騒いだもん勝ちや。
「りんご。」
「ゴリラ!」
「ライオンキング。」
「グリとグラ。」
「ら・・らっきょ食べたい。」
「いらんやろ。」
「老後安泰。」
「いや、早すぎやわ。」
「輪っか!」
「か・・・堪忍な。」
「なんでやねん!」
少年は立ち上がる。
待て待て待て、と。
「いやぁん、謙也君、ん、が付いたから負けやで!」
楽しそうに別の少年が言う。
「なんでやねん!しりとりやろ!なんでちょいちょい会話文入ってくんねん!」
「なんでもありなのがしりとりやろ。」
「なんでもありちゃうわ!」
椅子から立ち上がり、盛大に体を動かしながらツッコミをいれる。
「なんや細かいやっちゃな。」
「あんまり怒ると早く年取るばい。」
「いやぁん、おじいちゃんになっても素敵やでっ。」
「電光石火。」
「怪人ぞなー。」
「いつまで続けとんねん!古い!古いわ!ゾナーとか!お前年なんぼやねん!」
電車の中、物凄く迷惑極まりない。その団体の中にいた少年が少し離れた席へ移動する。
「ちょ、財前どこいくねん。」
「先輩らうるさいっすわ。」
「光君のいけずぅ!泣いちゃうわん。あ!ん、が付いたからアタシの負けね!」
やっちゃったわ!と少年は自分の頭を軽くポン、と叩く。
「自ら負けを認めるなんて・・・!小春はなんて謙虚なんや!」
「いや、もう終いやろ!」
「えー!ワイまだしりとりやりたい!」
「意地悪な謙也はんがダメだ言うとるで、金太郎はん。」
「ケチー!謙也のどケチー!3丁目のたこ焼きのおっちゃん並みにどケチや!」
「3丁目のたこ焼きのおっちゃん誰や!もう黙りや!」
「あんたが黙ってくださいよ。」
「財前?!」
うるさいなぁ、本当に。財前はため息をついたのち、外の景色を見た。ゴールデンウィークにどこ行かすっちゅー話や。
今は横浜。
「跡部さん。」
乃亜は真剣だった。そんな乃亜に跡部は振り返る。
「何だ。」
「ひとつお話がございまして。」
「・・・だから何だ。」
早く言え、と言わんばかりの跡部の態度に乃亜はモジモジする。本当に言っていいのだろうか。笑わないだろうか。
「あたし、この間、洗濯したでしょ?」
「ジローが膝枕強要してたやつだろ。」
そう。結局干せずに、様子を見に来た鳳が全部やってくれた。怒られはしなかったが、ジローちゃんにはめっちゃ怒っていた。
そりゃそうだ。テニス部がテニスしないで何をするんだよ。
あいつ、本当によく寝るな。
あ、だから、あたしはたまたまだよ!?
「・・・物干し竿、高くて届かない。」
用件をやっと跡部に言う。
「・・・。」
笑 い や が っ た !!
鼻で!ふっ、て!
「笑ってんじゃねーよ!」
「・・・笑ってねえよ・・・っ」
「堪えるぐらいなら笑え!」
確かにマネージャーはいなくて、当番制なのはわかるけど!地味に届かないんだよ!背伸びして気持ちあと2、3センチ足りないんだよ!跡部は今も尚、声にならない声で笑っている。
「・・・うざい。」
「素直でいいんじゃねぇの?」
「は?」
不満の意を述べれば、意外な返事が返って来た。素っ頓狂な声が出てしまった。ちょっと恥ずかしい。
「そうやって無理なものはきちんと言えよ。」
「あ・・・はい。」
なんでいきなり真剣に言われているんだ?しかし、余程ツボったのか肩がまだ小刻みに震えている。
あたし、大人だからね、もう言わないさ。
「明日にでも直して貰うから、今日は佐倉と交換でドリンク担当だ。」
「うん、」
そういう所はいい奴なんだけど、・・・そういう所は。
パチン!!俺様の美技に酔以下略、は要らないんだよな。
「・・・何だ。」
「・・・いや。」
やめよう。あんまり見つめると、死ぬ。イケメンオーラにやられる!仁王さんだって遠くから拝む程度で充分なのに。
「・・・嫌われたかなぁ。」
「大丈夫じゃねえの。」
「え?」
まさか口に出てたか!
「宍戸は悪いやつじゃねえよ。」
あ、宍戸か。・・・いや、うん。忘れてたわ。話さなさすぎて。
「あー・・・。」
「・・・何だ、仁王の方か。」
跡部はハァとため息をついた。また仁王かよ、の目だな、これは。はい、そうです。仁王さんです。
あわよくば聞きたい。どうしてペテンしても自分がいるの?なりたいな。あたしも仁王さんみたいに。
「自虐!いっっった!」
「・・・何してんだ。」
暴走するべからず、誰も突っ込んでくれない。脳内だからね!
行き過ぎはいけないね!本心なのかネタなのか、本音なのか嘘なのかわからなくなる。
だから天誅!って感じでビンタしたら予想以上に痛かった。
ほら、この跡部のドン引きした目。忘れない。
ドン引きしてもイケメンは崩れないんですね、爆発しろ。
「・・・教子と代わってくる。」
「・・・ああ。」
これ以上はもう跡部の目が痛いので、教子の方へと足を進めた。
「それでな、教子、侑士の奴がよ・・・。」
「うん。」
教子は笑顔で話を聞いてくれる。3人の中じゃ、一番背が高い。・・・俺の方が小せえよなぁ・・・。ジローよりあるし。
背の高い女子は苦手だ。
自分の背が低いのが際立つから。
今だって10センチは無いにしろ、結構な差だと思う。
「あいつ恋愛小説好きなんだぜ!」
「そうなんだ。男の人にしては珍しいね。」
女は男を背で見る。男だって自分より小さい奴を可愛いと思う。
教子たちが来て一週間が経つ。偶然か、跡部の陰謀かは知らねえけど、俺のクラスには誰も来なかった。退屈。
この一週間で、崋山と荒波の名前は瞬く間に広まった。転校生が可愛いって。
確かに崋山は顔立ちが綺麗、美人だ。でも口調が少しきつい。機嫌が悪いときはバッサリ言うし、あいつジローラブだし。
何より、近づくなオーラ。それでもくる奴がいたら、拒みはしないが、自分からはいかない。そんなオーラ出してて話に行けねえっつーの。
・・・滝はよく話してるよな。まあ、滝だし。それに俺と目線あんまり変わらないし。
荒波はどちらかというと可愛い系。背だって俺より小さい。明るいし、誰とでも話してる。既に俺のクラス、何人か気になってる奴いるみたいだし?
ただ、だるい。謎。謎女。
騒ぐときはうるさすぎるのに、黙っていれば一日中、ずっとだ。
返事も素っ気ない。崋山は少し見た目で読み取れるけど、荒波の場合はちょっとビビる。俺が悪いのかよって。
その2人の間にいるのが教子。たまにビクビクしてる時あっけど、普通に話してれば優しいし、何よりよく笑う。
騒がしくも無いし、・・・ああ、一部を除けばな。笑顔だって柔らかい。
一番女子っぽい。それに、可愛いと思う。話をちゃんと聞いてくれるし、
「向日君はどういうの読むの?」
気遣いもある。
「小説読まねーなー。眠くなるし。」
「あはは。字ばっかりだもんね。」
この普通の会話が心地いい。教子たちも、同じ人間なんだなって。何も変わらない。
普通の、ちょっと気になる同級生。
「氷 帝 学 園 。」
「やっとついたなぁ。」
「オサムちゃんがあっちやこっちや寄り道するからやろ。」
そして先ほどの集団。
氷帝学園、中等部の門の前でかれこれ10分。
顧問、渡邊オサムはんー、とだけ曖昧な返事をする。
「寒そうな学校たい。」
「いや、寒ないやろ。ちゅーか中入らへんの?」
千歳と忍足が続けざまに言う。
財前は呆れたように携帯をいじり出す。
「待ち合わせや、ここで待とうや。」
「中入った方がええんちゃいます?」
「そうやで、小春の言う通りや、ここじゃ通行の邪魔やて。」
動く気配のない渡邊に対し、今度は金色と一氏が告げる。しかし肝心の顧問はんー、のままである。
「・・・あの。」
そんな集団の後ろに女生徒が1人。
「ん?どないしたん?お嬢ちゃん。」
渡邊は笑顔で問う。
「通行の邪魔なんです。門前で立ち止まるな。」
崋山ことりはそれはそれは不機嫌そうに告げた。
四天宝寺中テニス部は、光の速さで道を開けるのであった。
そう、またの名を浪速のスピードスターズ。
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