愛ではおなかはふくれないのです +ハイキュー!!・女川太郎 *部活のマネージャー、恋人。ヒロイン視点。 *** 好きな食べ物はカップラーメン。付き合ってから初めて知った彼の好物が意外すぎて驚いたのを覚えている。 バレーをしているその中でも割と細い見た目。それこそ私より細いんじゃないかってくらい。ちゃんと栄養を取っているのか不安になってしまう。 力が無さそうなんだ、なんていうか見た目からして細いし体力とか失礼ながら無さそうな感じで、だからつい思ってしまう。 「…女川って、私より軽そう」 「は?」 思っている心の声がつい漏れたのは、女川の家に遊びに行った時だ。 いつもの通り、ベッドに寝転んで漫画を読んでいる女川。そんな彼の手首や腕、脇腹を遠慮無しに触っていれば、「擽ったい」と言いながらも手を払い除けようとしない女川のお腹に触れて、気付いたら心の声が溜め息と共に出ていた。 「なに、急に」 「あー…えっと…」 ベッドからのそりと起き上がり、漫画を持っていた手はいつの間にか私の手首を掴みながら女川はじとりとこちらの方を見てくる。怒っている、というよりは呆れている感じで、その視線から逃げるようにそろりと視線を彷徨わせてみれば、小さく溜め息を吐くのが聞こえた。 「先輩より軽そうとか、俺そんなに軟弱そうに見える?」 「だって…見た目が細いし…だからもしかしたら私よりも軽いのかなって…思っちゃって…」 「そんなことあるわけないじゃん」 はああ、と大げさに溜め息を吐いてこちらを見る女川の視線は完全に私をバカにしているもので、その視線に少しだけムッとする。 第一そんな細い見た目してるのがおかしいんだってば、疑ってもしょうがないもん。 「…なにその目」 「べっつに」 「完全に信頼されてないよね、俺」 「一言も言ってないよ」 「目がそう言ってるんだって」 私の手首を掴んでいた手を離しながら女川は再び溜め息を零す。今度は面倒くさそうに。 そのままベッドから降りて私の横に座りなおす。どうしたんだろうと首を傾げた瞬間に、いきなり浮遊感を覚えて、思考が一瞬停止してしまった。 「へ、」 「ほら、先輩の方がやっぱ軽い」 「お、おなが、わ?!」 いきなりの浮遊感に驚きの声しか上げられなくて、勢いよく女川の腕にしがみついてしまった。 見てみれば女川が軽々と私の事を横抱きで持ち上げている。…所謂、お姫様抱っこ、というやつで、いきなり持ち上げられるとは思わなった…! 冷静に考えてみれば浮遊感への恐怖よりもお姫様抱っこされているという羞恥心の方が勝ってしまい、次第に頬に熱がじわじわと集まってくるのが分かる。…顔、赤いかもなあ。 「なまえ先輩。顔、赤いけど」 「いちいち言わなくていいから…!…もー、おろしてよ」 「先輩やっぱり軽い。…ちゃんとご飯食べてる?」 「聞いてない…。食べてるよ。…たぶん、女川よりはちゃんとしたやつ」 「それ、俺がちゃんとしたもの食べてない、みたいに聞こえる」 「カップラーメンばっかり食ってるやつがなに言ってんのよ」 「カップラーメンは別腹だから」 「あんたは女子か」 下らない会話を続けているんだけど、なんだろうなこんな体制で変な言葉のキャッチボールして。羞恥心がいつの間にかどっかいった気がして、ちらりと女川の方に視線を向ければ、「なまえ先輩」と優しい声色で呼ばれた。 「なに?」 「今からどっかご飯食べに行かない?」 「…今日、部活休みだから家でゴロゴロしたいって言ったの、女川なんだけど」 「気が変わった。俺んち今日親出かけてて、夕飯無いから。食べに出るでもいいかなって」 私の事をベッドにおろして隣に座りながら女川は口元に笑みを浮かべる。…まあ、たぶんこのままだったら夕飯は確実にカップラーメンになるだろうしなあ、この子。 黙ったまま溜め息を吐いて頷けば、女川は満足そうに笑ってぎゅーっと抱き着いてくる。すり寄ってきて猫みたい、可愛い。 「一緒にちゃんとしたご飯食べにいこう?」 「ご飯の誘い方、おかしくない?」 「変じゃない、普通だって」 私から身体を離して一瞬だけチュッと口付けられた。呆気に取られている間に女川は出掛ける準備を始めている。いきなりの不意打ちに頬にまたじわりと熱が集まってきて、ああもうまた顔が熱い…。 そのあと、顔を赤いのを隠すために背を向けてスマホを弄っていたら、出掛ける準備が終わった女川に「顔赤い」と笑いながら指摘されて再び口付けられたのは言うまでもない。 細いし軽そうに見えるのは本当に見た目だけで、中身はちゃんと男なんだなって再認識させられた一日だった。 |