*衛が行くカフェの店員
*衛より二つ年下
*付き合ってない・両片想い。衛が芸能人と知ってる


* * *


「暖かいなぁ」

寮を出て歩き始め、春の暖かい陽射しを感じとる。そんな暖かい陽射しを感じつつ、周りの音を聞きながら気分良く待ち合わせ場所である近くの公園のベンチへと足を進ませていく。
目的の場所が見えてきたと思えば、そのベンチには既に見慣れた人物が座っていて、その姿を捉えた俺はゆっくりと歩いていた足を早足に変えて、その人物へと近付いた。

「なまえちゃん!」
「あ、衛くん」

早足で目的の場所に向かって到着してから声を掛けると、柔らかい笑顔で彼女は俺の名前を呼んでくれる。その笑顔と声色に、心臓がドキドキと高鳴っていく。そう、今日はなまえちゃんに誘われてここに足を運んだのだ。

「ごめんねっ、待たせちゃったかな?!」
「全然、そんな事無いです。忙しいのに、無理言っちゃってごめんね」

隣に腰掛ける俺に、なまえちゃんは申し訳無さそうに顔を俯かせた。「俺は今日はオフだから!だから、問題ないよ」と慌てて伝えれば、ゆっくりと上げた顔には安堵の表情が浮かんでいる。

「で、えーと…今ここにいるって事は、お仕事お休み…なんだよね?」
「うん、そうなんです。だから、今日衛くんに会えたら良いなあって思ってて、渡したいものもあったから。だから、予定合わせてくれて本当にありがとう」
「いやいや!…そっちも忙しい日な筈なのに、大丈夫なの?」
「元々お休みの日だったからね。だから、私は大丈夫」

そう話してくれる彼女は、俺が良く行くカフェの店員さんだ。たぶん、今日とかバレンタインだし、お店には期間限定のケーキとかも置いてたから忙しいじゃないかと思ってたんだけど、彼女自身はお休みらしい。
俺の質問に答えてくれたなまえちゃんは、手持ちのトートバッグを何やらごそごそと漁り始めた。その様子を窺っていると、バッグからは薄い紫色の包装紙に包まれた箱が取り出されて、俺の方へと差し出される。

「はい、衛くん」
「えぇと…?これって、」

恐る恐るなまえちゃんから差し出された箱を受け取って、まじまじとそれを見つめる。そう、今日はバレンタインデーであって、流石の俺でも察しがつくし、且つ期待してしまう。これはきっと、バレンタインのチョコなんじゃないかと。

「バレンタインのチョコ、です。衛くん、お店に来てくれるし、話しを聞いたりしてくれてお世話になってるから。…だからもし良かったら、」
「む、むしろ…貰っちゃって良いんですか…?!」
「ふふ、…うん。衛くんの為に用意したから、貰ってくれたら嬉しいな」
「ありがとう…!凄く嬉しいなぁ」

なまえちゃんから紡がれる一つ一つの言葉と笑う姿に、ぐっと気持ちが高揚して貰ったチョコを持つ手に力がこもりながらも、俺も感謝の言葉を告げる。
バレンタインのチョコ。それだけで特別だと思えるものなのに、それをこうして手渡しで貰えるなんて、もっと特別だと思えてしまう。

「どうかした?」

受け取ったチョコを大事に両手で持って黙ってしまった俺に、彼女は優しく声を掛けてくれる。こうして、こうやって顔を見て手渡しで貰えるのが凄く嬉しいし、こんなのいつ振りだっただろう。思い返してみてもここ数年はバタバタしていたから、余計にそう感じてしまう。

「ううん。こうやって手渡しでチョコ貰うのなんていつ振りだったけー…って思って。あ、でも!そう思った後は、なまえちゃんから貰えて凄く嬉しいなー…ってちょっと感極まってしまってですね!」
「そう、なんだ。…本当はね、手渡しで渡すか悩んだんだ。衛くん、芸能人だし迷惑って思われるかもしれないって」

小さく息を吐き出しながら、彼女はゆっくりと言葉を続けていく。俺自身はそんな風には思わないしむしろ本当に嬉しいんだけど、事務所の事とかも考えての事なんだろう。少しだけ息が詰まるような、震えているような声色で言葉は紡がれていく。

「でも…今、衛くんからその事を聞けて、手渡しで渡して良かった、って思えたんだ」
「なまえちゃん」
「私の我儘ではあるんだけど、それでも衛くんが喜んでくれたなら、良かったって思って。…だからありがとう、衛くん。受け取ってくれて」
「…ううん。こちらこそありがとう、こうして手渡しでくれて」

俺の感謝の言葉に、少しだけほんのりと頬を赤く染めて嬉しそうに笑う彼女に、俺自身もつい口元が緩んでしまう。
だって、こうやって顔を見て手渡しで貰えるのがなにより嬉しいって感じるのは、なまえちゃんからのものだからっていうのは自分自身理解しているから。

「(……彼女を好きっていう気持ちは、立場的にまだまだ伝えられないけど。それでも貰えて嬉しいって気持ちはたくさん伝えられるかな)」

受け取った箱をもう一度大事に持ってじっと見つめてから、改めて彼女へと感謝の気持ちを告げれば、先程よりも嬉しそうな笑顔で「どういたしまして」と弾んだ声色で答えてくれて、そのまま二人で少しの間お喋りもして。チョコも貰えてなまえちゃんの優しい笑顔もたくさん見れて、俺にとってはそれが贅沢で幸せな一日で、彼女との距離が少しだけ縮まった、そんな一日になった。


そして、そんな幸せオーラ全開だったせいか、寮に帰った時にケンくん達に質問攻めにされたのは言うまでもない。

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