1万hit企画 | ナノ



<リク内容>
*槙と恋人設定・Revelとの日常的なストーリー

*槙の恋人設定。
*槙視点。


***


「久し振りに全員集まれたんだし、ビリヤードでもやらない?」

仕事が落ち着いて久し振りに全員でいつものバーに集まったある日の夜。酒を飲みながら近況報告をした後、全員の事を見回してから口にした羽鳥からの一言で俺達はビリヤードをする事になった。



「うーーん…」

ビリヤード台でキューを構えて手球を撞くタイミングを悩んでいるなまえの反対側には、対戦相手である羽鳥が楽しそうに笑みを浮かべながら彼女の様子を窺っている。そして、俺と亜貴、桧山くんはグラスに入っているカクテルを飲みながらそんな二人の対戦をビリヤード台の周りから見ていた。

「なまえ。ここで決めないと次、絶対羽鳥に決められるよ」
「うっ…やっぱりそうだよね…」
「ここのなまえの番で、勝敗が決まりそうだな」
「ああ。撞いた手球によってはなまえの勝ち。逆になまえが勝ちを逃せば、羽鳥は次絶対決めてくるだろうからな」

二人の対戦を眺めながら口を挟んでいれば、聞こえてきた会話になまえは苦い顔をして深く溜め息を零した。元々、なまえ自身があまりビリヤードをやらないせいか慣れていない状況でのこの対戦だ。ハンデありで始まったとはいえ、あみだで決めた予想外な組み合わせに、どんな対戦になるかつい興味が湧いてしまって口を挟んでしまう。

「みんながそんな騒がしくしてたら、やりづらいと思うけど。ね、なまえ」
「ううん。大丈夫、だよ…!」

羽鳥の言葉に漸く撞くタイミングを決めたのか、コツンと撞いた手球は小さい音を立てて9の的球に当たる。だけど撞く力が思っていたより弱かったのか、ころんと少しの位置を動いただけで止まってしまった。その位置は丁度、最後に入れるコーナーポケットの目の前だ。

「あっ…!」
「惜しい。もうちょっと強く撞いてれば入ってたかもね」

焦りのような短い声がなまえから上がったのと、羽鳥の勝利を確信したような声が重なったのはほぼ同時だった。羽鳥は、ビリヤード台の様子を確認してから、残り一つの9の的球を目の前のコーナーポケットへと落とす為、キューをしっかりと構える。そのまま手球を狙い弱い力で撞けば、手球は9の的球に真っ直ぐ当たり、音を立ててコーナーポケットへと吸い込まれて落ちていった。

「俺の勝ち」

羽鳥はビリヤードのキューを手に持って、口元の笑みを絶やさないままなまえへと視線を送る。当の本人はその視線を受ける前から悔しさを滲ませた表情を浮かべていた。

「あと少しだったのに…!悔しい…」
「お疲れ。でも、良い線はいってたと思う」
「まあ、あんまり慣れてないのにここまで出来たんだから、良い方なんじゃない?」

ゲームを終えた彼女の近くに行き、宥めるように肩をぽんと叩いてからそんな言葉を掛けてやれば、亜貴もフォローするように言葉を続ける。なまえ自身はいまだに悔しそうにしながらも「…やっぱり、難しいね」と小さく呟くように言葉を零した。

「私が下手だから仕方無いっていうのは分かってるんだけど…。うーん、撞くの苦手そうな所に的球が止まったりしちゃうから…だから、やりづらいのもあって」
「だが、今回は良い勝負だったと思うぞ。あともう少しで勝てそうだったが、惜しかったな」
「桧山くんが言ってるの、最後の所だよね。確かに撞く力、ちょっと弱かった気がする」
「それは私も撞いた後に思ったよ。でも、距離を考えたら強くやりすぎてもちゃんと入るか微妙だったし…それに外したら羽鳥くんに勝ちを持っていかれちゃうって思って動揺しちゃった」

二人の言葉に先程のゲームを思い出しているのか、なまえがビリヤード台の側で動きながら自身も感じていた事を素直に吐き出しているその様子に、なんとなく安堵の息を吐き出した。前はビリヤードが苦手とか言ってたけど、ちゃんとこうしてルールを覚えてゲーム出来るくらいにはなっているし、なんだかんだ楽しそうにしている彼女を見てつい口元が緩んでしまう。

そんな彼女達から一旦離れて、俺は酔い醒ましの為の水を貰いにバーカウンターへと足を進めれば、羽鳥が新しいカクテルが入ったグラスをバーテンダーから受け取った所だった。

「ああ、槙」
「お疲れ。…あっちでなまえが悔しがってた」
「うん、そうみたいだね。まあ、俺が勝っちゃったから」

髪を揺らし笑いながらバーテンダーから受け取ったグラスを傾けて、羽鳥はカクテルを口に含んでこくりと喉に通していく。その合間に俺は水を頼んで、手渡されるのを待った。

「なまえ、前はビリヤード苦手って言ってたよね。だけど、こうやって久し振りにやったらゲーム出来るくらいまでになってて、びっくりしちゃった」

楽しそうな声色で話す羽鳥は、口元を緩ませたままなまえ達がいる方向を見つめる。「そうだな」と小さく同意の言葉を零した所でバーカウンターに水が入ったグラスがそっと置かれて、バーテンダーに礼を伝えながら俺はそれを受け取った。

「それは俺も思った。だけど、本人的には難しいって言ってるけどな。…まあ、上手くコツが掴めてないんだと思うけど」
「そこは、槙が見てアドバイスあげれば良いんじゃない?彼氏なんだし、教えるの上手いし」
「…俺より羽鳥の方がビリヤード上手いだろ。アドバイスとかもしてやれると思うけど」

俺の方を向いて視線を合わせたと思えば、突拍子も無く羽鳥から告げられたその単語に思わず動揺してしまい、受け取ったグラスを持つ手に力を込めてしまう。
Revelのメンバーにはなまえと付き合ってる事を伝えてあるとはいえ、さらりと口に出されたそれにはいまだに慣れなくて少しだけ動揺をしてしまい、そっと視線を彷徨わせてから不自然にならないように会話を続ける。そんな俺を見て、口元に笑みを浮かべたまま羽鳥はカウンターに頬杖をついて言葉を続けた。

「俺が教えるでも別に構わないけど、良いの?密着する形で教える事になったりしちゃうかも」
「っ、いや、それは流石にダメだ」

面白そうに話してくる羽鳥からの続きの言葉に、焦りでつい声を荒げてしまった。そんな俺の反応は予想の範囲内だったのか、こちらに視線を送ったままの羽鳥は楽しそうに声を上げ笑ってから「冗談だよ」と口にしたけど、割と本気に聞こえたのは気のせいか。

「……お前な」
「まあ、そこまで言うなら、やっぱり槙が教えてあげないと。ね」

くつくつと笑ってから、グラスに入ってるカクテルを飲んで羽鳥はビリヤード台の方へと戻っていく。思わず反応してしまったけど、今のは確実に俺の反応を見越して言った言葉で、またからかわれたのか、と考えると深い溜め息が出てしまう。そして羽鳥の後を追うように、俺もみんながいるビリヤード台の方へと戻っていった。



ビリヤード台へと戻ったら、再度なまえと羽鳥がゲームをする、という流れになっていた。なまえの方から言い出した事らしいけど、やっぱりさっきギリギリで負けたのが余程悔しかったらしい。まあ、あそこのタイミングで勝ちを持っていかれたら、誰だってそうなるとは思うけど。

「はい。次、なまえの番だよ」

再度ゲームを始めて早数十分。キューで手球を撞いた音が響き渡るも、それは上手く9の的球に当たる事は無かった。羽鳥は自分の番を終えて、ビリヤード台の的球からなまえへと視線を移す。
今、残す的球は9のみ。ここでなまえが外すとまた羽鳥に勝ちを取られそうな、そんな場面で彼女は少しだけ顔を顰めて悩んでいた。さっきと同じ局面だからなのか、余計に緊張しているのが目に見えて分かる。

「(……悩んでるな)」

緊張も相まっているせいか、どう撞こうか悩んでいるような、更には焦っているようなそんな表情を浮かべている。ここで焦ったらまた同じミスを繰り返すだろうと感じた俺は、ゆっくりと小さくなまえに聞こえる程度の声量で言葉を紡いだ。

「焦らないで良い。ゆっくり、自分で考えたままに撞けば大丈夫だから」

零した俺の短い言葉に、なまえは一瞬俺に視線を向けてから小さく頷き、落ち着かせるように短く息を吐き出す。そして、タイミングを見計らってから強めにキューで手球を撞いた。すると、手球は少し離れた場所にあった9の的球に当たって転がっていき、綺麗にコーナーポケットへとカコンと音を立てながら落ちていく。

「勝負はなまえの勝ち、だな」

勝敗を示す桧山くんの声が響く。その声に羽鳥は負けていながらも笑っていて、なまえは俺の傍まで来てから「ありがとう、慶くん」と俺の手を包み込みながら、礼を告げてくれた。

「俺は特になにもしてないだろ。なまえが頑張ったからだ」
「でも、慶くんがあの一言を言ってくれたから…」
「俺的には逆にプレッシャーになってないか心配だったけど…そうじゃないなら良かった」
「うん。緊張してどうしようか悩んでたから、言って貰えて良かった。…ありがとう」

笑顔で言葉を紡いでから、包み込まれた手に僅かに力が込められる。俺からもその手を優しく握り返し、労いの意味を込めて片方の手で頭をぽんぽんと撫でてやった。

「今回は負けちゃったな」
「槙の言葉があったとはいえ、さっきと同様の場面から勝てたからな、相当嬉しいんだろう。このゲームも、中々に良いものだったな」
「…で、慶ちゃん達、いつまで続けてるのそれ」

三人の会話を聞きながらも、最後の亜貴の一言が指す「それ」という言葉に首を傾げる。桧山くんと羽鳥は微笑ましい表情でこちらを見ていて、呆れたような表情を浮かべている亜貴の視線が俺となまえに送られる。その行動に、互いに手を握り締めた状態のままの事を言われているんだと漸く気付いたのと同時に、羽鳥がすかさず楽しそうに言葉を続けた。

「槙となまえってさ、俺達の前では結構そうやって甘い雰囲気になってる事、多いよね」
「え?!ち、ちがっ…」
「はあ、二人共無自覚すぎ。…ま、もう見慣れてきたから別に良いんだけど」
「…悪い、別にそういうつもりじゃなかった」
「二人の仲は、分かっている事だから構わない。むしろ、順調そうでなによりだ」

三人から告げられる一言一言に、さっき羽鳥に言われた時みたいな気恥ずかしさを覚えてしまい、頬に熱が徐々に集まってくるのを感じる。それは彼女も一緒なのか、照れくさそうにしながらも口元を柔らかく綻ばせている。

「(……たぶん、考えてる事同じかもな)」

気恥ずかしさはあるけども、それが嫌だと思ったり悪い気は全然しない。恐らくそれは、俺達二人の関係を分かってくれている、この三人が醸し出す雰囲気の居心地が良いと思えるからだ。

「あ、あの…私、もう少し練習とかして頑張ってみるね…!せめて、みんなと対等にゲーム出来るくらいまでには…」
「徐々に慣れていけば良いんだよ。ま、対戦相手ならいつでもするから言ってね」
「後はコツとかアドバイス貰いながらやるのが良いんじゃない?」
「そこは遠慮なく聞けば良い。なまえのこれからの成長が楽しみだな」

談笑している仲間達のやり取りを見ながら、その光景につい口元を緩めてしまう。
彼女と付き合うまでに色々あったけど、それでもこうして変わらない日常を共に過ごしてくれる彼等に、改めて感謝すべきだなと彼女の手を握ったまま、そう思うのだった。







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