どうにもこうにも人肌恋しくて誰かと引っ付きたい時があったりするじゃない。そうしてむずむずした顔をして目の前の爆発効果音君に、ねえねえ抱き着いてもいいかなと聞くと、四分の一の確率でおうけいを貰える。

胡座をかく上に座って抱き着いて首に手をまわし、とりあえず鎖骨らへんに頬を引っ付ける。晴矢の首やら胸やらが、人肌としてよりちょっとばかし温くて安心する。あったかいなあと思ってたら横からぬっ、て晴矢の腕が伸びていつの間にやらがっちりとホールドされていた、おお珍しい、恥ずかしがらずに乗り気になってくれたぞ。嬉しいなあ、あれ、なんだかいい匂いがする。スンスン鼻を動かせば、それは晴矢の真っ赤になっている耳の裏から漂ってきているような…。あれ、おかしいな、なんだかもっと引っ付きたくなってきた。ああ腕に力を入れてもっと首に頬擦りすれば、心臓がドクドク五月蝿いくらい響き出す。ううなんだろう、顔があっつくなって、晴矢の体温が恋しくて、もっと引っ付きたくなる。ああなんだろこのいい匂い、身体が動かない。ただ心音が加速して身体中あっつくなってきた。





別に普段からイチャイチャしてるわけじゃねえが、今日は特別忙しいこともないし、周りに誰もいない、だから、こいつが何か堪えるようにもじもじと呟く事にわざと渋りながらおうけいを出してやる。

そろそろと俺の首に腕を回すと、ぴったりと頬を鎖骨に引っ付けてきた。自分の体温よりやや低いなまえの体温を直に感じて、面白いほど動揺している俺。いや面白くねえよ。一気に上がる体温に知らぬふりをして、縋り付くなまえの薄い背中に恐る恐る腕を伸ばす。ぎゅっと力を込めて抱きしめると、ふふふだなんて笑っている様ななまえの吐息が肌にかかってこそばゆい。なんだ、この匂い、どっからかいい匂いがする。なんだよ匂いって俺は変態か。そんな事考えてたらなまえの奴スンスンと鼻を、俺の首をなぞるように右耳の裏に押し付けて来た。なまえの小さい鼻が顎下の頸動脈を掠る、う馬鹿やめろ擽ってえ。擽ったさを我慢していたら、なまえが鼻を押し付けてきた分近くなっていた距離。ああまたこの匂いが、しかもさっきよりはっきり分かるいい匂い、やっぱこいつからする。頭がくらくらする様な、すげえ甘い匂いだ。腕から伝わるなまえの柔らかい感触だとか、伝わってきた体温とかそんな事のせいで速くなる心臓がこの甘い匂いの為に一向に治まらなくなった。くそ、くらくらする、匂いはこいつの首から出てやがるな。無性に目の前のなまえの首に噛み付きたくなった。




晴矢から分泌されているだろういい匂いにトロンとしていたら、いきなり首筋に生暖かいものがピチャッとはいずった。「うひっ」だなんて間抜けな声を上げて肩をびくつかせたら、耳元で晴矢のククって喉で笑う音がして体がぞくっとなった。「何すんの変態」ていつも通り怒鳴った筈だったのに、絞り出した様な震える声が辛うじて空気を震わせただけ。なんだか晴矢の匂いで上手く力が出せないみたいだ。


「やべえ、お前すげえいい匂いする」


耳元で晴矢の声がして、気付いたら首に噛み付かれていた。晴矢の歯が首に食い込む度にまた「うひっ」て情けない声が出た。私、このまま食べられちゃうんじゃないかな。逃げようかとも思ったけど、なんでだろ、晴矢のいい匂いが心地好くて、体がぴくりとも動かないんだ。





100310/獲物を誘う匂い