狼まであと何秒? +ハイキュー!!・岩泉一 *幼馴染み、恋人。岩泉視点。 *** 幼馴染みと恋人同士なんてそんな話しはありがちだな、そう思っていた自分がまさか同じ境遇になるとは思っていなかった。 一個年下で幼馴染みのなまえから先日告白を受けた。最初は驚いたけど俺自身もなまえに惹かれていた事を伝えれば、真っ赤な顔になって彼女は「ありがとう」と笑った。 部活が休みでオフの日、恋人同士になってから初めてなまえを家に呼んだ。 小さい頃はしょっちゅうあがっていたのに恋人同士なんて括りになってからはやはり緊張するのか、なまえは少しだけ顔を強張らせて「お邪魔します」と言ってから家に上がる。 「んな緊張することねーだろ。よく来てたんだから」 「そ、その時と今じゃ立場が違うから!…なんか、緊張して」 「わかったわかった。ま、とりあえず先に俺の部屋あがってろよ、飲み物持ってくから」 「う、うん」 いまだに顔を強張らせているなまえが二階にある俺の部屋に向かっていく。 緊張してるのはお前だけじゃねーんだけどな。内心苦笑いを零しながらコップ二つとお茶を盆に乗せて俺も二階に上がる。 「変わんないねー、はじめくんの部屋だ」 「ま、あんま物増えねーからな」 俺が部屋に入ると先程の緊張はどうしたのか、なまえが俺の部屋を見渡しながらいつものテンションで笑いかけてくる。 相槌を打ちながら真ん中に置いてある小さいテーブルに持ってきた盆を乗せる。 コップにそれぞれお茶を注いで一つを彼女の前に置くと「ありがとう」と言って、一口喉に通してから、俺の方をじっと見つめてくる。 「どうした?」 「ううん、なんでもない。…バレー部忙しい?」 「まあ大会あるしな。ていうか、構ってやれなくてわりぃな」 「気にしてないよ。私はバレーやってるはじめくんが好きだし、はじめくんのプレーが好きなの。頑張ってほしいから気にしないで?」 「…おう」 にこりと笑いながら告げてくる彼女の不意打ちの言葉に照れながらも小さく返事をする。 くそ、照れるなんてかっこわりいな俺。 照れているのを隠すようにコップの中の一気に飲み物を流し込めば、「あ、そうだ」と何かを思いだしたように呟くなまえ。 カバンをガサガサ漁り始めるとスマホを取りだし、おもむろに画面を明るくして俺に見せてきて。クエスチョンを浮かべてる俺の前には待ち受け画面が表示され、そこに写ってるのはプレー中の俺の写真。 表示された画面に思わず開いた口が塞がらない俺を余所に笑顔でいるなまえに思わず詰め寄った。 「おま、これ…!?」 「徹くんが私に送ってくれたの。凄くかっこいいと思って、はじめくんが彼氏になった時から待ち受けこれにしてるの」 …嬉しそうに笑うなまえはまあ可愛いから良いとして。 クソ川の名前が出た瞬間に一気に眉間に皺が寄ったのが自分でも分かって自然と舌打ちを零す。アイツ次会った時絶対に殴る。なんで人の事隠し撮りしてんだよ! 頭の中で及川をしばくという結論を導き出してから目の前で嬉しそうに笑っている彼女に視線を向ける。とりあえず今はコイツの携帯の待ち受けを別のに変えるのが先だ、思うが否や俺は手を伸ばしてなまえの手から携帯を奪おうとした。 「あ、何するの!」 「そりゃこっちのセリフだ!恥ずいから違う待ち受けにしろ!」 「やだよ!はじめくんかっこいいんだもん!」 頑なに俺にスマホを渡すまいとするなまえ、だが俺も譲れない物がある。 こんなのアイツら(バレー部)に見られでもしたら絶対にからかわれるじゃねーか! からかわれたりするのが目に見えてくる。それを考えただけでげんなりしてつい溜め息が零れた。阻止のためにもスマホを奪わなくては。そう考えながら#name#の手首を掴んで動きを封じた。 「わっ、」 「おし。つかまえ、?!」 掴んで動きを封じたのも束の間。そのままバランスを崩して俺はなまえの上に倒れ込み、比例して彼女も後ろに倒れ込んでしまった。 「わりぃ!大丈夫か?」 「だ、大丈夫だけど、」 慌てて彼女の上から起き上がり安全を確認する。どうやら下がカーペットだった為、特に頭を打っている事はなさそうだ。 けど、今の状況を見て心臓が高鳴り、喉をごくりと鳴らす 事故とはいえ、どう見ても俺がなまえを押し倒している。状況としてはそういう風にしか見えず彼女が顔を真っ赤にしている理由はこれだと気付く。 「っ」 一気に雰囲気が怪しくなってこのままの状態だと俺の理性も耐えられそうになくてさっさとなまえの上から退こうとしたら、不意にくんっと服を引っ張られる感覚。 視線を辿ると、頬を赤く染めて俺を見つめる彼女の瞳と視線が交わる。 「…どうした?」 「あの、私…はじめくん相手なら大丈夫、だよ」 頬を赤くして言われたその一言にプツ、と俺の中で何かが切れた音が聞こえたのと同時に耳を疑う。コイツは今なんて言った? 思考が停止している俺を見てなまえは少しだけ頬を膨らませ、それでも恥ずかしそうに「…はじめくん?聞こえなかった?」と訊ねてくる。なんだよその顔、反則じゃねーか。 言われた言葉の意味を改めて考えてから、なまえの手首を優しく掴んでグイッと顔を近付ける。 「本当に良いのかよ?」 「…はじめくんじゃなきゃ、言わないよ」 先程から交わっている視線の中、頬を赤く染めて必死に絞り出すように零した彼女のその言葉は、瞳同様真剣見を帯びている。瞳には微かに欲が孕んでいて、俺なら受け入れてくるという彼女の言葉は本物のようだ。 掴んでいた手を離して自分の指と彼女の指を絡めれば、ギュッと握り返す彼女の行動にギリギリで抑えていた理性も脆くも崩れ去って、彼女の唇に流れるように自分のそれを押し付けてから、耳元で「好きだ」と囁いた。 |