それぞれに思うこと
「あれ?荒波さんは?」
「洗濯。」
ふぅん。
なんとなくだけど、宍戸の様子が可笑しかった。3人の事、受け入れていないみたいで・・・特に、荒波さんを好いていない。
確かに、合宿中、仁王君?のことばっかり喋っていた。熱狂的なファンみたいだった。
うちの学校では、跡部のファンクラブがうるさいし、きっとああいう類なんだろう。
でも実際、仕事はきちんとやっていたし、サボってはいない。暴走はしていたけれど。
「ねえ跡部。」
「なんだ、萩之介。」
全体を見ながら、跡部は返事をした。佐倉さんは無理してキャパを超える仕事をやっている。崋山さんは言われた時間できっちり仕事をする。ただ、よくぼーとしてる。荒波さんはとりあえず早く終わらせてどこかに行ってしまう。皆迷惑はかけていない。
「荒波さん変わってるね。」
運動量は多いと思う。お掃除だって、大浴場の前に全トイレやったみたいだし。頑張り屋さん、なのだろうか。
「珍獣みたいだよな。」
「・・・そこまでは言ってないけど。」
珍獣は言い過ぎじゃないかな。
「宍戸の様子が変なんだ。お昼の時に、なんか荒波さんの事睨んでたし。」
宍戸ってば、別に仲良くない人には容赦がないから。
まさか・・・まさか女の子に失礼な事言ってないよね?
「合う合わねえはあるからな。」
「・・・もっと深いとこだと思うんだけど。」
そう言えば、跡部がこちらを見る。そして嘆息した後、部誌に目をやった。
「・・・お前が気に病むことじゃねえよ。」
それよりも崋山見に行ってくれ。
それだけ告げて、彼は歩き出した。なんでこのタイミングで崋山さんなんだろう?
もしかして、
「頑張れよ。」
・・・あはは。
「・・・跡部には敵わないなぁ。」
バレバレだ。
俺、彼女、好きだなぁ。
今頃手際良くドリンク作っているんだろうな。運ぶの手伝おう。
少し、心が躍った。
「じゅ、重労働!」
ボール拾いだよ!多いよ!
あれ?なんかデジャヴを感じるような。
「佐倉さん、それ、合宿中も言ってたで。」
おかしそうに忍足君が言った。
「ジローと同じクラスでびっくりせえへんかった?ずっと寝とるやろ?」
「うん・・・すごかったね。でも、跡部君の話聞いたら、乃亜ちゃんも凄いね。」
あれはびっくりだよ。そしたら忍足君は首をかしげた。
「・・・仲ええんちゃうの?」
「クラスは別だったんの。それに二年生までは起きてたし。」
三年生では皆クラスがバラバラになった。だから実際には見ていないのだけれど、乃亜ちゃんはほぼ全授業寝てるんだって。
うちの部長が言ってた。部長と乃亜ちゃんは同じクラス。
「あの子、頭の回転早いやろ。」
「学年はトップだったよ。」
塾も一緒だったけど、お父さんが一番頭良いって言ってた。うちのお父さん、塾長なんだ。
頭がよかったからか、あんなに派手な金髪でも、先生も塾もでも何も注意されていなかった。
「(・・・頭の回転早いから、色々と隠してる部分があると思うんやけどな。)」
「忍足君観察眼凄いね。」
乃亜ちゃん、明るくて人懐っこくて、男子に人気があった。成績はギャップだから、頭の回転早い、なんて考えにはいかないと思うけど。
「そんなことあらへんで。」
「乃亜ちゃん対する第一印象って、人懐っこい、とか明るいが殆どだから、なんか意外なとこ見てるね。」
洞察力が鋭いんだろうな。そう言えば、天才?だったっけ?
「そない言うたら佐倉さんの方が明るいと思うねんけど。 」
「ええ?そんなことないよ。」
「それに謙虚で、一番女の子らしいで。」
お、女の子らしいって・・・!
「・・・真っ赤やけど?」
「ま、まままま真っ赤やないです!正常でやす!」
「・・・方言めちゃくちゃやな・・・あ。」
「足速・・・。」
「・・・はぁ。」
どうしてこうなった。
洗濯をしてたはずだ。
いまから干そうと思った瞬間、迷える子羊がまたタックルして来た。仕事中だと言えば「膝枕膝枕膝枕膝枕膝枕」とうるさかったので、今現在その状態に至る。
「・・・よく寝るなぁ。」
人のこと言えないけれど、ジローちゃんよく寝るな。いや、あたしのは違う。たまたま夜寝れなかっただけ、そうたまたま。
「・・・なんで、あたしなの?」
ことりの方がモテますが?
・・・なんて言っても答えは変わらないんだろうなぁ。
「ちっちゃくてかわEーじゃん!」
基本的には外面を見ていて、実際のこのネガティブ思考には気づいていない。
俺が守ってやるとか、ほっとけないとか。それは鈴ノ宮の荒波乃亜であって本来の荒波乃亜ではない。本来のあたしなど、見せはしないけれど。
「おはよう、芥川氏。」
「んーん、まだ寝るからー。」
「え、いやそれ、いだだだだ!」
もう起きなよ!テニスしろよ!部員だろ!レギュラーだろ!腰に腕を回すな、痒い、・・・というか、それは膝枕じゃなくて絡みついてるだけでは?
「ねぇ、あくた、いたたっ」
なんで力強めるのよ、ちょっと、やめて。
「zzZ・・ぐがー・・・」
・・・イビキ酷いなぁ。つーか、寝るの速いよ。
「・・・はぁ。」
仕事してないって怒られるんだろうなぁ。ため息をついて、とりあえず満足そうに寝るジローちゃんのもふもふの髪を撫でる。
「宍戸。」
「・・・なんだよ。」
跡部は宍戸に声を掛ける。相変わらずピリピリしている。
「お前態度に出過ぎだぞ。」
「知るかよ。」
つんけんした宍戸の態度に、跡部は頭をかく。
「帰る場所がねえんだから仕方がないだろ。」
「本当にそう思ってんのかよ。」
「アーン?」
ギラついた目付きで宍戸は睨みつけてくる。相当だな、と跡部は内心思う。
「仮にそうでもマネージャーにする意味はねぇだろ!」
「監督の意見だぞ。」
「ウザったいんだよ!きゃっきゃっきゃっきゃっ高い声あげて騒ぎやがって!」
異世界から来ただ?そんな非現実的な事、漫画みたいな事あり得るかよ!
「どうやって証明すんだ。光から出てきた事。」
「お前は見てねぇだろ!それとも跡部、お前の演出じゃねえの?馴れ馴れし過ぎだろ。」
初対面だろ。部外者だろ。他人だろ。今までこれで良かったんだ、マネージャーだって取らなかった。事情があるにせよ、三年に上がって今更マネージャーは無い。
現に滝やジローはベッタリくっついている。
「なんちゅー事、言いよんねん、宍戸。」
「それは崋山さん達にも跡部にも失礼だよ。」
滝と忍足が、少し怒り気味に言った。まさか2人が来るとは思わなかった跡部は、ただ、宍戸を見る事しか出来なかった。
「別に仕事やっとるやん、あの子達。なんでそんなに悪い捉え方するん?」
「実際に支障きてんだろうが。」
「例えば?俺は別に苦じゃないけど?支障なんてきたしてないし。」
堂々と言ってのけた滝に、宍戸は押し黙る。滝は優しい性格だ、男女両方に。だから人気はあるが、悪く言えばお人好し。
「俺たちただの中坊だぞ。さっさとお偉いさんとかに任せときゃ良いんだよ。」
滝が良い人だからといって、あの3人を面倒見るのは筋違い。仮に今、助けてあげるとか、面倒を見る、だなんてのは口だけで、何も出来やしないんだ。だったら変な期待は持たせるべきではない。
「アホか。」
「は?」
「お偉いさんに任せたとこで面白いマスコミ内容が出来たて親身に考えてくれへんよ。」
「本人達の意見無視でテレビに流して変な番組立てて、終いには宇宙人扱いだろうな。」
忍足と跡部が続け様に言う。
大人なんてそんなもの。ただただ偉そうにしてるだけで、出来てるふりして何も出来ていない。
「俺らだって何も変わんねぇよ。」
「気の持ち方捉え方だろうが。わかっててやるのか?」
頼る場所が無くて、帰れる場所も無くて、それを知ってて好奇心だけの大人に任せるのか?
「ねえ、宍戸。俺たちが嘘だって言えば、形上は嘘になるかもしれない。けど、それでいいの?」
「信じろってのか。」
「逆の立場ならどうするの?いきなり、よくわからない場所に来て、お前らはこの世界の人間じゃないって言われたら。」
滝は悲しそうな顔で言う。考えてみる。集団の前に突然現れて、不振がるような、気味悪がられる目で見られて。
「お前の事情は知らないけれど、とりあえず警察行け、なんていうのは」
あまりにも
「残酷すぎるよ。」
彼女たちは助けて欲しいなんて言っていない。本当は直ぐに帰りたいだろう。こんな訳のわからない場所で、嫌な目で見られて。
「・・・何も出来ねぇじゃねぇか。」
「皆そうだよ。」
解決策なんて無い。わからない、全く。今こうやって一緒にいるのだって、マイナスかもしれない。大人に差し出すのも手かもしれない。
「俺たち、確かにまだ中学生で子供だね。でもさ、人の気持ちはわかるだろ?」
あの顔を忘れられない。絶望に満ちたような、来ては行けなかったような、他にももっと、あるかもしれないけれど、とりあえずわかるのは完全に怯えていた事。
「あの顔を見て、放っておくことは出来ないよ。」
少なくとも俺は。
滝はそう言って、泣きそうな顔をした。出来る事なんて限られている、いや、無いかもしれない。それでも。
「いつまでおるかわからん。今日までかも、明日までかも、それかずっとかも。だったら一緒にいる間、嫌な気分よりは楽しい方がええやろ?」
忍足は言う。
「せっかくこうして会えたんやったら、嫌いなままよりは仲良うなりたいやん。」
せめてもの短い時間、出会ってしまったからには。
「出会ってしまったからには、満喫しようじゃねぇか。」
この不思議な少女たちに。
「・・・。」
「宍戸、」
「・・・邪魔しねぇならな!」
出会ってしまったからには、
もっと知りたい、
話したい、
触れたい。
それはきっと、大切ななにかに変わるのだから。
出会ってしまったからには・・・
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