7月4日



+ふぁいとの暁・穂村健一
*同級生・バスケ部マネ・カレカノ。ヒロイン視点。 誕生日。


***


「穂村」
「どうした?」
「そろそろ誕生日だよね?なんかほしいものある?」

部活の後。穂村と一緒に帰っているときにふと思い出した、彼の誕生日が近いという事。ぼんやりと何がいいか考えたけど特に思い付かず、それならば本人に聞いてみようという結論に至り、問いかけてみる。私からの質問に、穂村はキョトンとした表情を浮かべた。そこまで難しい質問をした覚えは無いのだけど…。

「急に問われると難しいな…」
「ごめん。私も色々考えたんだけど、これと言って思いつかなくて…。リストバンドは先輩から貰ったものあるもんね?」
「そうだな」

ちょっとだけ申し訳無さそうに眉を下げて謝ってくる穂村。穂村が里見先輩を尊敬している事は知っているし、貰ったリストバンドを大事にしている事も知っているから別にそこは気にしていない。

「謝らないでよ。それ付けてた方が似合うし、大丈夫だよ。気にしないで」
「そうか?ありがとう」
「うん。…それにしても…誕生日プレゼント…かあ」

穂村の横を並んで歩きながら改めて考えてみる。穂村自身はあまり気にしてないみたいで「そこまで気にしなくていいけど…」と苦笑いを零しながら言われてしまったけど、初めて出来た彼氏で誕生日をお祝いできないなんて嫌だしな。

「あ」
「ん?」

ふと、隣の穂村が歩みを止めた。ので、反射的に私もワンテンポ遅れて足を止めて彼の方を見てみれば、ほんのり頬を赤く染めている。どうしたのだろうか。

「穂村?どうしたの?」
「誕生日プレゼント、」
「うん?」
「…な、名前で呼んでくれないか」

聞こえるか聞こえないかくらいの消え入りそうな声で穂村は呟いて、恥ずかしそうに私から顔を背けた。…少しだけ赤くなっている耳は隠せてないよ、穂村。
でも名前呼び、か。穂村が良いならそれでもいいんだけど。

「…名字で呼んでるから、今更名前で呼ぶって恥ずかしいな…」
「俺も同じだけどな。みょうじも俺も、お互いをずっと名字で呼んでいたから余計だな」

止めていた足を進め、穂村は私の横に並ぶ。
穂村は「難しいなら本当にいいから」と言ってくれたけど、それくらいの事も出来ないっていうのは嫌だし、私だっていい加減好きな人の事くらい名前で呼びたいし。

「…健一」
「えっ」

意を決して小さく、それこそ先程穂村が呟いたくらいの声量でポツリと名前を零してみる。
慣れない事をしてしまったものだから、後から照れが生じてじわじわと頬に熱が集まってくる感覚がする。

「……慣れない事、するもんじゃないねー」
「…俺的には嬉しかった、けどな」
「誕生日までには、照れずに言えるように頑張るよ」
「ああ。期待して待ってる」
「そ、そこは期待しないでよ」

お互いに頬がほんのり赤くなっているけど、それはお互い言わないようにする。
そのまま照れ隠しのつもりなのか、横にいた穂村が手をきゅっと優しく繋いでくれるもんだから私もそっと握り返した。





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