ほんの少し欲張りになれたら



+あんさんぶるスターズ・伏見弓弦
*恋人。蓮巳の幼馴染み。ヒロイン視点。
*同じクラス。プロデューサー兼衣装のデザイナー


***


「次のお休み…一緒にお出掛けしませんか…?」

放課後の教室。私と弓弦くん以外いない教室に、小さく私の声が木霊した。


次の土曜日は久しぶりになんもないお休み。どこのユニットからもプロデュース依頼もなく、あんずちゃんから頼まれている衣装案作成も無い、珍しく一日フリーの日だ。
だからこそ、たまには息抜きというかお出かけをしたい、という理由の元で恋人である弓弦くんにお誘いをかけてみた。ちなみに、小声になってしまったのは緊張のせいだ。

私の目の前にいらっしゃる弓弦くんは私の一言を聞いてキョトンとした表情を浮かべている。緊張と変な焦燥感と後にくる羞恥心から、次第に頬に熱がじわりと集まるのが自分でもわかる。

「なまえさん」
「は、はいっ」
「申し訳ございません。もう一度お聞きしてもよろしいでしょうか」

弓弦くんからの言葉に耳を疑った。え、今なんて?恐る恐る顔を上げてみればそこにはいつもと変わらない笑みを浮かべた弓弦くん。
人が勇気を出して伝えた言葉を、この人はちゃんと聞いてなかったと言うのだろうか。
そんな訳がない、弓弦くんはしっかりしている人間だからよっぽどの事が無ければ聞き逃すとか有り得ないと思うし、何よりここには私と弓弦くん以外いないのだから、聞き取れないとか無いよね…?!なんていろんな疑問が飛び交う中で、弓弦くんは私からの言葉を待っている。…結論は自分が小声で伝えてしまった自覚があるし、そのせいで弓弦くんが聞き取れなかった、ということにしておいた。

改めて口にするのかと新たに羞恥心を抱きながらも、先程より強く拳を握り締めてから一息吐いて、目の前にいる弓弦くんを見据えた。

「つ、次のお休み、弓弦くんが良ければ…お出掛け…しませんか…?」

今度は弓弦くんの目を見てしっかり伝える。そのまま残る羞恥心を胸に抱きながら、ギュッと目を瞑って顔を下に俯かせた。
私がお休みでも、弓弦くんは姫宮家の執事さんだし、お休みなんて無いかもしれないとも思った。だけど、ほんのちょっと希望を持ったっていいんじゃないかな、って思ってしまって。ただでさえ、学校でもあまり一緒にいられないのに(クラスは一緒なんだけどお互いにばたばたしてたりしていて…)休みの日くらい、少しでも一緒にいたい…なんて思ってしまうのは迷惑なのだろうか。

返事が無いからやはり困らせてしまったのかもしれない。なんと言われるか不安になりながらも俯かせていた顔を上げると、そこには小さい手帳を片手で開き、予定を確認しているであろう弓弦くんの姿。あれ、これって…期待していいの、かな。
じっとその姿を見つめていれば予定を確認し終わったのか、一つ小さく溜め息を零しながら弓弦くんはそっと手帳を閉じて私の方を見据える。彼の瞳が私の瞳とかち合うと緊張で再び身体が固まってしまう気がした。

「えっと…」
「次の土曜日ですね。夕方から坊ちゃまの付き添いがあるのでそれまでになってしまうのですが、それでもよろしければ是非、ご一緒させてください」
「い、いいの…?」
「わたくしも、なまえさんと一緒に過ごしたいと思っておりましたので。誘って頂けて嬉しゅうございます」

弓弦くんの返答に、思わず安堵の溜め息を零した。そのまま緊張でドキドキしていた心臓を落ち着かせながら目の前の弓弦くんに視線を送る。嬉しくって、つい口元が緩んでしまう。

「貴重な弓弦くんのお休みを私にくれて、ありがとう…!」
「いえ、こちらこそ。愛らしいなまえさんの姿を見れましたので」
「わ、私の声が小さいせいで聞き取れなかったんだよね…?本当にごめんなさい…!」

自分の声の小ささに罪悪感を感じて謝罪をすれば、先程みたくキョトンとした表情を浮かべられる。不思議に思って小さく首を傾げれば、口元に手を添えて弓弦くんはくすりと笑みを浮かべる。その姿があまりにも綺麗でつい見惚れてしまう。

「いえ、先程のはなまえさんの声が小さかったのではなくてですね」
「…え、違うの?」
「はい。勇気を振り絞ってデートに誘うなまえさんが可愛くて、ついもう一度見たいと欲張ってしまいました」
「え、」
「大変、愛らしいお姿でした」

弓弦くんから笑顔で放たれる言葉に、変な言葉と共に一気に体温が上昇した気がする。
…この人は本当に恥ずかし気もなくさらりと言ってしまうからこっちの心臓が持たなくなる。弓弦くんからの言葉に騒がしくなる心臓を落ち着かせるためにも一つ溜め息を吐き出した。

「でも、わ、私も弓弦くんとお出掛けできるの、本当に嬉しい…よ」

今度は私から弓弦くんを見据えながらゆっくりと言葉を紡ぎ出す。「そういう可愛らしい事を仰られると、困ってしまいます」なんて弓弦くんは言いながら歩み寄ってそっと私の額に触れるだけのキスを落としてくれた。恥ずかしげもなくそういう事しちゃう弓弦くんに私は困っちゃうよ。それでも、弓弦くんとお出掛けできるって考えれば少しだけ勇気を持って伝えた意味もあったのかもしれない。
目の前でにっこりと笑顔を浮かべている彼を見て、幸せな気持ちになりながらも私の口元は嬉しさで緩んだままだった。





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