のううた | ナノ

浪速のヤカマシーズ




四天宝寺と練習試合当日。
跡部景吾はお休みだった。
本当はオフだった今日、跡部財閥跡取り息子は暇では無かった。

中々に面倒臭い客人が来るのだ。


「・・・なんとかなるだろ。」

榊も知っている話。
今日の部長代理は忍足と滝だ。
部活はスムーズに行くだろうが、問題はあのマネージャー達だ。

「いや・・・」

今はいったん忘れよう。
跡部は首を横に振ったのち、紅茶に口をつけながら、今日で二回目となる女性の到着を待つのであった。





「一旦休憩にしよか。」
「せやな。」

部長代理の忍足侑士は、四天宝寺中部長の白石に声をかける。
跡部は不在だが、問題無く試合は進んでいる。


「なぁ侑士。マネージャー入ったなんて聞いてないで。」

従兄弟である忍足謙也は面白そうな顔で言う。この従兄弟同士は実に仲が良く、頻繁に電話している。ついこの間も電話をしていたが、マネージャーが入った事は言われなかった。

「別に言う事でもあらへんやろ。」
「大アリやろ!しかもめっちゃかわええやん。」
「なんや、気に入った子でもおるん?」

テンションが上がる謙也とは違い、侑士の方は冷静である。
すると謙也は一旦マネージャー達を見る。

「・・・いや、そう言うのとちゃうけど、」
「けど?」

途中で話を止めた謙也に、首を傾げる。

「また1人おらんやん。」
「なぁ謙也、金ちゃん見てへん?」

マネージャーが1人いない事に気づく。昨日もいなかった子だ。

「そういや見てないな。」
「ん?荒波さんもおらんやん。」

謙也が白石に返事を返したあと、侑士の方も、マネージャーが1人いない事に気づく。

今は休憩の時間だ。基本マネージャー達は3人で集まっているのだが・・・。

「荒波なら四天宝寺の一年に引っ張られてどっか行ったぜ。」

向日がドリンクを飲みながら言った。それを聞いた白石はがくりと肩を落とす。そして声を荒げた。



「金太郎ーーーっっ!!」


こうして、第一次(?)遠山&乃亜捜索会が開催されるのであった。








「すまんな、うちの後輩が。」
「いえ、一年生だし。好奇心旺盛なんですよ。」

部室練。
申し訳なさそうに謝る石田に、教子は笑顔で答えた。

遠山君は一年生。まだ何もかもが新鮮で、調べたくなるのかな?
乃亜ちゃん昨日遠山君の事面倒臭そうに話してたから、発端は彼。のはず。

「そりゃ一年生で好奇心旺盛かもしれんけどね・・・。他校なんやから。」

金色はハァ、とため息をつく。
期待のルーキーではあるが、落ち着きがない。

大体止める役目は部長の白石だが、昨日から妙におかしい。

「ここはガツンと言わなあかんで。甘やかしてもええ事ないわ。」
「まあまあユウ君落ち着いて。優しく教えてあげなあかんて。」
「小春が言うなら優しさマックスや!」

先輩風を立たせた一氏だったが、金色の言葉で直ぐに頼りないものになる。


「なんだよ、ホモかよ。」
「聞こえますよ、向日先輩。」

うざったそうに言う向日とその隣には日吉。二人の会話を聞いた途端、一氏の顔は険しくなる。


「何や、文句でもあるんか。」
「こらこらユウ君冗談やて。」

金色が冷静に止めに入るのだが、どうやら虫の居所が悪いらしい。

「きめえだろ。やるなら他でやれよ。」
「岳人、えらい突っかかるやん。」

こちらも相方が止めにはいるが、収まる雰囲気はない。

向日は苛立っていた。

「意味わかんねぇんだよ、荒波と四天宝寺の一年のせいで部活潰れんの。ほっときゃいーだろ。」

四天宝寺が来ようが来まいが、今日はオフで、皆がいない間に練習しようと思った。それが急遽練習試合となる。試合自体全然良い。
なのにそれすらも、しつけのなってない他校の部員のせいで潰れる、だ?結局ただの無駄な時間。

「ならほっといて自分らは部活でもやりや。支障が無いようにマネージャーに道案内頼んだのに、ついてきたんはそっちやろ。」

頼んでいない。皆で捜す、だなんて。だったら千歳と一緒にコートで待機していれば良いものを、ついてきたのはそっちだ。
連れてかれたマネージャーの事が心配なのかと思えば、そうでもないらしい。それに可愛い後輩を悪く言われるのは当然気分が悪い。


「取られたく無い子でもおるんか。一日限りしかいない奴らに嫉妬とか・・・めちゃくちゃダサいで。」
「なんだよ喧嘩売ってんのか!」
「上等じゃボケ!」

状況は悪化するばかり。捜索にも出れない。


「ふ、2人ともやめなよ!」

教子が慌てて間に入る。

「佐倉さん危ないで、」
「遠山君と乃亜ちゃんを探すために行動してるんだよ!ケンカするのは見つかってからでもできるでしょ!」

今にでも殴り合いそうな2人の真ん中で、教子は声を張る。

「突っかかってきたのは自分らやろが!」
「何のために皆でここにいるの!捜す気持ちがないならコートに帰ってよ!同じ仲間なら、誰かのせいとか思っちゃだめだよ!」

全員いなくても別にいい。乃亜ちゃんと遠山君
は私1人でも捜せる。乃亜ちゃんのせいで部活が潰れた、なんて言わせない。絶対に言わせない。


「・・・。」
「捜す気はあるわ。」

向日は黙り込んだ。
こんな顔をさせたかったんじゃない。怒っている。自分のせいで。

「ケンカをするなら2人だけでやって。それこそ時間がもったいないよ。他の人は急いで捜してるのに。」



放っておいても別に支障はないだろう。けれど、

「大事な・・・友達だもん。」

学校内だから、事件に巻き込まれる、なんて事は無いとわかっていても。心配するのは当たり前。

それに、

「・・・なんで、白石君なの。」
「ん?なんて?」

昨日、ご飯なんて食べない乃亜ちゃんが、渋々ご飯を食べた。私やことりちゃんがあんなに言っても、軽く流すのに。昨日今日会ったばかりの白石君と遠山君は連れてきた。


「・・・っ。」

「さ、佐倉さん泣いてるの?」

やだな。私、嫉妬してる。悔しいとか思ってる。白石君達は一体何を乃亜ちゃんに言ったの?
どうして、私達じゃないの。

「・・・え、」
「泣いたらあかんで。」

目の前にはグレーのハンドタオル。身長の高い彼が、視線を合わせて渡してくれた。


「あ・・・ありがとう。」
「さすが銀さんやね!そうやで!早く見つけましょ!佐倉さんも、泣いたら可愛い顔が台無しやで!」

重たい空気のはずなのに、四天宝寺はそれが無かったかのように明るく喋る。


「・・・帰る。」
「岳人、」

それを見た向日は背を向けた。

「俺がいても邪魔だろうし。」

教子に嫌な思いさせた。怒らせた。・・・泣いた。まだ何か言うかもしれない。
これ以上、悪い印象は持たれたく無い。

「・・・悪かったな。」

「・・・いや、俺もすまんかったわ。」

一氏にそれだけ告げると、向日は来た道を戻って行った。
それに続けて日吉も歩き出す。

「日吉はどこ行くねん。」
「氷帝は広いですから。違う場所さがして来ます。それよりも、」

それだけ告げると、教子に目をやる。

「佐倉先輩落ち着かせた方が良いんじゃないですか?」
「わ、私は大丈夫だよ。」
「その顔がですか。」
「・・・うぅ、」

一度緩んでしまえば、立て直すのは難しい。完璧な私事で泣いているなんて、みっともない。

本当、みっともない。


「せやな。・・・じゃあ佐倉さんは俺が部室にでも連れてくから、日吉は悪いんやけど、」

「道案内ですね。わかりました。」

忍足の言葉に日吉はそれだけ答えると、石田、一氏、金色によろしくお願いしますと軽く頭を下げた。

「ちょい口悪い奴やけど、ええ子やから・・・頼むわ。」
「財前もこんなもんやから、気にすんなや。」
「よろしくねん!若君!」
「(馴れ馴れしいな・・・)」

日吉達を見送ったのち、忍足は教子の背中を軽く撫でて、「行こか。」と歩き出した。
それにしても、

「(どうもうちの部員は喧嘩っ早いやつが多いな。)」

忍足は教子に気づかれない程度にため息をついた。









「遅い。」
「まだ五分しか経ってないよ、崋山さん。」


ことりと滝はコートで待っていた。全員が行ってしまったら、万が一帰ってきた時に行き違いになってしまうからだ。

崋山さんはせっかちさんなのだろうか。まだ五分なのに、「遅い」の連発である。

今コートにいるのは忍足とは別で部長代理の俺と崋山さん。

「きれいな花が咲いとーばい。」
「先輩似合わないっすね。」

そして四天宝寺は千歳君と財前君が残った。ほら、連絡係は必要じゃん。

しかし、千歳君ってすごく背が高いんだけど、その割に空気がほんわかしてるんだよね。さっきも蝶々みて「かわいか〜。」って笑顔で言ってたし。

白石君曰く、「千歳は放浪癖があるからな、捜索には入れられへん。」とのこと。うちで言う「ジローはどこででも寝るから目を離すな。」と一緒だよね。多分。


「千歳ってさ、可愛いもの好きだよね。」

崋山さんが千歳君に言う。

「そーかいな。崋山さんもむぞらしかちゃ。」
「え?ちょっと意味がよくわかんない。」

えーと、彼って関西人ではないのか。むぞらしかって・・・。

「先輩、むぞらしかちゃってどういう意味っすか?」
「秘密ばい。」

嬉しそうに千歳君は言う。
むぞらしかって・・・かわいい、とかだよね。大胆だなぁ。

・・・方言か。

め、めんこい。



「・・・っ似合わない。」
「?どうしたの、滝。」

俺、標準語で良いや。都会人、さいこー。・・・跡部と忍足がいないと冷静な人がいない。

「な、何でもないよ。それより遠山君はどうして荒波さんを引っ張って行っちゃったんだろ。」
「・・・それ。本当それよね。」

話を戻したところで、崋山さんは真面目な表情になる。

「アイツ球拾いだったでしょ。ちょうど良かったんじゃないの?アタシが洗濯している間に!
ああああっっ!アタシが球拾いだったら今頃金ちゃんと校内お散歩したのに!喜んでしたのにっっ!!」

「・・・か、崋山さん・・?」

本当に残念そうに崋山さんは言った。遠山君と、そんなに、出かけたかったのかな・・・?

「さ、散歩なら、俺で良ければいつでも行くよ?」
「滝じゃないの!」

うっわ、傷つく。

「ご、ごめん。」
「滝じゃタッパがあるから!」
「たっぱ?」
「身長の事ばい。」

千歳君物知りだな。でも、こう言ったらなんだけど、俺、そんなに身長ないよ。

「愛でる対象じゃないのよね。ほら、金ちゃんとか、ジローちゃんとか!愛らしい感じの子!」


・・・よくわからない。

「あ、財前!財前もそうだよ!」
「な・・・なんすか。」

今度は財前君?二年生の子だよね?崋山さんは彼に向き直して、じっと見つめだした。それに対して彼は一歩後ずさる。

「・・・かわいい。」

見つめたのちにそう言った。
あ、財前君赤くなってる。ていうか、崋山さんに見つめられただけで、照れるよね。

「な、何言うとるんですか!意味わからんっすわ!」
「財前むぞらしか。」
「せやから意味わからんちゅーとりますやん!」

財前君は2人に背を向けた。耳まで真っ赤だ。

「あー・・・。」
「そげな残念そーなな顔せんでちゃ。自慢ん後輩なんや。」

・・・方言丸出し過ぎる。ほら、崋山さん難しそうな顔してる。


「早く帰って来ないかなぁ。金ちゃん。」

崋山さんは待ち遠しそうに呟いたあと、再びベンチに座った。


・・・というか、遠山君のほうなんだ。












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