のううた | ナノ

騒ぎの終わったその後に

閉会式?も無事に終わり、バスに乗る少し前。

「ぶっは!なにその格好!花柄!花柄ワンピ!」

乃亜を指差しながらことりは盛大に笑う。

「乃亜ちゃんにしては、珍しいね。」

教子は全身を見る。

「・・・まあ。」

そんな2人に苦い顔をしながら、申し訳なさそうに乃亜は縮こまる。浴槽に飛び込んだため、服がなくなってしまった乃亜は、急遽跡部が取り寄せた服を着ていた。


「えー、かわEーじゃん。」
「・・・どーも。」

芥川は満足そうだ。
普段はショートパンツばかりを履いているため、ワンピース、ましてや可愛らしい花柄を着せられたんじゃあまるで罰ゲームだ。

ちらりと跡部に目線を送るが、残念な事に彼は手塚と談笑中だ。談笑?笑ってはいないな。手塚が。


「俺は似合ってると思うけど。可愛いし。」

「・・・ありがと。でもゆっきぃは誰にでも言いそう。」


そんな事ないけどなぁ、と幸村は首を傾げながらまじまじと見つめる。華奢だし、凄く似合ってるし。好きな感じだし、その服。
いや、彼女が着ているから、すごく良く見えるんじゃないだろうか。


「乃亜ちゃん、仁王君に見せてくれば?」
「いや、無理無理無理!お目汚しだよ!そんな、見せられん!」

教子に言われた乃亜は、手で大きくバツを作る。そして、首を振って否定する。



「乃亜、ちょっといいかな。」

そんな乃亜に幸村は声をかける。

「んー?おっけー!」

何の迷いもなく乃亜は幸村に返事を返してついて行った。


それを見つめる男が一人。


「・・・幸村ねぇ。」

それだけ呟いて、あくびをしてバスへと入って行った。






「崋山。」
「ん?」

一頻り笑ったあと、柳に呼ばれ、ことりは振り向いた。

「俺の番号だ。とっておいてくれ。」

そう言って柳は綺麗な和紙を渡してきた。中には番号とメールアドレス、柳 蓮二。と短く綴られている。
何故、突然、と思っていれば、柳は続けた。

「うちの部長は精市だが、彼は入院中でな。副部長の弦一郎より、俺が連絡係の方が早いだろう。」

「は、はあ・・・?」
「たまに立海のマネージャーをお願いするかもしれない。佐倉はジャッカルにしか目がないし、荒波は見ての通り。崋山が一番立海にいる時は常識人だろう。」

俺の推測だが、と柳は続ける。
ことりはあー、と唸った後、紙を見つめる。

「恐らく携帯は使えないのだろう?跡部の事だ、直ぐに持たせてくれるはずだ。その時にでも連絡をくれ。」

こちらが聞く前に、柳はつげる。読まれているのだろうか。さすがデータマン?


「わかった。」

それだけ言ってことりは和紙をしまう。何だか今日はもらいものばかりだなぁ。じゃあまた、と柳は告げてから、バスへ入っていった。






「佐倉っち!絶対メールしてね!」

「う、うん。」

い、言えない。

教子は電話が使えない事を、菊丸に言えずじまいだった。

「佐倉っちは手当が上手いし、頑張り屋さんだし、マネージャーにほしいにゃー!」

後ろめたさもあってか、教子はあははと苦笑いをするしか出来なかった。

「まあまあ英二、氷帝なんて近くだし、またいつでも会えるじゃない。」

そんな菊丸をなだめるのは河村。
菊丸はぶぅー、と頬を膨らます。教子はそれを見て、本当、子供みたいだなぁと思う。

「タカさん真面目だにゃー。ほいっ、ラケット!」

何かを閃いたのか、菊丸は笑顔で河村にラケットを渡す。

「うおおお!!勝利の女神青学にカモーン!」

ラケットを握った河村は先ほどの物静かな感じと違い、うおおおお!と叫びだす。それをみた教子は大袈裟と言うほど肩を揺らした。

「え?っえ?ええ?!」
「にゃははっ!タカさん、ラケット持つと強気だからね〜ん!」

2対1だね!とどこか楽しそうな菊丸をよそに、全くついていけない教子はただあたふたとしていた。



「マネージャーは無理だけど、絶対あそぼーね!」

あ!

「デート?」


なんてね!
菊丸はそう言って楽しそうにバスに乗って行った。教子は硬直したのち、顔を抑えてしゃがみこんだ。

「だ、大胆すぎるよぉ・・・」


頬はすごく熱かった。









「はあー、堅っ苦しかった。」

「うんうん。榊先生威圧感あるよね。優しいけど。」


手続きを終え、今は買い物をしている。合宿で凄く疲れたというのに、買い物では元気なる。楽しいことだから、体力が回復したみたいだ。

跡部からお金を貰い、3人は服を買いに行ったのだが、せっかくだから、ことりと教子は一緒に買い物をしていた。

今日はお洋服だけ。部屋は一人一部屋くれるらしく、合宿中にカタログを見せて貰い、その時に選んだ家具で部屋はもう出来上がっているらしい。
写真を見せてもらったがとてもいい感じだった。


「乃亜ちゃんおいてきちゃったけど、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫でしょ。系統が違うから仕方ないわよ。」

教子の心配にことりはさらっと答え、服に手をつける。これ似合いそう、と教子に当てる。
そんなことりにそうかなぁ?と答えながらも、もやもやしていた。

3人で遊ぶのが一番多いが、こうやって、2人の時もある。ただ、そう言う時は、ことりちゃんも乃亜ちゃんも、互いの話をしない。2人でいるところもあまり見ない。

幼稚園から一緒らしくて、付き合いは長いらしいのだが、触れてはいけない何かがある。

教子は、中1の時に乃亜に声をかけて貰い、仲良くなったのだが、2人の関係がよくわからない。


ある日突然、こうなっていた。
何も言ってくれないあたり、まだ2人の中には壁があるのだろうか?少し、悲しい。


「ん?お?可愛いこ発見!ねえねえ彼女たちっ!」


そこに、明らかにチャラそうなオレンジ頭が声をかけてくる。






「・・・ハァ。」

乃亜はあからさまにため息をついた。先ほどの幸村について。呼ばれて、彼と会話した。



「・・・乃亜はさ、仁王のどういうとこが好きなんだい?」

真剣な顔だった。

好き・・・。あれは、憧れ?好き?誰にでもなれる彼。とても羨ましくて、しかもあのクールっぽい顔で、シャボン玉吹いてたり、パッチンガムを持っていたり、でもダーツが趣味だったり、大人っぽかったり。いたずら好きだったり・・・。ギャップだろうか。

自分自身を見てもらえないから、誰にでもなれる彼がとても羨ましくて・・・。なれるものなら、



「・・・なんかさ、乃亜と、初対面って感じがしないんだ。」

夢で泣いていたのはきっと彼女だ。辛いって、この世界は嫌だって。消えてしまいそうなくらい弱く、震えていた。夢、だけれど。
真実な気がした。



「・・・初めましてだよ、ゆっきぃ。」

乃亜は少し間をおいたけど、笑顔で答えた。それは本当の笑顔なの?無理をしていない?なぜ、間を開けたの?

小説に出てくる、異世界の少女。病弱な彼を元気づけて・・・。そして。


ゆっくり彼女を抱きしめる。


「ゆっ・・」
「ずっと・・・こうしたかったのかもしれない。」

少し抵抗していたけれど、力を込めれば動きは止まる。
柳は気づいただろう。あいつは侮れないから。

何故仁王なのだろう。何故、俺は病気なんだろう。考えても仕方の無い事だけど、抱きしめた彼女は、少し、震えていた。だから。
だから俺は、



「・・・っ跡部が!呼んでるから。」



嘘をついた。彼の行動に、どうすればいいのかわからなくて、彼の胸を押して離れた。
ごめんね、って目を見ず走ってしまったけれど、あれはきっと・・・。


考えたくないから、走って逃げた。彼は、勘違いをしている。



「・・・お前。センスねぇな。」

跡部の声で我に返る。手にとったものを見る。普通のショートパンツ。


「別に普通じゃん。」
「ショートパンツばっかりじゃねぇか。」

かごの中身を見ながら跡部は言う。
別によくない?というか、何故いる。


「動きやすいんだもん。」

そーかよ、と跡部は言って、どっかに行った。・・・変な奴。


ゆっきぃに悪いことしただろうか。あのあと、仁王さんも見なかった。
どうして人を騙せるくらい化けれるの?人に化けれるくせに、“仁王雅治”自身、ちゃんといて。

・・・荒波乃亜、なんていなかった。どうやっても、見てはくれなかった。

内心はぐっちゃぐちゃで、友情とか、学生ライフとか、馬鹿馬鹿しくて。全部全部嘘っぱちでしょ?こんな醜いあたしなんか相手しなくていいんだよ。

わざわざ、話さなくていいんだよ。



「これにしろ。」

「・・・は?」

戻ってきた跡部が、いっぱいになったカゴを渡してきた。げ、ワンピ。

「ワンピ嫌い。」

ワンピースは嫌い。ことりみたいな美人さんなら、そりゃあ似合うでしょうが、あたしはね。そんな女の子女の子したものは、

「文句言うな。」
「・・・なんでよ。」

なんで跡部が決めた服を?あたしなんてほっといてどっか行けばいいのに。ことりも教子も2人で行ったし。・・・服のタイプ違うから、だけど。


「似合うから選んだ。文句うんじゃねぇよ。」
「は、」
「ズボンよりスカートが良いっつってんだよ。」

・・・なんで半ギレ?

「さっきから見てて、センスが悪い。全部同じ色、合わせの悪いものばっかり・・・お前、服買ったことあるのか?」

「・・・お坊っちゃまに言われたく無い。」


呆れながら言われたけど、そっちだってどうせ、執事の人とか、親とかが選んだもの着てるんでしょ?大体まだ中学生なんだから、そんなおしゃれに、あたしは、興味無いし。


「買い物は全然いかないけど、買っても何も言われないよ。」
「陰じゃボロクソ言われてんじゃね?」

「・・・人間なんてそんなもんだよ。」

周りは世話焼きばっかりで、気づいたら食べ物やら洋服やら、先輩や同級生に沢山貰った。けれどそれは心配とかでは、無い。きっと。

「もう着ない、って言われていっぱいもらうけど、そう言うのも陰でなんか言われてるのかな?」


心配してほしい、なんて言ってない。

「・・・お前のために選んだって言われて貰ったもんは?」

「無いよ。」


親にだって貰ったこと無い。
褒められたことも、怒られたことも。何も。何も知らないよ。

「じゃあ俺が選んでやるよ、お前に。」

「・・・は?」

跡部を見る。ふざけている様子は無い。

「お前に似合うものを選んでやるよ。お前のためだけに選ぶんだ、陰口なんてない。」

だから文句言わずに受け取れ。
跡部はそう言って、何食わぬ顔でレジへ向かった。



「・・・あたし、跡部の事、嫌いだからね。」

優しくしないで。

「は?」
「ずっと、嫌いだったんだから。お金持ってればなんでも出来ます、みたいな感じ・・・嫌い。」

そういえば跡部はじっとこちらを見つめたのち、

「今は関係ねぇだろ。」

とだけ答えた。

お金があれば、家は変わっていたかもしれない。そうしたら、こんな醜い感情も、きっと生まれなかったんだ。


「・・・ありがとう。」

「・・・アーン?」

「・・・服、ありがとう。」














確か、千石だ。千石キヨスミ。占い好きナンパ野郎。
ことりは横でニコニコしている男を冷めた目で見ていた。

「君達かわいいね!買い物?」
「え・・・ま、まぁ。」

やたら馴れ馴れしい横の男に、教子は戸惑いながら答えた。

「よかったらこのあとお茶しない?美味しいケーキ屋さんがあるんだ〜。」

そう言って千石はウインクをする。女なら誰でも良いのだろうか、むしろ、学校ではこういう事、無かったし、久々だな。出かけたら結構あったけど、ナンパしてくる奴は、何を見て、声かけるわけ?

「無理、忙しい。」

短く返せばまたまたぁ〜とニヤついている。何がまたまた、だ。ナンパ野郎だからだが、やはりしつこい。



「こんなとこにいたのか!千石!」

部員だろうか、こっちにくる。

「ちぇっ、もう見つかっちゃったよ。アンラッキー・・・。」

ラッキー、アンラッキーうるさいなぁ・・・。

「千石、お前また見ず知らずの女子に!・・・すみません、うちの部員が。」

・・・こいつ、見た事あるなぁ。東方だっけ?

「ちょっと南ー!失礼だなぁ〜。正攻法だろぉ?」

おうふ、南だった。じゃああのサングラスが東方か。

「室町はあんな奴になるなよ。」
「はい、東方さん。」

・・・おおう、室町がグラサンでその横が東方か。全てが一致していない。メルマガだけじゃダメだな。

「あ。」
「・・・どうしたの?ことりちゃん。」

携帯文字化けしたからもうマガ読めないのか。・・・ちっ。
メルマガ登録してるけど、ぶっちゃけジローちゃんとリョーマしか読まないから・・・まぁいいか。

「へぇ、ことりちゃんっていうんだ。」
「やめてよ、セクハラ。」
「え?!名前呼んだだけでセクハラになるの?!厳しいなぁ〜。」

その割に千石はにやにやしている。本当、めんどい。
教子は教子で、南?あれ?東方?に、「テニス部の方なんですか〜!ダブルス〜?!」とか言ってなんか打ち解けてるし。

「あ。」
「ん?」

そういえば、この学校にはあいつがいるよね。
千石に目をやる。彼は相変わらず笑顔だけど、負けずと笑顔を向ける。"外用"ってやつだ。


「アクツジンは?」

「亜久津?」
「そう、テニス部でしょ?」

そう聞けば、千石は黙った。・・・あれ、もしかして、間違えた?

「阿久津仁は有名だけど、テニス部では無いよ?」
「・・・そう。」

じゃあ、なんでメルマガがくるんだろ・・・?まだ部員じゃないのか?でも、3年だよね?

「はっは〜ん?さては阿久津のファンか何か?妬けるなぁ〜!」
「千石さん、痛いですよ。」
「室町君の言動はもっと痛いなぁ。」

俺泣いちゃうよ〜!などと、む、む、室町!!そ、室町!サングラスの室町に言いながら、彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。室町は心底迷惑そうだ。



「おい、崋山、佐倉。終わったか?」
「あ。跡部。」
「う、うん!終わった!」

一緒にいる相手を見て、眉を吊り上げる跡部。

「千石じゃねえの。」
「あれ?跡部君じゃない!ラッキー!」

そう言って跡部にやっほー!と手を振る千石。そして、首を傾げる。

「え?なになに?跡部君の知り合い?・・・もしかして彼女?!」
「親戚だ。」

1人テンションを上げる千石にきっぱり冷たく言う跡部。面倒臭そうだ。

「あ、そうなの?てっきり日替わりの彼女さんかと、」
「そんなのいねえ。」
「え?!そうなの?」

「お前ら俺を何だと思ってやがる。」

千石の発言に、なぜかことりと教子も驚く。


「今日はキャサリン、明日はジェシーだぜ!とかいいそう。」
「うんうん!婚約者もいそう!」

ことり、教子の順で盛り上がる。跡部はしばらく黙ったのち、

「・・・そんなのいねぇよ。」

と答えた。


「「「(今の間は・・・)」 」 」

その場にいた全員が思った瞬間である。

「あれ?そういえば乃亜ちゃんは?」
「え?なになに?!まだ可愛い子いるの?!」

疑問に思った教子が告げれば、千石が首を突っ込む。そんな千石を見て、跡部はため息をした。女なら誰でも良いのだろうか、この男は。

「眠いから車で寝るそうだ。」


あの女はよくわからない。仁王仁王うるさいくせに、1人の時はずっと黙りっぱ。素材はいいのに似合う格好はしない。そしてなにより、


・・・人を信用していない。

あの発言は、この2人すらも、

「行くぞ、崋山、佐倉。」
「あ、うん。」
「おけ。」

跡部は2人の荷物を持ったのち、先に歩き出す。

「もうお別れか〜。またね、ことりちゃん、教子ちゃん。」
「おい、千石。・・・悪かったね、二人とも。」

山吹と別れを告げ、長い合宿は幕を閉じた。








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