6月5日



+ホイッスル!・若菜結人
*真田の幼馴染み。若菜視点。 誕生日。


***


「なーなー、なまえー。お前今日、何の日か知ってるー?」

ちょうど休憩に入った頃。手伝いでいつも来てくれている一馬の幼馴染みのなまえがタオルとドリンクを渡してくれた時に思い切って尋ねてみた。

今日、6月5日は俺の誕生日。別に何かを期待してるかって言われたらそこまで期待しているわけじゃない。物はもらえなくていいから、なまえからおめでとうの一言はほしいかなって感じで。つまりまあ、俺は俺でなまえの事を一途に想い続けているわけだ。
尋ねられた張本人は目を丸くして不思議そうな顔で俺の事を見つめている。え、マジ。本当に知らないの…?!

「……なんかあったっけ?」
「嘘!マジかよ…!なまえなら知ってると思ったのにー!」
「え。な、なんかごめん…!」

俺の言葉が予想外だったのか、眉を下げて頭を下げるなまえ。別にそういう顔をさせたいわけじゃないし、ていうか大体教えてなかった俺も悪い…わけじゃん?
少しだけ落胆してから小さく溜め息を吐き出して、頭を下げ続けているなまえを見る。本当、こういう真面目な部分にも惹かれたんだろうなあ、俺。

「なまえ、顔上げて。…大部分的には俺が悪い事に気が付いた」
「…そうなの?ていうか、今日は何の日なの?」

俺の言葉に漸く頭を上げてくれたなまえは、今度は首を横に倒し疑問系で聞いてくる。うわ、これ当日言うの恥ずいわ…。

「いや、あの…」
「うん」
「俺、…今日…誕生日でさ」
「え」

視線を泳がせ、口ごもりながら本題を口にすればなまえから驚きの声が上がる。予想外だったのか、それともそんな事如きで騒いでいたのか、のどっちかを思ってるんだろうなあ。
少しだけ早くなる心臓を胸にはあ、と小さく溜め息を一つ零して、じっとなまえの事を見つめながら言葉を続ける。

「だから、そのー…なまえから一言でもいいから、おめでとうって言ってもらいたいなー…なんて淡い期待を抱いてたわけです…」
「わ、私なんかのでいいの…?」
「むしろ、俺はなまえからがいいの!」

彼女からの疑問に勢いよく手を握りながら返事をすれば、驚きの表情を浮かべられた。けど、すぐに優しく笑って俺の手をきゅっと握り返してくれた。

「結人」
「……ん」
「誕生日、おめでとう。頑張ってる結人の姿、これからも応援させてね?」

とびっきりの笑顔と言われた言葉はあまりにも反則で、ああ、やっぱり俺この子の事大好きなんだな、なんて頭で思ったのと同時に、俺は勢いでそのままなまえの事を抱き締めていた。

「ゆ、結人?!」
「ごめん、今だけこうさせて」

一馬とか英士に怒られるかもしれないとかそういう事も脳裏を過ったけど今はそれだって見逃してほしい。だって、今日は俺の誕生日なんだから。
少しだけぎゅっと力を込めて抱き締めてみれば、なまえもおずおずと俺の背中に腕を回してくれた。
全く、そんな行動されたら勘違いしちゃうだろ。心に思いながらも嬉しさで顔はにやけてしまっている。今だけ、今はなまえの優しさに甘えて休憩が終わるまでこの暖かいぬくもりを感じ続けた。





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