君だけを想う



+暗殺教室・菅谷創介
*恋人・幼馴染み。菅谷視点。
*七年後・捏造多々あり。


***


期待しているわけではない、と言ったら嘘になる。けど、毎年恒例になっている行事に一人そわそわして部屋の中をある程度片付けてはあ、と小さく溜め息を吐き出す。
ちらりと壁に掛かっている時計を確認してみれば、なまえが来るまであと10分程。
任せられた仕事をしながら待っていれば、控え目に俺の部屋をノックする音が二回聞こえて、作業していた手を止めた。

「創介くん、いる?」
「おー、開けていいぞ」

ドアの向こうから聞こえてくる控え目な声に返事をすれば、ガチャリとドアを開けてひょっこりとなまえが顔を覗かせる。

「今、大丈夫…かな?」
「んな確認しなくてもいいって」

俺の言葉を確認してからなまえはドアを後ろ手にしてぱたりと閉じる。俺は俺で作業してたものを片付けて、使っていた机の上を綺麗にする。俺の真正面になまえは座ると、持っていたカバンを手に持って部屋をきょろきょろと見渡している。

「なんか創介くんの部屋に入るの久しぶりだね。変わってない。あ、でもちょっとだけ置き場所とか変えた…かな?」
「おー、少しだけ作業するのにやりやすい場所に変えた。あ、なんか飲むか?麦茶くらいなら…」
「いえいえお構いなく!これ、渡したかっただけだからっ」

席を立とうとする俺に慌ててストップを掛けてから、手に持っていたカバンの中から綺麗にラッピングされたものを取り出して渡してきた。

「えーとまあ、毎年恒例なんだけど。バレンタイン、です」
「…おー」
「あれ、あんまり嬉しくない…?創介くん、甘いの得意じゃないからビターにしたんだけど…!」
「いやそうじゃなくって、その心遣いもめちゃくちゃ嬉しいし。…去年と違う立場で今年はチョコ貰うわけだから、緊張してる…」

聞こえる程度にぼそりと漏らせば、納得したような声が聞こえてくる。去年までは「幼馴染み」として貰っていたチョコが今年から「恋人」から貰うチョコになったんだ。ちょっとは緊張してもおかしくないって。
だけど貰える事自体はやっぱり嬉しいし、なまえからラッピングされたチョコを受け取り礼を告げてから頭をくしゃりと撫でてやれば嬉しそうに笑うもんだから、もうどうでも良くなってしまった。…単純だな、俺。

「でも、創介くんがそういう風に意識してくれたのは嬉しいかな。私にとって創介くんは「幼馴染み」でも「恋人」になっても大切で大好きな人には変わりないから…そ、そこだけは分かってもらえれば嬉しい、かなっ」

少しだけ頬を赤らめて言葉を紡ぐなまえは俺からそろりと視線を外している。これは照れた時のこいつの癖だ。変わらないもんだ、なんて思って頭をぽんぽんと軽く叩けばなまえの口元が少しだけ緩んだ。

「あ、そうだ。私、これから凛香ちゃんにもチョコ渡しに行かなきゃ…!」
「もう行くのか?」
「うん、ごめんね。ゆっくり出来なくって。…それに、創介くんの仕事の邪魔はあまりしたくないから…」

頭に乗せていた俺の手をゆっくり退かしながら苦笑いを浮かべるなまえの視線は、俺の後ろに注がれている。そこには持ち帰りの仕事の一つが置いてある。
なまえが来るときは大体いつも持ち帰りの仕事は終わらせているけど、今回はタイミングが悪く重なってしまったのでしょうがない。こいつはこいつで、俺の絵を見るのが好きだって言ってくれるし、集中力が必要なのも間違いじゃないからな。

「じゃあ、また来るね。絵の完成、楽しみにしてる…!」
「おー、速水によろしくな。…あ、それと、」
「うん?」

視線をなまえに送ってから、名残惜しそうに離れていく手をもう一度掴む。そのままなまえの手の甲に軽く唇を寄せてキスを落とせば、へ!なんてビックリしたような間抜けな声が上がった。

「そ、創介くん…?!」
「バレンタインサンキューな。ホワイトデー、楽しみにしておけよ」

ぱっと手を離してひらりと手を振れば、顔を真っ赤にしたなまえが少しだけこちらを睨み付けながら「もう!」と言いドアを開けてばたばたと俺の部屋を後にした。

「さて、と。やるか…」

彼女が出て行ったドアに視線を送り小さく言葉を漏らしてから、キャンパスを自分の手元に置き直す。
そして始める前に先程貰ったラッピングされたチョコを見つめた。美味いのは分かっているから食べるのは後で味わいながらにする。ホワイトデーの事はそのとき一緒に考えるか。
どんな内容でも喜んでくれそうな彼女に頬が緩んでしまう俺は、やはり単純なのかもしれない。

彼女が待ち望んでいる絵の完成が先だな。思考回路を一気に仕事モードに戻して集中し、俺は筆を手に取り仕事を再開した。





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