・・っ。」

耐えろ。ダメだ。落ち着け。

いや、でも、こんなチャンス。

いや、部長、しっかり。

大丈夫、やればできる子。強い子。


・・・・・・・・・。












「お前・・・三年だろ。一年の暴走止められなかったのかよ。」
「あいつやばいよ。力半端なかったもん。」

テレビをみながら跡部と乃亜は会話をした。

「でもね、そのあとまた寝るって言うのはどうなのよ。」
「そうだよ。白石君げんなりしてたよ。」

それに続くはことりと教子。乃亜はんー、と唸り声をあげる。

「(白石変だったなー。)」















一方その頃。

「・・・白石?」
「・・・なぁ謙也。」
「お、おう。」
「ドキドキして、キラキラして、ふわふわするの、なんやと思う。」
「すまん。さっぱりや。」
「蔵リン蔵リン!アタシ知ってんで!それはな!恋!KO・I、しちゃってんのよー!」
「コイ。」
「し、ししししし白石恋しとんのか!?こここここ小春は俺のやから!絶対やらんからな!」
「どもり過ぎっすわ。それに、絶対いらんやろ。」
「ああーん!ひどいわ光君。バツとして投げキッスしちゃう!んーっま!」
「・・・!!」
「光が死んだー!いややー!光死ぬなー!」
「悪魔のキッスたい。」
「ルージュラやな。」
「こ、ここコココイ。ココ。・・・。コイルの進化系はレアコイルです。」
「は、え?し、白石?」
「コイキングの進化系はギャラドスです。跳ねる跳ねる。」
「蔵リン?」
「コイ、つは俺の獲物やで。」
「・・・部長」
「コイシカワ、チェブラーシカ。」
「え」
「・・・コイ、コココココ、コイワイコーヒー、コ、」
「白石が壊れよったー!?」

部長が一人壊れたのであった。






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