冷えた肌に温もりを



+テニスの王子様・財前光
*部活のマネージャー。ヒロイン視点。


***


「光、場所取りすぎ。この傘私のなんだけど」
「先輩マネやないですか。もっと選手の体調管理の事考えてほしいわー」
「うるさいぞこのやろう!」

ただいま私、みょうじなまえは後輩である財前光と一緒の傘に入ってます。
や、別に私達は付き合ってるとかではありません。(私は片想い中ですが)


たまたま、雨が降りだした、という状況に偶然傘を持っていなかった光を見付けてしまったのが、事の始まりだった。

それはもう当然の笑みで「入れてくれますよね?先輩」と言われ、「嫌だ」と言ってるのに力で押し切ってくる後輩。
他の部の連中は「ま、しゃーないから一緒に帰ったり」「光んことよろしゅうな!」とか言いやがる、いやいやふざけんなお前らが連れて帰れ!

「第一、何で謙也の傘で帰らなかったの?」
「見栄えキモイやないっすか。それに、男二人だと場所取りますし」
「あー…確かに言えてるね」

光の返答に、なんとなく納得してしまう私。言ってる事は正論だとは思う。
あれ、って事は。

「光」
「何すか?」
「私と帰るのは、良い、の?」
「は、?」
「や。だって見栄え気にするならもっと可愛い子と帰った方が良いんじゃ」

あからさまに、可笑しいでしょ。
正直、私は光の隣に並んでて綺麗な見栄えになる訳ではないし、ただの部活のマネで先輩なわけだし。

そこまで説明すると、光はあからさまな溜め息を吐いて、私の方を軽く見ながら口を開いた。

「先輩は別や」
「え、」
「俺、先輩の事キモイなんて思っとらんし。先輩は女やろ?男と比べてどーすんねん」
「まあ、そうなんだけど、」
「それに」

「他の女子と帰るんやったら、俺はなまえ先輩と帰りますわ」

その意味深な一言に、私の思考回路は一気に停止した。
それを悟られないように、私は隣に居る光と目線を合わせない様にしながら、言葉を続ける。

「光、それって…、」
「部活のマネやし、唯一仲良おしとる女子やから、ってことっすわ」
「…だよねー」

光に言われる言葉に一瞬でも自惚れてしまった自分が居て、所詮は部活の先輩後輩、と言われた事にどこか心の中で落胆している自分が居た。そんな私に構わず、光は言葉を続ける。

「アホで見てて飽きへんし、おもろいし」
「ちょ、もう良いよ。つまりバカって言いたいんでしょ?」
「そういう事や。…ま、そんなバカ好きな俺もたいがいバカやけどな」
「へ?」

サラッと告げられたその言葉に思わず間抜けな声が出てしまい、そしてその意味を理解すると思わずその場に立ち止まってしまい、じわじわと頬に熱が集まるのが解った。

「っ、」
「先輩は、どうなん?」
「……わ、私だって、好きだよ」

光に優しく目線を合わせながら問い掛けられて、ずっと想っていた言葉を発すると、光がふっと笑って傘を投げ捨ててそのまま私を抱き締めた。
突然の事に驚きで声が出ないでいると、光が意地悪そうに口角を吊りあげて、口を開いた。

「俺、低体温なんっすわ。ちょっと寒いんで、先輩であったまらせてください」
「に、人間カイロじゃないんだけどな!」
「やけど、先輩今めっちゃあったかいですわ」

私の家の目の前でそんな風に笑顔で言ってくる光に、私はただただ熱が集まってる頬を隠し、光に抱き締められてる事に破裂しそうになる心臓を押さえるのに必死だった。






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