のううた | ナノ

食事、それは三大欲求のひとつである。

「美味しい?金ちゃん。」

「っはぐっ・・・めっひゃ・・・んぐっ・・・ふはいで!」


時は進み、夕食時。
口いっぱいに頬張る遠山を、ことりは満足そうに見つめる。

少し食べこぼしているが、そこも愛らしい。

「金太郎、味わって食べ。」
「せやけど白石!めっちゃうまいもん!」

白石の注意にも、にかっと笑顔で答える遠山。そんな遠山に、白石ははぁ、とため息をついた。

「すまんな、跡部君。」
「何がだ?旨そうに食ってるじゃねえか。」

少し下品な遠山の食べ方に、跡部は別に不満など無かった。
結局四天宝寺が来た目的は、氷帝との練習試合とのことだ。
昨年、全国大会に行った学校同士、練習試合をしないか、と顧問二人が決めていたらしい。
話こそはまとまっていたのだが、完全に榊の伝達ミスだった。

渡邊のマイペースさもそうだが、ことりの道案内?でまんまと部活終了時に来てしまった四天宝寺は、跡部邸に一泊お世話になる事になった。

練習試合は明日行うことになった。

「しかし、マネージャーさんは、跡部君の親戚やったんやね。」

白石は改めてご飯を食べながら、ことりを見てから言った。
それに対してことりはちらりと白石を見たが、何事もなかったかのように、遠山へ目を戻した。


「まあな。」

白石の言葉に対して、跡部は短く返事をした。

「なぁ・・・何でそこの席だけ空いてんのや。」

忍足が不思議そうに聞く。
埋まることの方が珍しい席。
お皿だけ置かれたその席は、ポツリと淋しそうだが異様に目立っていた。


「・・・崋山。」
「食欲無いんだってさ。」

跡部は諦め気味にことりに聞いたが、予想通りの返答にため息をついた。

一週間が経つ。この3人が来てから。その間、乃亜がご飯を食べるのは二日に一度。それも普通の人の半分以下。流石に病気の域だ。

「私、呼んでこようか?」

教子が心配そうに聞く。するとことりは首を横に振る。どうせ来やしない。

「いいよ。お腹空いたら勝手に来るでしょ。」
「えー!こんなにうまいのになんでなん!」

ことりの答えに、遠山は不満そうだ。こんなに美味しいご飯を、ここに住んでいるなら毎日食べれる!それなのに、食欲が無いだなんて・・・!

「ワイが呼んでくるわ!」

ご飯粒を口の周りにつけたまま、遠山は立ち上がると、足速にリビングから出て行った。



「・・・金ちゃん。」
「追いかけて来ますわ。」

呆れ果てた白石の横で、財前が立ち上がる。

「いや、大丈夫や財前。俺が行くから食うとき。」

ありがとな、と財前に告げたのち、白石は立ち上がる。
ここは部長の役目、可愛い後輩に任せるなんて。

「すまんな、跡部君。」
「気にすんな。それにアイツ呼んでも来ねぇだろうし。」

勝手にしろと言わんばかりの対応に、白石は首を傾げながらも遠山を追いかけた。


「なんやそのもう一人の子は普段から食べない子なん?」

金色は不思議そうに隣にいた教子に聞く。

「うん。元々あまり食べない子なんだ。」
「気分屋さんなのね。」

「そ・・・うなのかなぁ。」

気分屋なのかはイマイチわからないが、頑固だ。やると言ったら絶対やる、やらないと言ったらどう転がってもやらない。食べない、といえば本当に食べないのだ。

「多分来ないよ、私たちが言っても来ないから。」

少しさみしそうに教子は告げた。本当。仲が良くてもできないこともある。

「だ〜いじょぶやで!金ちゃんも蔵リンもそういうの上手いから!」

そんな教子に金色は笑顔で言い返した。

「だから、な!そんな顔しちゃダメよ!ダメダメ!女の子は笑ってなきゃ!」

多少おネエみたいな言葉遣いが入るが、逆にそれが教子にとっては緊張せずに済んだ。
うん、と笑顔で返す。

「おい女、小春に慰めてもろたからって調子にのんなや。」

更に金色の隣に座っていた一氏がワントーン低めの声で教子に言う。

「ごっ・・・!ごめんなさいっ(あの人凄く恐い!)」

ドスの効いた一氏の声に、教子は涙目になりながら謝ったあと、金色から目を逸らした。

「ゴルァ、一氏!女の子になんてこと言うねん!」
「女なんて知らん!小春は俺だけ見てればええんや!」
「それはテニスの時だけやろ!」

妙に突っかかってくる一氏に、割と本気目に金色は怒る。

確かにテニスではダブルス。渡邊監督に言われ、四六時中一緒だ。互いを知るため。けれど今はそれを、発揮する場ではない。

「え」

しかし何故か一氏は愕然としている。
おいおい、演技力が高すぎないか。そんなにショック受けるか?いや、まさか本当に・・・


「え?」
「え」

「混乱するホモカップル、と。」

2人の混乱を他所に、財前はそんな2人を写真に撮る。今日のブログは二回更新だな。一回目はもちろん全力しりとりの回。アクセス数上がるわ、と財前は心の中でガッツポーズを取る。

「ちょちょちょ、光君なにしとんの!」
「いえ、何も。」
「何もやあらへん!恥ずかしいやろ!送れ!」
「一氏は黙っとれ!」



「・・・楽しそうだな。」

金色、一氏、財前を見ながら、跡部は言う。

「大阪の血が騒ぐんやろ。」
「俺らは転入組やけん。あそこまでは盛り上がれなか。」

石田と千歳は、見慣れた光景に、目を細めて笑った。

「何言うとんねん。銀も千歳も十分ギャグセン高いわ。」
「せやせや、それに比べて俺なんて。」

そんな2人に忍足と小石川が言う。小石川に至ってはへこんでいる。

「小石川ー、へこんだらあかん!男はな、度胸や!」

そんな小石川の背中を忍足はバンバン叩く。

「・・・顔、の間違いちゃう?」
「そ・・・それは白石とか財前とかやろ。」

負のオーラを巻き散らかしながら、小石川は言う。忍足は狼狽えながらも答える。

「・・・副部長やのに、影薄いし。」
「な、何言うとんのや!小石川!全然影薄くなんかないやろ!」
「謙也にはわからへんのや、自分かて顔、ええやん。」

時々、本当に時々だが、小石川は面倒臭いほどネガティブ思考になる。

「この会話、面白いたい。」
「座布団一枚ずつ、やな。」
「ちょお待ち!今ボケてへんから!」














「ここやな!白石!」
「ここやな!やあらへんやろ金ちゃん!人様の家を勝手にうろついたらあかん!」

遠山を追いかけに行った白石は、序盤で彼を見つけたのだが、何故か彼は鬼ごっこだと判断し全力で走りだした。全速力には全速力、誰も知らないところで本気の鬼ごっこが始まっていた。

やっとの思いで遠山を捕まえれば、偶然、乃亜 と書かれた部屋にたどり着いた。
親御さんはどちらも海外、親戚3人と跡部、あとは召使さんたちしかいない。

隣の扉は教子、更にその隣はことり。間違い無く、この部屋だろう。

「乃亜、やな!乃亜ー!開けてやー!あーけーてーやー!」

遠山はドンドンと扉を叩き出した。

「こ、こら金ちゃんやめい!」

中々力強く遠山が叩くものだから、白石は慌てて止めに入る。

「まだまだやで白石!呼ばなあかんで!乃亜ー!乃亜ー!開けてやー!」

白石を華麗に避け、遠山はまたドアを叩き出す。

「あ゛ー!はいはい開けますよ!」

そんな遠山に乃亜は若干キレ気味で告げる。
そしてドアを開けて、遠山と白石を交互に見た。



「・・・・・・。」
「遠山金太郎や!よろしゅう!」
「す、すまんなぁ、騒いでしもて。」

遠山と白石をがっちりと目で捉えたあと、乃亜は黙り込む。

「・・・体調でも悪いん?」
「乃亜ー、一緒にご飯食べようやー!」

心配をする白石を他所に、乃亜は静かにドアを閉める。

「え、」
「あー!なんで閉めるんやー!」
「いません。」
「いやおるやん。」


なんで四天宝寺がいるんだろう。乃亜は首を傾げる。
今日はゴールデンウイークで、部活してて。物干し竿の件で跡部が笑いを堪えてて・・・

「うわうざ、跡部うざ。」
「何て?」

結局今回は教子に役割変わってもらう為に教子のとこに行って。向日がとてつもなく嫌そうな顔してきて、

「あーあ!向日もうぜえ!」

意味わかんない!あたしなにもしてないし!来ただけだし!
あいつ、あたしの事嫌いだろ!


「・・・嫌われすぎ。」

宍戸にも嫌われてるし、他にもいっぱい。元の世界じゃいっぱい。

「押すでー!乃亜ー!」
「や、やめや、金ちゃん!」

あ、そうだ。
ことりの帰りが遅くて、教子が心配してたんだ。そしたら、跡部がことりを迎えに行ってて、更にその後ろから黄緑色の集団が来たんだった。練習試合やる予定だったって。

「ぅわっ?!」

ドアに寄っかかっていた乃亜は吹っ飛んだ。


「だ、大丈夫かいな!ほら金ちゃん、彼女転んでしもたやろ!」


ごめんな、と白石は告げ、手を差し伸べた。
乃亜はその手を見つめたのちに、そっと手を取った。

「あ、ありがと。(優しいな白石って)」
「お・・・おう。(な、なんやいきなりしおらしくなったな)」


互いの中で抱いていた印象とはべつの部分に、つい考え込んでしまう。とくに特別な印象は無かったのだが、先ほどの不機嫌な顔と正反対の上目遣い。
これがまた、

「かわ、」
「え?何?」
「い、いや、何も!」

げふん、とわざとらしい咳払いをしながら白石は目をそらした。


「なー、白石だけずるいわ!」
「え、あ、」

気がつけば乃亜はもう立っていたのに、手を離すのを忘れていた。遠山の声でそれに気づき、しどろもどろで手を離す。
対して乃亜の方は気にするそぶりは無かった。


「なーなー、白石は手ぇつないだやん?」
「繋いだとは言わないでしょ。」
「ワイもワイもー!」
「はあ?」

年上のすることを真似したい年頃なのか、変なところで遠山金太郎が主張する。乃亜は呆れ顔で遠山を見る。遠山金太郎、リョーマと同じ一年スーパールーキー。

リョーマと同じでちっちゃい。・・・実際並ぶと、そんなに小さくないよね。あたし、背低めだし・・・。

ことりが可愛がってたなぁ。あいつ、ちっちゃい子好きだからな・・・。と言う事は、檀君も好きなんだろうな。弟いるもんな。


「ぎゅーってしてもええ?!」
「は、金ちゃん、」
「え、やだ。」
「ぎゅーっっ!」
「いででででっ!!」

全く話を聞かない遠山は乃亜の拒否を無視して力強く抱きついた。不意打ちもあってか、想像以上の力に、可愛いとは程遠い叫び声をあげる。


「金太郎!いい加減にせぇ!」
「せやかて白石!むっちゃ柔らかいで!」
「痛い痛い痛い!こっちは痛いって!」
「や、やわ・・・。」

遠山を引き剥がそうと、白石は彼を引っ張ったが、 柔らかい の一言で思考が停止する。

「それにな、白石!乃亜ええ匂いなんやでっ!」




ええ匂いなんやで・・・。


なんやで・・・。


やで・・・。


やで・・。




で・・。


「・・・そ、そりゃあ・・・(女の子なんやから、ええ匂いくらい。)」

エコーのように遠山の言葉が頭に響き渡る。
女子同士がよく、「いい匂いがするー!」とかはしゃいでいたが、それか。


「いやちょお待ち、」

これじゃあ自分が変態じゃないか!違う!そんな事ない!断じて違う。

確かに、手を差し出した時の上目遣い、凄く可愛かった。いや、普通に可愛い。低めの身長に、大きい目。




そして、イイニオイ。

「白石っ、見てないで助けてよ。」
「・・・あ。お、おうっ。」

頭の中の無駄な意識を必死に振り払い、白石は遠山を剥がす。改めて自由になった乃亜は、二、三歩下がり距離を取った。



「すまんかったね。」
「いーよ、もう。」
「ごめんなー、乃亜。だってワイ、乃亜と一緒にご飯食べたかったんやもん。」

食わないってば。
そう言おうと思ったがとりあえずやめた。

食べないったら食べない。そう言い続けたら、到頭誰にも呼ばなくなった。

それはわかっていた事なのに。

「どうして?」
「せっかく美味いご飯なんやから、食べようや!」
「せやで。あんまり食べないらしいやん?
皆で食べたら、気持ちも変わるかもしれへんで。」

遠山は楽しそうに、一方の白石は優しそうに告げた。


「・・・。」

「一緒に食べよ。・・・な?」






白石が遠山だけでは無く乃亜まで連れて、戻ってきたのはまた別の話。











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