そんな君だから 


*恋人設定。大谷視点。


***


「羽鳥くん、いらっしゃい。お仕事お疲れ様」

仕事を終えて向かう先は彼女であるなまえの家だ。笑顔で出迎えてくれる彼女に「お邪魔します」と言いながら綺麗に靴を揃えて、片付かれている彼女の家に上がる。
なぜ俺が彼女の家に来たのか。今回の事の発端は彼女からの一言だ。


「個人的に調べてる事なんだけど上手く調べられなくて…良ければ調べてもらいたいんだ」という彼女からの一言。それを聞けば、なんでも一つだけ言うことを聞いてくれると言われた。「本当になんでも?」と聞き返す俺になまえは頷いてから「私にできる事であれば、なんでも」と答えてくれた。
「約束ね」と言葉を交わしてから、俺は期日までに彼女からの頼み事を調べて資料に纏めた。


そして今日。帰りに彼女の家に寄り、今に至る。鞄の中から纏めた資料の一式を彼女に差し出せば、なまえは嬉しそうに俺の手元から資料を受け取る。

「ありがとう。これ、私の方じゃ上手く調べられなくて……助かったよ」
「喜んでもらえて良かった。なまえの役に立てたなら嬉しいな」
「あ。お礼はこの間言った通り、私にできる事であればなんでも良いからね?」

身長差的に上目遣いになるなまえは、俺の事を見上げながら笑みを浮かべる。そして彼女からの一言に内心は決めていたけども、顎に手を添えて考える仕草をしてみせた。元は彼女からの約束だし、「なんでも」と言われた時からお願いする内容は決めているから、なに言われても聞いてもらうつもりではいるんだけど。俺に視線を向けたままの彼女をじっと見返してから、身長に合わせて屈んでみせる。

「羽鳥くん?」
「お願い、聞いてくれるんだよね?」
「う、うん。私にできる事であれば……」
「じゃあ、なまえからキスしてほしいな」

彼女からの言葉を遮り耳元で聞こえるように囁いてから耳朶にキスを落とせば、小さい可愛らしい悲鳴を上げて、なまえの手元から先程俺が渡した資料がばさっと音を立てて落ちた。

「っ、え……っと、」

俺からのお願いに動揺しているのか、どう答えようか悩んでいる彼女のその頬は徐々に赤みを増している。その姿が可愛くてついからかいたくなってしまって、彼女との距離を縮めていく。

「ね、なまえ」
「ちょ、ま、待って、」

名前を呼んでから顎を持ち上げて、視線を合わせれば俺から逃げようと後退りする。後退りする際に、先程落としてしまった資料を踏んでしまったけどそれすらも今の彼女の頭の中には気にしている余裕が無いみたいだ。いとも簡単に壁際にトンと追い詰めれば、なまえは恥ずかしさからなのか顔を俯かせてしまう。
頬を赤くして俺と視線を合わないように顔を俯かせている姿は可愛くてそそられはするけども、彼女自身からキスをされた事が無い俺としては、またとないチャンスを無駄にしたくない。なまえを壁際に追い詰めてから優しく髪を梳いてあげれば、肩がぴくりと反応するのが見えた。

「俺からのお願い、聞いてくれないの?」
「そ、そういう訳じゃ……」
「なまえが「なんでも一つだけ」っていうから俺頑張ったのに」
「でもっ、」
「大丈夫だって。俺、目瞑っててあげるから」

顔を上げて何か言いたそうな彼女の額に軽くキスを落とし、目を瞑る。「ぜ、絶対に目開けないでね…?」と言いながら俺の服の裾を引っ張ってくるなまえに苦笑いを零しながらも、彼女に合わせるようにもう一度少しだけ屈む。目を開けたい衝動に駆られたけど、ここで開けたら絶対に機嫌を損なうだろうから、素直に閉じたままにしておこうかな。

ふわりと鼻を掠めたのは甘いシャンプーの香り。甘い香りでなまえが近づいてきたというのが直ぐ理解できた。じっと待っていれば、俺の肩に震える手がそっと置かれて触れるくらいの柔らかい口付けが交わされる。
唇が離れてからそっと目を開ければ、これ以上ないくらいに顔を赤くしているなまえと視線が絡み合う。自分からキスするなんて彼女からしたら到底無理な行為だから、素直にしてくれた事に思わず頬が緩んでしまう。

「も、もうやだっ。笑わないで……」
「自分から「なんでも一つだけ」って言ったのはなまえだよ?」
「そうだけどっ。私が考えていたのはこういうのじゃなくて……次の仕事の事とかだと思ってたのに……」
「仕事の事なんて大体自分でなんとでも出来るからね。なまえからの大事な「なんでも一つだけ」は仕事の事じゃ使えないかなぁ」

わざとらしく笑いながら言葉を返せば、唸りながら俺の胸に顔を埋めてくる。綺麗な黒髪の間から覗く耳は顔同様に赤くなっている。可愛いなあ、とつい思ってしまうのは彼女に惚れ込んでいるからなのかな。

「もう今度からは絶対にこんなお願いしない……」
「遠慮しなくていいのに。俺はいつだって、なまえからのキスなら大歓迎だよ?」
「だからなんでそういう恥ずかしいことをさらっと言えるの……」

埋めていた顔を上げて俺の事を睨み付けてくるなまえに、今度は俺から優しく触れるだけのキスを送る。いきなりの行動に驚いている彼女を見据えて唇を優しくなぞり、「そうだなあ」と言葉を続けた。

「それはもちろん、なまえの事が好きだから、だよ」
「っ、」
「そうじゃなきゃ、こんな事言えないしね。……ねえ、なまえは俺の事、好き?」

答えなんて言われなくたって分かってる。ここにいさせてくれている事が既に答えになっているし。だけど、首を傾げながら問い掛けてみれば零されたのは小さな溜め息と「答えなんて分かってるくせに……」という小さい小さい一言。分かっているけど、なまえ本人の口から聞きたいからね。そのまま、考える素振りを見せずになまえは震える唇で続きの言葉を紡ぐ。

「……好きじゃなかったら、ここに呼んだり、こんな風に傍にいたり、一緒にいたいなんて思えないよ……」
「そうだね。……まあ、なまえがそういう答えを出すって事も分かってたけど」
「っ、なら別に聞かなくたって、」
「そういうちょっと不器用そうに伝えてくれる所も全部ひっくるめて、なまえだから好きなんだよ」

愛しそうに見つめてから彼女の事をぎゅっと自分の腕の中に閉じ込めれば、素直に大人しくしてくれる。恐る恐る背中に回された腕は少しだけ震えていたけども、そんな所も不器用な彼女らしくて、そんな彼女が改めて愛おしいと感じた。



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