たとえばこんな初夏の日に 


*恋人設定。ヒロイン視点。
*マトリ所属の同期。夢主≠泉玲
*名前変換少なめ


***


外は燦々と太陽が輝いていて、元気よく蝉の鳴き声が鳴り響いている。
漸く取れた久し振りの休み、出掛けようと最初は予定を組もうとしていたけど、そんなたまの休みだからこそ普段やれない掃除でもしようと思い立ち、私は一人黙々と部屋の片付け兼衣替えをしていた。…否、一人では無いのだけども。

「おっ、これ前のデートの時に着て来てくれたワンピースじゃん!」

夏樹はそう言って私がタンスに仕舞い入れたお気に入りの淡い色のワンピースを取り出した。
どうやら彼も今日が休みだったようで「休みならどっか出掛けない?」とお誘いをくれていたのだけど私から「今日は片付けしたいから」という理由で断った。断ったはずなのに、気付いたら数十分後に夏樹はここに来ていたという。理由を聞いたら「暇だったし、良ければ俺も手伝う!」との事だけど、さっきからこんな調子で私がタンスに仕舞ったものを取り出し広げて見てみたり、別の箱へ仕舞おうとしたものを引っ張り出したりしている。…これじゃあ意味が無いんだけど。

「もう。夏樹、さっきから邪魔ばっかりしてる!」
「いや、別に邪魔するつもりじゃなかったんだけどさ?前になまえがデートに着て来てくれた服を見つけたら、ついテンション上がっちゃって」

あまり悪く思ってないような、そんな態度で夏樹は両手を合わせて「ごめんな?」と謝ってくる。デートの時の事を思い出してくれていた、という事なんだろうか。それを言われたらこっちも少なからず嬉しさを感じてしまうし、怒ろうとしたのにその気持ちがどんどん落ち着いてしまった。

「はあ。…まあ、別に良いけどさ」
「ほんと悪かったって!もうなまえの邪魔しないし、次からはちゃんと手伝うから!」

さっきとは打って変わって、夏樹は今さっき広げていた淡い色のワンピースを不器用ながらに頑張って畳んでくれる。少しだけ不格好なそれに苦い顔をする夏樹、表情に出している彼を見て私はつい小さく笑ってしまった。

「笑うなよー!」
「ごめんごめん、意気込んだ割には上手く畳めてない夏樹がちょっと面白くて」

頬を膨らませてこちらを軽く睨んでくる夏樹が面白くて、そんな彼が畳んだワンピースを受け取りそっとタンスの中に仕舞っていく。まあ、不格好なのは少しだけだしそういう所は夏樹らしくもあるから、直さないでおくけどね。



それから一時間半後。話しをしながら進めていた作業はあっという間に片付いていき、残りは一つの箱に仕舞っていた夏服をタンスに仕舞い入れる作業だけになった。

「後は?もうあとはこの一箱だけ?」
「うん、そうだよ。あ、もうこれだけだし充分助かったから。夏樹は向こうでゆっくりしてて大丈夫だよ」

疲弊が僅かに顔に出ている夏樹に、ソファーの方を指差して休んで貰うように伝える。だけど夏樹は特に動かずに、私の手元にある今から整理する開けたばかりの箱をじっと見つめたままだ。…どうしたんだろう?

「夏樹?」

なんとなくずっと見られている視線が少しだけ居心地悪くて、恐る恐る彼の名前を小さく呼んでみる。だけど特に反応は無く、その代わりに箱の中に向けていた視線と共に今度は手が伸びて来て一着の服を夏樹が手に取る。彼の行動に首を傾げた私に構わず、夏樹は「なあ」と切り出した。

「これ、見た事無いんだけどさ。もしかして新しく買ったやつ?」

そう問われてから夏樹が手にした服に視線を向ければ、花柄のグリーンのロングスカートを持っていた。自分でもあまり記憶が無いそれだったけど、去年の夏の最後にセールで買ったものだと思い出す。時期が終わってしまったからその時は着れないと思って、だから今年の夏に着ようとこの夏服の箱の一番上に仕舞っておいたんだと、記憶が思い出されていく。

「まあ、新しく買ったって言っても去年なんだけど…」
「あ、やっぱ?あんまり見覚え無いなって思ったんだよな」
「うん。去年の夏の終わりに買ったから、使うのは来年からかなって思ってて。…でも、良く分かったね?結構どこにでもあるタイプだと思うんだけど…」

楽しそうに笑う夏樹は、持っていたスカートを先程みたいに不格好になりながらも畳んで私に手渡してくれる。それを素直に受け取りながら、疑問に思った事を口にして夏樹に問い掛ければ、キョトンとした後に目を細め笑い、じっと私の事を見つめてからゆっくりと言葉を紡いだ。

「着てる所見てたら絶対覚えてられる自信あるんだよなー。お前、これ絶対似合うって思うから!」
「っ、」

真っ直ぐすぎる言葉と笑顔に、言葉が詰まってしまう。自分から聞いた事ではあるんだけど、「似合う」まで言われるとは思わなくて、見つめられていた状態からつい顔を背けてしまった。

「…なまえー?なんで顔そっち向けるんだよー」
「だ、だって…まだ着てすらないのに褒められるとは思わなくて…」
「俺は本心を言っただけだって。あ、だったらさ、次のデートの時これ着て来てよ!実際見たいしさ!」
「え、」

夏樹は先程のように両手を合わせて「な?」とお願いをしてくる。元々今年の夏から着るつもりだったからそれは問題無いんだけど…なんか、夏樹の言う「お願い」にはちょっと弱い自分がいてつい苦笑いを零してしまう。

「まあ、…元々今年の夏で使う予定だったし、夏樹がそこまで言うなら…うん」
「よっしゃ!じゃあ、次のデートの時に絶対な!」

にこにこと笑ったままそう言ってから作業を再開し、結局夏樹は最後まで休まず、片付けを手伝ってくれた。
その片付けをしている間から終わった後も、次のデートでどこに行くかを夏樹と色々と調べながら話していく。始終楽しそうにしている夏樹を見ていて釣られてこっちも楽しくなってきて「楽しみだね」って口に出しながらそっと彼の手に触れてみせる。そうしたら夏樹は先程みたいな満面の笑みで「夏はいっぱい遊びに行こうな」って言いながら触れた手をそっと優しく握り返してくれた。


 

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