Love lie 


*恋人設定。大谷視点。
*エイプリルフールの話し。


***


舞い込んできた案件を片付けていたら、結局日付を跨いで仕事を終えた帰り道。自分の車に乗り、エンジンを掛けると同時に小さい通知音が車内に鳴り響いた。ポケットに入れていたスマホを確認すれば、ライト部分が緩く点滅を繰り返している。ロックを解除して内容を確認すべく開けば、彼女であるなまえからLIMEが来ていた。
いつもスタンプとかを付ける彼女からのLIMEにそれは無く、珍しく短文の一言メッセージで送られてきている。

『妊娠しちゃったんだけど、どうしよう……』

短文にしては衝撃的なその一文に、思わずスマホを自分の太腿の上に落としてしまい、鈍い痛みが走る。でも今はそれ所じゃない。太腿の上に落としたスマホを手に取り、もう一度内容を確認する為にLIMEのメッセージ画面に視線を落とす。間違いじゃない『妊娠』という文字を何度も何度も確認して、頭の中で事態を整理する。
避妊に失敗したって事なのか、そんなヘマをやらかしたつもりは無い。……そもそもなまえからこんな大事な事をLIMEで送ってきたりするのか。いつも重要な事や大事な事は直接会って話しをする彼女に限ってこんな一文だけで済ませるのか。
先程よりも幾分か落ち着いてきた頭で冷静に考えていれば、車内の時計が目に留まりある事に気付く。

「……もしかして、エイプリルフールの嘘?」

時計の針が0時半を示していた事に気付きスマホで日付を確認すれば、4月1日と表示されていた。その事に恐らくなまえからのLIMEも同様のものなんじゃないかと推測する。
まあ、エイプリルフールだったとして彼女からこんな文面を送られてくるのは本当に予想外で、このLIMEは事実なのかもしれない、とも思えてくる程にはビックリしてしまった。単純に、動揺する俺が見たかったから、かもしれないけど。スマホ落とすくらいには動揺はしたけどね。
嘘か本当か確認をする為にも、今から彼女の家へ向かう事を決めて返信をしないままだったLIMEを開き直し「今から行くから、詳しく教えて」の一言だけ送信してスマホをもとあったポケットに入れ直す。改めてエンジンを掛け直して、彼女の家へと向かう為ハンドルを握った。



車を走らせた場所からなまえの家まで20分程度。到着して、彼女が住んでいる部屋のインターホンを鳴らせば、ゆっくりと扉が開いていく。そこには、申し訳無さそうな表情を浮かべたなまえが俺と視線を合わせずに立っていた。

「恋人を見てその顔は無いんじゃない?」
「だ、だって、まさか来てくれるとは思ってなくて……」
「今日は日付変わってからも仕事してたからさ。……で、さっきの詳しく話し聞かせてくれるよね?」

今にも逃げ出そうとしている彼女の手を掴んでから、玄関へと足を踏み入れる。俺の言葉に彼女は小さく首を縦に振った。


リビングへと足を進めて、中央に置いてある小さめのローテーブルの前に腰を下ろせばそれにつられるようになまえも俺の隣へと腰を下ろす。それと同時に掴んでいた手をゆっくりと解放してあげれば、少しだけ安堵の表情を浮かべた。さっきの言い方と手の掴み方から俺が怒っていると勘違いしていたみたいだ。
顔を上げて、申し訳無さそうな表情でなまえは一つ息を吐き出してから、ゆっくりと言葉を口にしていく。

「あの……羽鳥くんが私の所に来てくれてる間にね、LIMEでネタばらしはしたんだけど……」

なまえからの言葉に、ポケットに入れていたスマホを取り出し通知を確認する。
確かに俺がちょうど運転している時間帯に彼女からのLIMEが入っている。それを開いてみれば「エイプリールフールの嘘ですっ」という短文と可愛らしい謝罪のスタンプが並べられていた。やっぱりこういう文面の方が彼女らしいし、安心する。

「うん。なんとなく、エイプリルフールの嘘かなとは思ったよ」
「や、っぱり直ぐばれちゃうよね…。本当は明日の朝とかにネタばらししようかなと思ったんだけど、こっち来るって言うからつい慌てて……。だからあの、妊娠とかはしてないです……」
「なら良いんだ。ただ、なまえが嘘吐くのが意外だったから。本当に妊娠させちゃったかなって心配したよ」
「ご、ごめん……。私と違って、羽鳥くんはいつも余裕で何事にも動じないから。……動揺とかするのかなって思って……」

申し訳無さそうな表情を浮かべている彼女を落ち着かせるようになまえの髪を優しく撫でてあげれば、擦り寄るように俺の胸に頭を預けて本心を口にする。その本心すらも俺が思っていた通りで、思わず口元を緩ませてしまう。
擦り寄ってきた彼女の背中を優しく撫でてあげる。暫くそれを続けていれば落ち着いてきたのか、漸く今日初めてまともに視線を絡ませてくれた。
…余裕がある風に見える、か。確かに、そういう風に過ごしてきた自覚はある。だけど、好きな子の前にいたらそれは別なんだけどな。

「羽鳥くん……?」
「そう言うけどさ。俺、なまえにはいつも心かき乱されたりしてるんだよ」
「え……?」
「今回のだって、最初はさすがに動揺してスマホ落としたからね」

言うつもりは無かったけど、なまえには知っていてもらいたいなと思った。
それはたぶん、彼女とはいつか結婚とかそういう関係に辿り着ければいいって気持ちが心のどこかであるからだと思う。

「嫌だとか、そういう意味で動揺した訳じゃ無いよ。もし本当ならそれはそれで嬉しいし」
「うん……」
「だけど、そういう事はちゃんとなまえと話し合ってからする事だからさ」
「っ、」
「大事にしてるから。……だからもう、その嘘は言わないで。それは、本当の時だけに言ってほしいな」

さらりと靡く彼女の髪にキスを落としてから、自分の想いを零す。
彼女なりに俺を動揺させる為に考えた嘘なのは分かってるし、滅多な事じゃ嘘を吐かないっていうのも理解はしている。でも、こうやってなまえとの先の事を色々考えたりしてしまう辺り、さっき吐かれた嘘は自分の中では大きい一言だったんだなと実感してしまう。
本心を零してから何も反応を示さない彼女の様子に首を傾げる。やっぱり、日頃の行いのせいか信じてもらえないのか、そうだとしたらいつも神楽が言うように自業自得としか言いようがない。
内心苦笑いをしてから彼女の様子を窺っていれば、頬を赤く染めている姿を視界に捉えた。

「なまえ?」
「あの……その……さっき吐いた嘘で羽鳥くんがそこまで動揺したり、考えてくれたっていうのが、嬉しくて……。こうやってちゃんと言葉にしてくれるとやっぱり嬉しいから……」

俺の言葉に恥ずかしそうに、それでもどこか嬉しそうになまえは顔を綻ばせる。そのまま珍しく、彼女は俺の背中に腕を回してきゅっと抱き付いてきて、俺はそれを優しく抱き留めた。
素直に口にしてくれた言葉の端々から嬉しさが伝わってくるのが分かるし、それが俺にとっても嬉しい事なんだけど…なまえ自身は無意識なんだろうな。
抱き付かれているまま、腰を引き寄せてもっと密着度を高める。互いの吐息が掛かりそうなくらいに顔を寄せて、触れるだけのキスを交わした。

「急に、どうしたの?」
「……んー、なまえの言ってた嘘、現実にするのも悪くないかなー、なんて思ってさ」
「えっ」
「もちろん、なまえが良ければ、だけどね」

囁くように近距離で言葉を紡いでから赤くなった頬を指で優しく撫でてみせれば、分かりやすいくらいになまえは動揺を見せてくれる。言ってる事は本心で嘘じゃないけど、今はその時じゃない。だけど、俺を動揺させたんだし、これくらいの嘘吐いた所でお互い様だよね。
本当は来るまでの間にお返しと称して何か嘘を吐こうと思っていたけど、なまえが可愛い事言うしするから考えてきた内容はすっかり忘れてしまったから。だからこれくらいの嘘で今年は許してほしいな。

俺の腕の中で唸り声を上げながら、少しだけ抵抗を見せる彼女につい口元を緩ませてしまう。でもまあ、結局は週末に会う時に愛し合う事は変わりないんだけどね。
さて、いつ「嘘だよ」ってネタばらししようかな。


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