恥ずかしがる君が可愛くて


*恋人設定。大谷視点。


***


「あ、の、羽鳥くん…」
「んー?」

少しだけ上擦った声で俺の名前を呼ぶなまえに、小さく反応を返す。本人は緊張をしているのか俺の腕の中で身体を固くしてしまっていて、髪から覗く耳はほんのりと赤く染まっている。

「い、いきなり…どうしたの…?」

顔をこちらへと向けた彼女の頬は耳と同じくほんのりと赤く染まっている。動揺しながらも必死に言葉を探し出して、なまえはその疑問の一言をゆっくりと俺に向かって紡ぐ。
まあ、ソファに座ってる所で特に前触れも無くいきなり後ろから抱き締められたら誰だってびっくりする、か。そんな事を思いながら苦笑いを浮かべつつ、腕の中にいる彼女を抱き締める腕に力を込めた。

「なまえに触れたいって思ったから、かな」

わざと耳元で囁くように言葉を落とせば、なまえは掛かる吐息の擽ったさに肩をぴくりと跳ねさせる。付き合い始めて初めて家に来てくれたんだし、触れたいって気持ちと好きな子を抱き締めたいって思うのは当然の感情だと思うんだけどね。…だけど、理由はそれだけじゃない。

「(うーん。…そろそろ、慣れて欲しいっていうのもあるんだよね)」

慣れて欲しいっていうのは、恋人である俺の行動に対してという意味で、だ。俺と付き合い始めて二ヶ月くらい。今まで恋愛経験が浅かった事がそうなってしまっているんだと思うけど、恋人らしい事をするとなまえは直ぐに照れて恥ずかしそうにしてしまう。付き合った時点でこうなる事はなんとなく予測はしてたし、明らかに恋愛経験の差というのが出てくるとは思っていたけど、元々の恥ずかしがり屋なのもあってなのか、頬を赤く染めて顔を俯かせてしまう事が大半だ。
手を繋いだり腕を組んだりする事には漸く慣れてくれたみたいだけど、抱き締めたりするのはいまだに慣れないのか緊張するみたいで、今みたいに行動に起こしてみても目の前の彼女は、俺の腕の中で緊張して固まってしまう。

「(…ま、俺としては初々しい反応が新鮮で見てて飽きないし、可愛いなって思うんだけどね)」

俺の顔が見えないほうが緊張しないでくれるかなとは思ったけど、どうやらそれは逆効果みたいで落ち着かないのかそわそわとしているのが目に見えて分かる。

「なまえ、緊張してる?」
「い、言わなくても分かるよね…」
「まあ、見てればね。だけど、俺的にはなまえにもそろそろ慣れて欲しいなって思って」

抱き締める腕に力を込めたまま、自分の思っていた事を伝える。こちらの方を振り向いたままだったなまえは、その一言に不思議そうに首を傾げている。

「慣れる、って…」
「そのままの意味。こうして恥ずかしそうにしてる姿も可愛いなって思うんだけどさ。そろそろ、こういう抱き締めたりすることにも慣れて欲しいかな、って」

抱き締めている今の体勢を示すかのように目線を抱き締めている腕へ一旦持っていき、もう一度彼女の方へと視線を向ける。はっきりと言葉にしてなまえと視線を交差させれば、頬を赤く染めたまま、顔を見られたくないのか逃げるようにまた正面を向いてしまった。

「な、慣れたいと思っても…羽鳥くんがこうやって後ろから抱き締めたりするから余計に緊張しちゃって…」

「ごめんね」と正面を向いたまま小さく謝罪を零されて、それについ眉を顰めてしまう。謝って欲しい訳じゃ無いんだけど、と思うのと同時に、彼女から小さく零された一言にふと思い付く。俺から抱き締めるのがダメなら、その逆なら良いって事だよね。

「じゃあ、俺から抱き締めるのがダメなら…なまえから俺に抱き付いてくれるなら良いって事だよね」

我ながら、意地悪な一言ではあるとは思う。ただ、さっきの一言を俺的に解釈すればつまりこういう事になるわけで。俺からの一言を聞いたなまえは、またこっちの方に顔を向けたと思ったら必死に首を横に振っている。

「そ、そうは言ってないよ…!」
「そう?でも、案外そっちの方が緊張しなかったりするんじゃないかな。…ね?」

抱き締めていた腕を一旦解いて彼女の事を解放してから、そのまま今度は俺と向かい合うような形を取って座らせる。その間も、彼女の頬は赤く染まったままで視線を彷徨わせている。

「ほら、おいで?」

視線を彷徨わせて、緊張で固くなってしまっているなまえを落ち着かせるように優しく頭を撫でてから、腕を広げて彼女を受け入れる体勢を作る。なまえは彷徨わせていた視線を俯かせてから小さく息を吐き出して、ゆっくりと俺に抱き付いてくれる。たどたどしいながらも小さい腕は俺の背中に回してくれて緩く俺のワイシャツをぎゅっと握り締めてきて、そんななまえの事を俺からも優しく抱き締める。視線を腕の中にいるなまえに向ければ、俯かせていた顔は上げていて俺の事を見上げていたのか視線が交差して、上目遣いの眼差しに少しだけ心臓が高鳴った。

「なまえ、さっきよりも頬も耳も真っ赤だよ」
「は、羽鳥くんだって…凄い心臓がドキドキしてる。…緊張、してる?」

図星を突かれ少しだけ悩んでから「そうかもしれないね」と小さく言い濁す。彼女の色っぽい上目遣いに、というのは勿論伏せておいた。言ったら言ったで「そんなこと無い」って言われそうだからね。俺からの言葉に「羽鳥くんでも緊張、するんだね」と少しだけ首を横に傾げながら不思議そうに言葉を零す彼女に笑ってしまう。

「自分からお願いは確かにしたけど。…好きな子に抱き着かれて、嬉しくない男なんていないからね」

抱き締める腕に力を込めてから、耳元で囁いて小さくリップ音を響かせながらキスを落とす。油断していたなまえからは小さく甘い声が漏れて、恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋めてしまった。

「(この調子だと、慣れるまではやっぱりまだ先かな。…ま、それはそれでなまえらしいから良いんだけど。元よりなまえとはそんな早く次の段階に進めるとは思って無かったし)」

基本的に彼女のペースに合わせながら、時折こうやって俺のペースに巻き込んでいければいいかな、なんて思えるのはなまえ相手だからで。恥ずかしがり屋の彼女にたまにはこうやってペースを乱されるのも悪くないかな。

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