きみしかいなかった 


*恋人設定。日向視点。
*瀬尾研究室の一員。可愛と同い年。


***


「ん…」
「あ、おはよう」

優しい声に導かれてゆっくりと重たい目蓋を開けば、目の前には恋人であるなまえさんの姿。いまだに思考が落ちそうな僕の頭を優しく撫でてくれるなまえさんの手は、暖かいから大好きだ。

今日は大学で忙しい彼女と珍しく予定が合って、僕の部屋になまえさんが来てくれている。最初は宿題や大学の課題をしていたんだけど、ある程度宿題を片付け終えた僕はベッドに横になって彼女の課題が終わるまで待ってようと思っていたらどうやら眠ってしまっていたみたいだ。
彼女はあまりそれを気にしていないのか、僕が眠っている間に既に大学の課題を終わらせていたみたいで、今は僕の部屋の棚に置いてあったホームズの小説を読んでいる。

「志音、途中で寝ちゃったんだけど…大丈夫?まだ眠い?」
「ん、大丈夫。…起きる」

折角彼女が来てくれているのに、寝たままなのはさすがに彼女に対しても失礼だし何より僕自身が嫌だ。普段、あまり二人きりになれないから余計にそう思ってしまう。
なまえさんの心配をよそに、目を擦りながらベッドから降りて彼女の隣に座れば、またぽんぽんと優しく頭を撫でてくれる。

「子供扱い…?」
「あ、ごめんね。そういうつもりじゃなかったんだけど」
「うん、分かってる。なまえさんの癖、だもんね。…ね、こっち」

僕の言葉に何事かと首を傾げる彼女の腰を引き寄せ自分の足の間に入れて、お腹に腕を回して抱き締めるような形を取る。そのまま彼女の背中に顔を埋めた。
僕の取った行動に、なまえさんは既に慣れてしまっているのだろうか、もう照れる事もしなくなって、小説の続きを読み始めてしまった。…慣れてない時はこれだけで結構照れたりしてくれてたんだけどなあ。

「なまえさん」
「ごめん、これもうちょっとでキリが良いから…」
「……」

ごめん、と言いながらも視線は小説の方に向けたまま。確かに、今まで寝ていたのは僕だけどもう起きてるんだし、少しはこっちを見てくれても良いんじゃないかな。
背中に埋めていた顔を上げて、彼女が読んでいる小説を後ろから覗き込む。まだ全然キリの良い所までいきそうにない。その様子を見て少しだけ寂しさを感じる。

久し振りに二人きりになれてこんなにも密着もしているのに、意識しているのは僕だけなんだろうか。普段、僕の方がずっと寝てしまっていて寂しい思いをさせてるんだろうけど。
考え始めたら余計にごちゃごちゃと考えてしまう。ふと、ちらりと彼女の横顔を窺ってみても、その目は必死に小説の方を追っていて更に寂しさに拍車を掛けた。

「(気付いてほしい、とか構ってほしい、とか気付いたら僕、なまえさんの事ばっかり考えちゃってる。…今まで、こんな事無かったのに)」

身体を離して、ぼんやりと自分の行動を見返してみれば気付けば彼女の事ばかり考えてしまっているし、目で追ってしまっている。付き合い始めた時はまさか自分がこんな風になるなんて思ってなかったし、彼女の方もそんな風に考えてないと思う。…恋は盲目って、こういう事なのかな。
そのまま少しだけ視線を落とせば、視界に映るのは色白の彼女の首筋。…確か、キスする場所によって意味が違うって、誰かが言ってた気がする。首筋は確か…えーと、なんだっけ。…執着?

「ごめんね、志音。ちょうどいま読み終わ、ひゃ?!」

なまえさんが僕に何かを話しかけて来たけど、それと同時に彼女の綺麗な白い首筋にちゅっとキスを落とす。いきなりの事にビックリしたのか、なまえさんは変な声と共に持っていた小説をばさりと床に落としてしまった。

「い、きなり何…?!」
「なまえさんに触れたくて」
「ちょ、ちょっ…!」

素直な気持ちを吐き出すようにもう一度、音を立てて首筋にキスを落としてからぺろりと舐め上げれば、なまえさんは見て分かるくらいにびくりと身体を強張らせた。
首筋から顔を離して、強張っている身体を優しく宥めるように後ろから抱き締めれば、彼女は顔だけ後ろに向けて、僕の表情を窺うように下から覗き込んでくる。その瞳には、驚きと同時に心配が重なったような瞳が僕の視線と交差する。

「きゅ、急にはびっくりしたけど…別に嫌では無かったから。…どうしたの?」
「…さっきも言ったけど、なまえさんに触れたくなって」
「そう、なの…?」
「うん。…僕、意外となまえさんに執着してるなあ、ってさっき考えてて思った。構ってくれないのが、無性に寂しく感じちゃって…ごめんね」

そこまで言ってから眉を下げてなまえさんを見れば、キョトンとした表情を浮かべられる。変な事言ったかな?首を傾げてなまえさんからの返答を待っていれば、僕の頬に彼女からの口付けが落とされる。

「…なまえさん?」
「それ言ったら、私も執着してるのかな、なんて思っちゃうよ。…寝てばっかりいるから、少しは構ってほしいんだよね」

少しだけイタズラっぽく、それでも素直な気持ちを口にした彼女はほんの少しだけ頬を赤くしながら僕を見て笑った。そんな予想外な発言に思わず目を丸くしてしまう。それって…僕と一緒じゃないか。その後、互いに見つめ合ってから隙間が出来ないくらいにぎゅっと彼女の事を抱き締めた。こんな風になまえさんも僕もお互いを甘やかしちゃうから、お互いに執着しちゃうんじゃないかなー…なんて、ね。



 

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