忘れ物は手袋



+ハイキュー!!・縁下力
*恋人。ヒロイン視点。


***


今日一番の忘れ物は、手袋です。
それを彼氏に話したら、一気に顔を顰められました。

「今日も忘れたの?何してんの…」
「いや本当に、返す言葉も無いです」

顔を顰めて、目の前で呆れたようにお怒りになってるのは彼氏である力くん。

わざと忘れてるわけではないんだよ!、と言い訳がましく言ってみても「そうは言ってるけど、この寒い時期にいつも忘れるなんてわざととしか思えない」と冷たい一言を返されてしまいました。力くん厳しいよ…!

まあでも、確かに1月に入って気温も一桁台、そんな時にほぼ毎日手袋忘れるのなんてバカとしか言いようが無いよね、自覚はしてるつもりです…。

「で、何で忘れたの?」
「いや、…なんか、鞄にいつも入れ忘れちゃうんだよね…」
「…まあ、なまえらしいちゃ、なまえらしいね」
「え。それって褒めてる?褒めてないよね?」
「それはなまえの受け取り方に任せる」

力くんは苦笑いを零しながらそう言い鞄を持って歩き始める、そんな彼の横に並んで歩く私。
マフラーはしてるから首元は寒くない。耳も耳あてをしてるので寒くない。でもやはり手袋が無いから手はどんどん赤くなって冷たくなっていって。 …あーあ、何してるんだろ。

「なまえ」

ふと力くんに名前を呼ばれる。「なに?」と短く返すのと同じくらいに手を繋がれた。
ビックリして慌てて繋いだ手を見てみると、そこには手袋をしていない力くんが私の手を繋いでくれていて。

「力くん。これじゃあ力くんが、」
「俺は大丈夫。あとこれ。反対側の手に着けて良いよ」

渡されたのは力くんが持っていた手袋で、それを貸してくれるのだという彼。優しい彼氏様です、本当に。

一旦手を離してから借りた手袋を着ける、力くんが着けていたせいか温もりが残っていて冷え切っていた手を包み込んでくれている気がする。
着けた事を確認してから、力くんは着けてない方の手をギュッと繋いでくれた。またしても彼の体温で冷えていた手が温かくなる感じがして、頬を緩ませる。

「なまえの手、冷たい」
「ごめんなさい。明日から持ってくるように、気を付けるね…」
「いや。…あー、うん。それはそれで良い心掛けなんだけど、そうじゃなくて」
「?」

私の言葉に、何かを言いたげな彼。歯切れが悪い言い方をしているけど、なんだろう。
首を傾げて彼をジッと見ているとはああ、と盛大に溜め息を吐かれて、そしたら繋がれていた手を力くんのポケットに私の手ごと入れられて、彼との距離も近付く。

「っえ、えっと?!」
「…別に、手袋忘れてもこうやって手繋げるから良いかな、なんてね」

「らしくないかも、」と笑って言ってる力くんの頬は少しだけ赤い。それは寒さのせいなのか、それとも照れからくるものなのか。
そしてそれに比例するように私も、頬がじわりと熱くなるのを感じた。私のは確実に照れからくるものである。
だって、力くんがこんな行動するとは思わなかったから…驚いた。けど。

「私も。こんな風に手繋げるなら、忘れた甲斐あった、かな」

つい漏らした言葉に力くんは少しだけ驚いて目を丸くしている。
それでも直ぐに笑ってくれて「明日からも別に忘れても良いよ」とポケットの中で繋がれた手をギュッと握り返してくれて。そんな事言われたらまた甘えちゃうよ、私。

男前だよ、格好良いよ、そんな貴方が大好きだよ。そんな気持ちが全部全部伝わるように、私もそっと優しく、彼の手を握り返した。






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