悔しささえも飲み込んで +ハイキュー!!・茂庭要 *幼馴染み。ヒロイン視点。 *** インターハイが終わって数日が経った。 部活も引退し、勉強に励んでいた筈の要くんが珍しく私の家にやってきた。 幼馴染みで家が近所、学校も一緒だから仲良くはしてるんだけど、先ず唐突に要くんから私の家にやってくるなんてことは無くて。こういう時は決まって何かあったのかな、と私は思う。 話しを聞くにも玄関先というのもあれなので、ひとまず私の部屋へあげた。 「ごめんな、突然来ちゃって」 「ううん、気にしてないよ。はい、お茶」 胡坐をかいて座る要くんにコップを手渡す。彼はいつもと変わらず「ありがと」と言ってお茶に口を付ける。 ゆらゆら揺れているお茶を見つめながら何か言いたそうにしている彼を見計らい、私は閉じていた口を開く。 「…要くん。話しなら聞くよ?」 「……」 敢えて主語は付けずに問い掛けてみれば、グッと唇を噛み締めて黙ってしまった。私に話そうか悩んでいるのかな、無理に話さなくても大丈夫なんだけど。 少し時間が経ってから、眉尻を下げて笑う要くんの瞳と視線が交わる。そのまま「なんでわかったの?」と訊ねられた。 「付き合いの長さかな。ずっと一緒にいたんだもん、要くんの事ならなんとなくわかるよ」 「そっか。…バレー部の事、なんだけど、話し聞いてくれるか?」 今にも泣きそうな表情をする彼のその一言に、小さく頷く。断るつもりなんて要くんが来た時点でなかったんだから。 時計の針の音しか響かない静かな部屋の中で、ゆっくりと話しだす彼の言葉に耳を傾ける。 「…俺さ、今までてっぺん取るために頑張ってきたんだよ。それで、春では烏野に勝ったのに、インハイでは負けちまって、」 「うん」 「折角、今の二年や一年が「不作」と言われ続けていた俺達の代と一緒に頑張ってきてくれたのに、アイツらに申し訳なく感じて」 「うん」 「主将を任されてた俺が、もっとしっかりしてれば、もっとちゃんと指導とか出来てればって、おも、って」 「うん」 要くんの口からポロポロと零れ出る言葉。と、同時に出てくるのは、彼の瞳から涙。 「要くん」 「悪い、こんな事なまえに言ったって、めいわ、」 「悔しかったんだよね?」 「っ、」 「負けて悔しかった。勝って、まだみんなとバレーやりたかった。鎌先先輩や笹谷先輩、二年や一年の人達と。今の要くんの言葉は、それを伝えたかったんだよね」 視線を逸らさずに思っていた事を告げてあげれば、彼の瞳から溢れていた涙が頬を伝う。要くんは俯くと、遠慮がちに言葉を漏らす。 「…なまえは、なんでもわかっちゃうんだな、」 「要くんだから、だよ」 「すごいな。…なぁ、俺…主将としてちゃんと出来てたのかな」 「…私はバレー部じゃないから、なんとも言えない。けど、要くんは要くんなりの主将をやれてたと思うよ」 彼を傷付つけないように、慎重に言葉を選んで言葉を返す。 要くんらしい主将なんだなって思ったのは嘘偽りない事実だ。実際に二口くんや青根くんに会ったりすると要くんや先輩達の話しになる事が多いけど、二人とも凄く嬉しそうに話す。 先輩達が大好きなんだなっていうのが伝わってきて、聞いてる私も自然と頬が緩む程に嬉しくなる。 「だから、要くんは良い主将だったんじゃないかな。こんな優しくて格好良い人が主将なんだもん。文句なんて言わないよ、言わせない。…これはバレー部みんな思ってるよ」 「……」 涙を零したまま不安そうな表情をしている要くんに優しく言葉を返してあげる。ずっと遠くから応援してたんだもん、良い主将だったんだなっていうの見ててわかってたから。 だから大丈夫だよ。と更に告げようとしたら不意に手を引かれて、勢いのまま要くんの胸にぽすっと抱きとめられてしまった。 「…要くん?」 「ゴメン」 驚いて抱きとめられたまま名前を呼ぶと要くんは私の方を見ずに謝り、私の事を抱き締め続ける。チラリと見えた肩は若干震えていて、多分また泣いているんだと思った。 「…ありがとう、なまえ」 「なんも、してないよ。事実しか言ってない」 そっと背中に腕を回して要くんを抱き締め返す。要くんも更にギュッと抱き締め返してくれた。彼は私の肩に顔を埋めたままだ。 こんな彼を見るのは初めてで少し戸惑っている。だけど、 「要くん」 「ん?」 「…三年間、お疲れ様でした」 この言葉だけは、三年間頑張ってくれた彼に捧げたい。考えていたら自然と口から出ていて。彼は私の一言を聞いて小さく頷くと泣き声を出さずに涙を流した。 私は一緒にやってきたわけじゃないから、なんて言葉を掛けてあげればいいのかわからない。 でも最後の試合凄く格好良かった。本当に本当にお疲れ様でした。 この気持ちだけが独占して、泣いている彼に少しでも伝わればいいなと思って、今度は隙間ができないくらいぎゅっと抱き締めてあげた。 |