【桧山視点】 


*恋人設定。桧山視点。
*【愛はあまいと知っている】続き。


***


なまえの腰を引き寄せ、鼓膜に直接届くように耳元で愛の言葉を囁く。そのまま指で触れていた唇をなぞるように、彼女の形の良い綺麗な唇へと口付けを送る。口付けを交わしている時、不意に繋いでいた手に彼女からぎゅっとほんの一瞬、力を込められる。それはまるで離れたくない、と彼女が伝えているようにも思えて、そんな行動が愛おしく感じた。

「可愛いな」

唇を離してから、耳までほんのりと赤くなってしまっている彼女にそっと言葉を落とし、もう一度唇を重ねる。今度は触れるだけじゃなく、深く、彼女を堪能するような口付けだ。そっと差し込むように舌を彼女の口内へと進入させて優しく舌を絡め取ってみせる。

「んん、…ふぁっ、」

僅かに開いた隙間からなまえのくぐもった甘い控えめな声が零れ落ちる。甘やかな彼女の声は、俺の聴覚をじわりと刺激していく。
手に込められてた力がゆっくりと抜けていくのを感じ限界が近い事を悟る。甘い吐息と共に離した口付けは、ほんのりと甘いチョコレートの香りに包まれていた。

「甘い、良い香りだな」
「た、貴臣くんが…トリュフ食べた、から…」

俺の言葉に、なまえは恥ずかしそうに俺から視線を逸らしながら口にする。そのまま肩で息を整える彼女の背中を優しく擦ってやりながら、目尻に少しだけ涙を溜めている双眸を見つめた。
頬を紅潮させ、恥ずかしそうに潤んだ瞳が戸惑いながらもこちらに上目遣いで視線を送ってくる姿は、予想以上に刺激的で心臓が高鳴るのが自分でも分かる。

「(…もう少しだけ、などと言ったら困らせてしまうか)」

それでも、なまえの事を求めているのは事実でもある。これ以上の事はさすがに彼女の身体に響かせてしまうのでしたくはないが、会う日が増す度に離れ難くなってしまっているのが自分でも分かる。
…それほどに付き合い始めてから彼女に溺れているという事なんだろう。そして今も、この甘やかなひと時はまだ終わらせたくないというのが本音だ。

「(まだなまえもチョコも求めるなど、…贅沢過ぎるか)」

苦笑いを零し自分の心の中でそっと呟いてから、先程彼女から貰った箱から形の綺麗なトリュフを1つ摘み、それを半分より小さく齧り取り残りは箱に戻す。食べ物を粗末にするような形を取る事になってしまうが、この欲を抑える為にはこれしか今は方法が思い付かない。
齧り取ったトリュフを口に含んだまま、浅い呼吸を繰り返しているなまえへともう一度口付けを送ろうとゆっくりと顔を寄せた。

「た、貴臣くんっ。ちょ、まっ…!」
「すまないが、それは聞けない」
「っ」

慌てて両手で俺の胸を押して制止の声を上げるなまえの手をゆっくりと横に退かしてから、彼女の顎を優しく捉え、もう一度流れるように唇を重ねた。

「んぅっ、」

なまえの後頭部へと優しく手を回し、頭を打たないようにゆっくりと座っていたソファにそっと彼女の身体を押し倒す。そのまま再度酸素を求めて開いた隙間から口内へと舌を進入させた。溶け掛けのトリュフも同時に馴染ませるように絡ませれば、舌と舌で更に溶け始めているトリュフの甘い味が口内に広がる。

「ん、んん、…はぁっ、」

舌を絡ませる度にそれに反応するように小さい身体がぴくりと跳ね、口付けの合間から先程のようなくぐもった甘い彼女の声と、舌を絡ませ合っている音が部屋中に響いている。そっと彼女を盗み見ればとろりと蕩けたような瞳をきゅっと瞑り、俺との口付けに必死に応えるように自分から舌を絡めてくれていて、行き場を失った彼女の手は縋り付くように俺のジャケットをぎゅっと握り締めていた。

「(…無意識だろうが、その行動も今の俺にとっては煽ってるようにしか見えないんだが)」

理性を試されているのだろうか。なまえ本人はそんな気は全く無いのだろうけど、彼女のこういった時の反応はいつもそう捉えてしまいそうになる。
時間にして数秒。彼女との甘い口付けを終えてゆっくり唇を離そうとすれば、混ざり合って彼女が飲み込みきれなかった唾液が口角から僅かに零れ落ちた。それを親指の腹で優しく拭い取りながら、互いに熱の篭った吐息を吐き出し呼吸を繰り返す。

「ん、はぁ…は、」
「はぁ、…大丈夫か?」

紅潮している頬を優しく撫でて目の前の彼女に問い掛ける。俺の問いに、辛うじてなまえは小さく首を縦に振ってくれた。上手く酸素を取り込めなかったからなのか、小さく呼吸を繰り返す彼女の目尻には、涙が浮かんでいて今にも零れ落ちそうになっている。
なまえは握り締めたままだった俺のジャケットから手を離し、紅潮している頬を覆い隠すように自分の腕で隠してしまった。その際に、零れ落ちそうになっていた涙が彼女の頬を伝ってソファに零れ落ちるのが見えて、少しやりすぎてしまったか、と後悔の気持ちが押し寄せて小さく溜め息を吐き出した。

「…はぁ。あ、の貴臣、くん…」

呼吸を整えながら小さく呼ばれる名前に反応して、そちらの方に視線を向ける。腕で顔を隠していたなまえはその腕を少しだけずらしていて、先程のようなとろんと蕩けたような潤んだ瞳でこちらを見上げていた。少しだけ熱を孕んでいる綺麗な黒の瞳と視線が交わり、それだけで鼓動が早くなるのを感じる。

「どうした?」
「…あの…、もっとしてほしい、って言ったら…怒る、かな」

視線を俺と交えたまま逸らすことなく紡ぐなまえからの予想外な一言に、一瞬動揺してしまう。当の本人は徐々に恥ずかしさが募ってきたのか、視線を逸らし恥ずかしそうに口を噤んでしまった。やりすぎたと思っていた所で、まさかこんな予想外な言葉を貰えるとは思っておらず、つい口元が緩んでしまうのと同時に彼女の表情を良く見えるように隠し続けている腕を優しく退けた。

「あっ、」
「怒る理由など見つからないな。…むしろ、まだこの時間を一緒に過ごしたいと俺は思っていたから、同じ気持ちのようで嬉しい」
「貴臣く、…んっ」
「…トリュフのせいもあるのかもしれないが、お前はどこもかしこも甘く感じるな」

それはきっと彼女と共にトリュフを味わった後だからなのだろう。なまえの髪をさらりと撫でて、髪に、頬に、目元に、首筋に、至る所に唇を優しく置いていく。
そしてまた、なまえから貰ったトリュフの箱に手を伸ばし、先程齧り取った小さいものを手にし、口に含み彼女へと口付けを送った。どういった形であれ、何度でも彼女がこうして俺との時間を求めてくれるのであればこれ以上に嬉しい事はない。再び蕩け始めた表情を浮かべるなまえを愛おしそうに見つめ再び絡み合って溶けゆくトリュフの甘さを感じながら、彼女との甘やかなひと時を過ごした。


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