のううた | ナノ

暴走少女、S,A


桑原は困惑していた。目の前にいる少女に対して。幸村が席を外してる今、立海は立海で彼女達のことを考えていた。

実際に不思議なことが起きるもんだ、と。異世界の住人なんて信じられないが、実際この目で見てしまった、コートの真ん中から、光と共に現れた彼女達を。真っ青な顔で怯える少女達を。

全員が、見たのだ。大金持ちの氷帝、しかも榊が調べても存在しなかったのだ。この世界に。

きっと、嘘じゃない。

それに、こんなにか弱そうなんだ。きっと、害は無い。立海陣で話していたまさにその時、彼女はやってきたのだ。


「ドリンク持ってきました。」、と穏やかな笑顔でタオルと共に、ドリンクを配ってくれた。自己紹介の時も深々と頭を下げていて、とても礼儀正しい子だな、と思っていたのだが、
桑原の番で変わった。ドリンクを持つ手が激しく震え、顔は真っ赤、おまけに呼吸も荒い。体調が悪いのかと桑原が心配の言葉を述べれば、彼女はコート上に響き渡る程の大声でこう言った。


「大好きですっ!!!」




「・・・・・・は?」

そしてやっとのことで出した言葉は、なんとも間抜けな声だった。


「な、ななななんでっスか?!なんでいきなりジャッカル先輩なんスか?!ツルツルだからっスか?!ピカピカだからっスか?!コーヒー豆だからっスか?!ツルピカコーヒー豆だからっスか?!!!」

突然の告白に動揺している桑原をよそに、切原が食いつく。

「切原君、ツルピカコーヒー豆はただのコーヒー豆ですよ。」

柳生が冷静なツッコミをいれる。





「・・・あいつ、一番常識ありそうな顔して、何やらかしてんだ。」

近くまできた跡部はため息をついた。幸村はははは、と笑う。跡部は目線を乃亜へと切り替える。釘を打っておかねば。

「・・・おい、てめぇは変な真似す「きぃゃぁぁぁあ!!仁王すわぁぁぁぁああんっっ!!」・・・っのアホ女!!」

時、既に遅し。あの画像の量を見て、気づいておけばよかった。絶対暴走する、と。腕ぐらいつかんでおけば・・・。もう一度ため息をし、幸村とアイコンタクトを取り、跡部は乃亜の後を追った。







「な・・なんじゃ・・・。」

全力で走ってきた乃亜に驚き、仁王は隣にいた柳の後ろに隠れる。

「はじめまして!荒波乃亜です!氷帝通います!マネージャーやります!3年です!ファンです!好きです!おお付き合いを前提に結婚してください!!」

「・・・は?」

教子とは桁違いの迫力に、警戒心むき出しの仁王。そしてかなりの引いた顔をしている。

「にっ・・・!仁王さんが引いていらっしゃる!しゃ・・・写メ!写真!携帯!・・・無い!貸してっ!!」
「断る。」

仁王の冷たい反応でさえも喜ぶ乃亜。つい本物の仁王がいる、ということで乃亜のボルテージは最高潮に達している。
記念に写真を撮ろうと思ったのだが、そういえば携帯は跡部に取られた。多分、いや、絶対に彼は返してくれない。仕方が無いのであたしと仁王さんの間にいる、無駄に背の高い柳から携帯を借りようと思ったが、即答。
彼はただ単に邪魔な壁だった。


「柳・・・俺、こいつ嫌い。」

仁王が酷く引いた顔で乃亜を見ながら言った。

「き ら わ れ た !!」
「当たり前だろうが!このストーカー女っ!」
「痛っ!?す、ストーカーではない!」

乃亜の暴走を、跡部がチョップをかましながら止める。乃亜は跡部を睨みつけながら頭を抑える。


「・・ストーカー女・・・。」

「だって仁王さんだよ?!超イケメンじゃね?!超かっこよくね?!」

暴走は止まりはしなかった。跡部はまたため息をつく。
幸村は驚いた顔で乃亜を見ていた。その間に乃亜は、柳に仁王の良さを語っている。一方の柳は目を閉じているので、聞いているのか聞いていないのかわからない。

「ちょっと乃亜ちゃん!今はジャッカル君の話でしょ!あの銀髪は次回にしようね。」

「もう次回とかねーよ!あたし嫌われた!おわた!人生終了、チーン!」

こいつもいたんだった、と全員は思い出した。そして大半がため息をつく。

「っ乃亜!」
「うわぁ?!」

暴走する乃亜を止めたのは後ろにいた幸村。彼女の腕を引くことで暴走を止めたのだが、思った以上に力が入ってしまい、彼女がよろける。それを慌てて抱きとめた。

「ご、ごめんね。」

力加減がなってなかったな、と慌てて幸村は謝った。それに対して乃亜は大丈夫、と答える。


「そろそろご飯の準備だから、一緒にやらない?」

乃亜の言葉に幸村は安心した顔で言った。
幸村の言葉に乃亜はぱちん、と指を鳴らす。

「ご飯!お夜食ですね!ご飯と言えばことりだっ!教子ー!行くよー!」


「・・・あ。」

料理ならことりだ!ということで乃亜は教子を引っ張って走って行った。おいて行かれた幸村は、ただ二人の背中を目で追うことしかできなかった。
その光景を見ていた跡部は少し考えてから口を開く。



「気に入ってねぇか、あの女のこと。」

「そう?興味深いじゃない。異世界の住人、なんて。」


幸村は微笑みながら、乃亜達の走って行った方向を見る。

「それにあの2人の大胆すぎるアプローチ。立海部長として、絡まれた部員の心配もしないとね。」

この言い方は失礼か。幸村はそう付けたし、部員の元へ行った。



「大丈夫?仁王、ジャッカル。」

「あ・・・あぁ。」

「・・ストーカー女・・・」

唖然としている2人に、幸村は大丈夫?と聞いて微笑した。跡部はそんな幸村を、見てから、一応マネージャーになる3人を追った。

「精市、あの女子2人は仁王とジャッカルを知っていたが、選手表でも見せたのか?」

「あ、うん。そしたらすごく気に入ったみたい。面白いよね、乃亜達。」

先ほどの出来事を思い出し、幸村はふふ、と笑った。

合宿は始まったばかり。








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