パトロール2
とりあえず最初はいつもの校舎から。普段は校舎の方に不良らしい不良はいないんだけど、それでも何かあったりしてはいけないので確認のために。
放課後になって、教室や廊下で数人の生徒が遊びに行く約束をしたり、談笑したりしている。不良という成分がなければ平和そのもののような学校だと思う。
「あ、そうだ。夏男」
ふいに立ち止まった早坂くんが私に振り返った。ポケットの中を探り、携帯電話を取り出した。
「メアド教えてくれないか?」
「え」
「夏男っていつも急に現れるからさ、今日みたいにパトロールとかするときには俺にも連絡してくれないかなって思ったんだけど…ダメか?」
「だ、駄目じゃねぇよ!!ウェルカムだよ!!!!」
叫んでから気づいたけど、私の携帯電話はすでに早坂くんの携帯に登録されている。私の携帯は夏男の携帯であり、夏男の携帯は私の携帯だ。流石に1人で二台持つような余裕はない。
「夏男?どした?」
「…う、いやぁ、ウェルカムなんだけど、ちょっとマズい。無理だ。」
「なんで?」
「あの、えーと携帯持ってない。うん、そうだ、今日は持ってなかった!」
本当は私の携帯はちゃんと上着の内ポケットに入れてあるのだけれど。
早坂くんは残念そうな顔で、そっかー、と呟いて携帯を自分のポケットにしまった。
よく考えたら私は早坂くんのことを騙しているんだ。夏男という存在は早坂くんにとって、この学校で出来た初めての男友達だとおもう。そんな大切な存在が架空だったなんて知ってしまったら早坂くんは私のことを嫌いになってしまうんじゃないか。
あぁ、ごめん。早坂くん。
夏男のアドレスを教えることができなくて、夏男が実在しなくてごめんね。
私がちょっぴり罪悪感に苛まれていたら、胸ポケットの携帯電話がピリリリリと電子音を上げた。
「………」
「……夏男、電話…鳴ってるんじゃないか?」
「…………い、いや俺じゃない、と思うんだけどなぁ〜」
周りを見渡すふりをしながら、早坂くんから見えない角度で携帯電話のサブディスプレイを確認すると、鷹臣くんからの着信だった。
「はい、もしもし!!」
『真冬。パトロールは切り上げて、早坂と一緒に俺のとこに来い。部活するぞ』
「了解です!」
一方的に用件だけを告げて切られた携帯を見つめて、私は硬直した。何故なら早坂くんがじっと私を見ていたからだ。わかるよ、言いたいことはわかる。それをどう切り抜けるか考えさせてくれ。
「持ってるじゃねぇか」
「うん、や、これは、ですね」
「…てか、それ黒崎のじゃないか?」
その通りです!
「………!、そうこれ、黒崎のなんだよ!」
「うぉ、いきなり大声出すなよ」
「黒崎の携帯をな、廊下で拾って、渡してやろうと思って俺が持ってたわけよ」
我ながら素晴らしい言い訳を考えついたと思う。早坂くんも眉間にシワを寄せているが、なるほどなぁと納得してくれた様子。早坂くんの一言が無ければ思いつかなかったので、感謝したいくらいだ。
「てわけでこれ俺のじゃないから。さて、佐伯が呼んでるから行こうぜ!」
「うーん、わかった。じゃあ次の部活のときには携帯持ってきてくれよ?」
「お、おう!」
あぁ、次に夏男になるときは早坂くんに会わないようにしなきゃな。
ごめんね、早坂くん。
私は何度目かわからない謝罪を呟いた。