のううた | ナノ

母、現る。


「ご飯作ろう、ったって何人分だよ。何人いるんだよ。何作るんだよ。」

ことりはブツブツ文句を言いながら、冷蔵庫の中身を確認する。大体冷蔵庫が多い。でかい。飲食店かっつの。中身を確認するだけで一苦労だ。

「えーと、立海が8人でしょー、氷帝が、跡部、樺地、忍足、向日・・・めんどくさっ!男子良く食うべや?!あたしら入れて大体40人分でよくね?!」

「アバウトだね、乃亜ちゃん。」

「立海に関してははえーな。さすが立海オタ。」
「いやいや、仁王さんおたくですから。」

人数を確認しようと思ったが、どうも面倒くさい。立海の監督は来ていないが、榊、竜崎はいるので少し多めのカウントだ。それに対してのことりと教子は冷静にツッコミをいれる。材料を確認したあと、ことりは何回か首を傾げてから、カレーね、と短く告げた。

「・・・面倒臭くなった?」
「40人とか、無い。」

わかってはいたが、一応乃亜は聞く。そして予想通りの反応に、ははは、と笑う。


「さて、と。じゃあやりましょうか!乃亜は野菜ねー、教子はご飯炊いて。」
「はいよー。」

「ご、ごめんね。これしかできなくて。」


ことりも乃亜も作らなきゃいけない環境にあったため、大体は作れるのだが、あまり経験の無い教子は申し訳なさでいっぱいだった。



「・・カレー?男の心を掴むなら肉じゃがでしょ!!」




「・・・ことり何か言った?」
「いや、べつに。教子は?」

「私は肉じゃがよりも煮物派だなぁ・・・。」


作業に取り掛かろうとしたところで、聞きなれない声に首を傾げながらも、親友に確認を取る。それにこの声。竜崎にしては若すぎる。それとも実は別にマネージャーがいるとか?あ、メイドさんかな?3人はゆっくりと声のした方を振り返った。


「こんにちはー。」

そこには二十代後半くらいの 顔立ちの整った女性が立っていた。その後ろには榊と竜崎がいる。

「こ、こんにちは。」

「す・・・すごい綺麗な人・・。」

ことりと教子は見とれながらも返事を返した。女性は柔らかく笑みを浮かべ、3人を見つめる。そして榊の方へ振り向いた。


「ねえねえ榊ちゃん!この子達よね!異世界から来た女の子達!かーわーいーいー!」

「きゃっ!?」

女性は目を輝かせながら言うと、目の前にいた教子に抱きつく。それをみた乃亜とことりは、同時に2、3歩離れた。怪しい。


「ね、ねぇ、乃亜。あんな人いた?」

「いや、初見。初見の人ですよ。 」

「初見、て、」


ことりと乃亜は2人でこそこそ話している。こんな綺麗な女性、いただろうか?

誰かのお姉さんだろうか。それとも立海の監督さんだろうか。
乃亜は険しい顔で女性を見たが、女性は笑顔で手を振ってきた。


「その辺にしておいてあげてください。跡部さん。」

「 「 「 跡部さんっ?!! 」」」

榊の発言に3人は声を揃えて驚く。あとべ、とはあの跡部だろうか?!姉なんていただろうか?それとも親戚?あるいは婚約者?


「はじめましてー。跡部景吾の母の百合ですー。よろしくね。」

母親だと?!明らかに若いぞ!それはつまり生まれ持った美貌ですか?!それともお金持ちだから整形ですか?!

「不公平な世の中だよ!!」

教子は頭を抱えて叫ぶ。うちの母はこんなに若くない。

「まあ、落ち着きなよ教子。」
「ことりちゃんは言っちゃダメ!」

「ええー。」

幾分か免疫のついたことりが冷静に教子に言ったが、教子はことりに言い返す。

「そうですよー、崋山さん。あなたお綺麗ですもの。」

「お前なにキャラだよ。」

それに乗ったのは乃亜。崋山ことり、ハーフという事もあってか、両親も美男美女だったため、それを受け継ぎ、とても綺麗な顔立ちをしている。
白い肌、綺麗な黒髪。モデル顔負けの容姿は何人もの男子を虜にしてきた。

しかし、彼女の面倒見の良さと、きつい言葉使いから、それは恋に発展せず、憧れで止まってしまっている。


「美人だけど、中学生にはまだ早いよねー、ことり様。」

「あー!わかるわかる!レベル高いよね!」

乃亜と教子はもう別の話をしている。
ことりは少しの疎外感を抱きながら、跡部母の方へ目を向けると、後ろから面倒臭そうに息子が見ている事に気づく。


「・・・何をやっているんです、母様。」
「あ!景ちゃぁぁああんっ!」

跡部母は嬉しそうに息子に抱きついていた。正直親子には見えない。精々姉弟だ。息子は鬱陶しそうな顔はしたが、引き剥がしはしないところ、冷たくは無いみたいだ。




「だってー、景ちゃんが合同合宿?親睦会するっていうからー。イケメン集団でしょ?!気になるよね?!気になるでしょ?!」


母はヒートアップしたのか、3人に同意を求めてくる。3人はびくりと肩を揺らしたが、一旦跡部に目を向ける。いや。こいつはレベルが違う、と言うか直視できない。まず親も綺麗すぎて見れない。

「あー・・」

教子が唸っていれば、後ろから他のテニス部が入ってきた。たくさんやってくるイケメンたちに教子は目のやり場に困りながら、恥ずかし気に口を開く。


「そうですね。ちょっと場違いな感じがします。」

いつもは2人とばかりいるから、男子なんかと全くしゃべらないし。実際、見もしない。こう、まじまじ見ていると、照れる。

「そうですね、仁王さんイケメンですね。」

「・・・あんた懲りないね。」
「え?!見てたの?!」

乃亜は仁王を見かけ、彼にばれないように見つめながら答える。一方先ほどの大胆告白を見ていたことりは、呆れた顔で言った。
というか、正直、教子のくだりから見ていた。あんな大声、少なくとも隣のコートの氷帝は見ていただろう。

「そうよね、そうよね!かっこいいわよね!素直で可愛いわ!」
「ぅぶっ・・」

「うぶって・・」

跡部母は今度はことりに抱きついた。瞬時に乃亜が距離を置く。

「かわいいかわいいかわいい!!よし、決めた。決めたわ、あなたたち!うちに住みなさい!」

跡部百合はことりから離れた後、まじまじと3人を見て、言った。



「・・・母様、今何を」

「いいじゃない!景ちゃんも1人じゃ寂しいでしょ?それに、むさ苦しい榊ちゃんと住むよりは全然いいわよ。」

息子の事など完全に無視しながら、母はことりたちに ねー、と同意を求めた。3人は3人で話についていけず、頭の中では疑問符が浮かびまくっている。

「しかし跡部さん。息子さんも立派な中学生ですし、年頃の男女が同じ屋根の下で・・・・何かあっては・・・」

「何かあればいいじゃないっ!!」
「いいんかいっ!」

困ったように言う榊を他所に、何故か、母は誇らしげだ。そしてつい、ツッコミをいれたのは乃亜。

「私は景吾を17で産んだのよ!全然早くないわ!跡部家の人間なら豪快に行きなさい!たとえ女たらしでも!プレイボーイでも!!」

「それは無いですから。」

やや興奮状態の母に、ため息をつきながら返事をした。



「相変わらずやな、跡部の親御さん。」

「あのテンションにはついていけないよね。」

忍足と滝が静かに言う。度々会っているが、彼女のテンションにはついていけないとこがある。

「うれしいわぁ!私、娘も欲しかったのー!お部屋だっていっぱいあるしー!」

そう言って母は振り返る。



「だめ・・・かしら?」
「だ、だめじゃ・・・ないですけど。」

「(しかし綺麗な人だなぁ・・・。)」

「(お母さん・・か。)」

あの顔で見つめられたら、否定は出来まい。呆れ顔の息子と、困惑気味の少女たちを他所に、跡部母は嬉しそうに新しい家族に抱きついた。




家ができました!









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