しあわせすぎてくだらない 


*恋人設定。新堂視点。誕生日。
*学生時代の同級生・病院勤務の内科医。九条家を出入りしてるのでメンバーとは顔見知りではあるが、内情はそこまで知らない。


***


誕生日と言っても特別だと感じた事はない。その日に生まれ、一年に一度、年を重ねるというだけの日だ。
そんな大したことの無い一日にも関わらず、九条家の連中は誕生日パーティを仕込んでいるかのように準備していて、大の大人が揃いも揃ってくだらない物をプレゼントしてきて、思わず苦笑が漏れてしまった。

「(まあ、たまにはこんな日も悪くないか)」

心の中でひっそりとらしくない事を零しながら、診療所内の片隅に置かれたプレゼントに視線を送ってからもう一度小さく笑っていれば、扉を控え目に叩く音が室内に響く。軽く返事をすればガチャリと扉が開かれ、そこには交際相手のみょうじがひょっこりと顔を覗かせていた。

「君か。どうした」
「どうした、って…。今日、新堂誕生日でしょ。だから会いに来たんだけど」
「…大きい病院に勤務していて、激務が多い君がわざわざ俺の為に休みを取って会いに来てくれた、と」
「そうだけど。なに、ダメだった?」

唇を尖らせて不満そうな瞳をこちらに向けてくる彼女は、後ろ手に扉をパタリと閉める。そのまま俺の目の前まで来ると返答を待っているかのように小首を傾げた。

「いや、今日は特に予定は無いな。余程の急患が来ない限り、だが」
「そんな簡単に急患来るものでも無いでしょ。新堂の治療費、とんでもないんだから。…じゃあ、一緒に過ごしても良い、って意味で解釈するけど」
「好きにすればいい」
「言われなくても」

俺の返答に嬉しそうに口元を綻ばせて、みょうじは満面の笑みを浮かべる。そのまま俺を見つめてから何かを思い出したように、肩に掛けていたトートバッグを漁り始める。

「何をしている?」
「んー、新堂に渡そうと思っていた物があって…。あ、あった。はい、どうぞ」
「!!こ、これは…!」

どうぞ、と言って手渡されたものは、青色のラッピング袋だ。不思議に思いながらも中を確認し取り出してみれば、そこには愛らしい鳥の小さいぬいぐるみが入っていた。白くてもふもふとした生地は、手にフィットして触り心地が良い。

「シマエナガって鳥がモチーフのぬいぐるみだって。凄い可愛いし、生地もふわふわで触り心地良いよね。見かけて即座にこれにしよう!って思ったんだ。可愛いから新堂喜ぶかなって思って」
「君は俺を何だと思ってるんだ」
「んー、可愛いもの好きを隠しているお医者さん?」
「…なんだそれは。まあ、良い。貰っておこう。折角のプレゼントを無下にするのも悪いからな」
「そう言いながらも自分の机に飾ってるし。本当、素直じゃないんだから」

診療所内の机の端にそっと飾ってやれば、みょうじは先程みたく嬉しそうに口元を綻ばせる。自分が渡した物が直ぐに飾られれば、そんなに嬉しいものだろうか。

「どうした、そんなニヤニヤして」
「ちょっと!もう少し言い方があるでしょ!」
「間違ってないだろう」
「もう…。気に入ってくれたんなら嬉しいなって。単純にそれだけ。新堂、たまに分りづらいからさ。でもこういう風に受け取って直ぐに自分の傍に置いてくれるって事は、そういう解釈で受け取って良いんでしょ?」

みょうじは俺の事を見上げ首を軽く傾げながら尋ねてくる。身長差のせいで、自然と上目遣いになっているのは無意識なのか、狙ってやっているのか。恐らくは前者だろう。
無意識に女性らしさを醸し出してくるみょうじに少しだけ心臓がドキリと高鳴ったが、絶対に口には出さない。その無防備な行動に小さく息を吐き出し、彼女と視線を交差させる。

「そう解釈したいなら、そう受け取れば良い。…と言った所で君は納得しなさそうだな」
「納得しないというか…うーん…悲しい、かな」
「悲しい?」
「…折角、選んでプレゼントしたのに気に入ってくれないのは悲しいじゃない?…年に一度の、恋人の誕生日、だし。…あまり普段はちゃんと言わないけど、なんだかんだ新堂の事ちゃんと好きなんだよ」

続けて紡がれた言葉は、俺の思考を停止させるのには充分だった。今のは確実に不意打ちだろう。紡がれた言葉と共に頬をほんのり赤く染めて、後ろを向いた彼女に愛しさが募っていく。
みょうじが俺の事を好きだと思ってくれているのと同じで、俺だってちゃんと君の事が好きではある、君と同じで普段言葉にしないだけで。そんなみょうじからのプレゼントを喜ばない訳がないだろう。だから、受け取って直ぐに机に飾ったんだ。

後ろを向いている彼女を抱き締めれば、驚いた彼女が「新堂?」と首だけ振り向いて俺の方を見つめる。その振り向いた一瞬を見逃さず、整った彼女の唇を自分のもので塞いでみせる。
抱き締めていた腕を離してから身体ごとこちらの方を向かせてみせれば、一瞬の出来事にほんのりと赤く染まっていた頬が徐々に赤みを増していく。

「ちょっ」
「今の一瞬に、君への想いを込めたんだが」
「は?い、一瞬とか言われても」
「なんだ、気付かなかったのか?もう一度、というのであれば次は5万円取るぞ」
「高すぎでしょっ!」

赤らめた頬のまま、可笑しそうにみょうじは笑う。そのまま背伸びをして今度は彼女の方から一瞬、唇を重ねられる。先程は気付かなかったが、直ぐに離れた唇からは、リップクリームなのか苺の香りがふわりと鼻腔を掠めた。

「私も。今の一瞬で、新堂への想い込めたけど気付いてくれた?」
「一瞬でなんて気付く訳がないだろう、バカか君は」
「新堂が先に言い出した事でしょ」

軽い言い争いになるのも、みょうじと一緒ならば日常茶飯事でやけに心地良い。彼女の腰を引き寄せてから俺の膝に座らせれば、少しだけ身じろいだが今日くらいは別に構わないだろう。

「ちょっと、この体勢恥ずかしいんだけど…!」
「そうか、仕方ないな。だが、まだみょうじに言われてない言葉がある。残念だが、それを言われるまでは離すつもりはない」
「言われてない言葉?…ああ」

直ぐに俺の言いたい事が分かったのか、納得した、とでもいったように確認するように小さく頷く。そのまま息を吐いてから「新堂」と優しい声色で名前を呼ばれた。

「誕生日おめでとう、なんだかんだ傍に居させてくれてありがとう。…飽きるまでは傍に居させてね」
「…ああ。ありがとう」

誕生日なんて、昔だったらどうでもいいものだと思っていた。九条家の連中に言われた時とは違う、恋人に言われる「おめでとう」はこんなにも特別に感じる事が出来るのか。ただそれは、みょうじが俺にとって特別な女、だからだろう。

一人で納得して口元を緩めていれば「素直にお礼を言う新堂って、中々レアだよね」なんて笑うみょうじの口を、もう一度塞いでやった。
…今日は急患が無い限り、彼女と一緒に過ごすのだから、これくらいで満足してもらっては困る。こんな風に二人きりで過ごす誕生日も、悪くは無いな。



 

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