心までハチミツ漬け 


*恋人設定。ヒロイン視点。


***


「今日も寒いね」

冬一番の寒気がおとずれているという予報を聞いて引っ張り出したのは小型のストーブだ。ストーブにあたり暖を取りながら、遊びに来ていた恋人の羽鳥くんに聞こえるように呟けば「そうだね」と短く返ってくる。

「来るとき、寒かった?」
「うーん、車で来たからそこまでじゃなかったかな」
「そっか」
「でも、外に出たら吐き出す息は白くなってたから、それくらいは寒いって事だね」

椅子に座り私が注いだホットコーヒーを飲みながら羽鳥くんは簡潔に答えてくれる。

いくらストーブを付けていても、暖かくなるのは一瞬だけだし、ストーブから離れてしまえば結局また寒さだけが身に残ってしまう。少し早いけど暖房とかつけた方が良いのかな。

ぼんやりと暖気を身に纏う事を考えていたら「なまえ」と、ふと羽鳥くんに名前を呼ばれる。羽鳥くんの方に視線を向ければ、じっとこちらを見つめていた。…なんだろう?

「どうしたの?」
「いや、寒いなって思ってさ」
「あ、じゃあ暖房つけようか?ストーブだけだとやっぱり寒いもんね……」
「ああ、そうじゃなくて……」
「?」

羽鳥くんの途中で途切れた言葉に何事かと首を傾げていれば、手を広げて「おいで」と羽鳥くんの腕の中に招かれる。不思議に思いながらも近付けば、腰を引かれて彼の腕の中にぽすんと収まる形になって、羽鳥くんに抱き締められている状態になってしまった。

「え、っと、羽鳥くん……?」
「なまえとこうしてくっついていれば暖かくなると思わない?」
「思わない……って言ってもどうせ離してくれないんだよね……」

そうは言ったものの、反論している言葉とは裏腹に恥ずかしさから頬にじわりと熱が集まるのが自分でも分かる。悟られないように羽鳥くんの肩口に顔を埋めれば、彼は優しく髪を梳きながら頭を撫でてくれる。

「ね、やっぱりくっついていれば暖かい」
「ただ羽鳥くんがくっつきたいだけじゃ……」
「へえ。じゃあなまえは俺とはくっつきたくないってこと?それはそれで寂しいなぁ」
「そ、そうは言ってない……」

思わず顔を上げ、視線を絡めて言葉を返せば嬉しそうに口元を緩めた羽鳥くんが視界に映る。上手い事誘導されて言ってしまったけど、間違ってる訳ではないからと自分に言い聞かせた。

「また寒くなったらこうやってくっつこうか。なまえの身体も、充分暖まるみたいだし、ね?」
「もう、好きにして……」

羞恥心ばかりが募って顔を俯せた私に、羽鳥くんはわざとらしく笑いながら言葉を紡いだ。そのまま「なまえ、顔真っ赤だね」なんて私の片頬に手を添えてから再度視線を合わせはっきりと言うもんだから「全部、羽鳥くんのせいだよ」と軽口を叩いて、合わせていた視線を外した。

たぶん、ストーブを付けてても暖房を付けてても、羽鳥くんは気にせずに今日みたいに「寒いね」と言って私を抱き締めてくれるんだろう。その行動が嫌とも思えないのは、やっぱり私自身が羽鳥くんに惹かれてるからなんだけど、それは恥ずかしいから絶対に言えない。言わなくてもばれてそうだし……。羽鳥くんと一緒にいるだけで、体温が上がっていくのは、彼には内緒だ。
そう一人心の中で思いながら、羽鳥くんの優しい温もりに抱かれるままだった。


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