自己紹介はどちらの私をピチチチ、と鳥の鳴く声が聞こえる。普遍的なそれを聞きながら、私はただ目を瞑る。結局あのあと私は新選組の屯所に連行され、沖田に全身を縛られた。それにしても沖田は絶対Sだ、いやドSといっても過言じゃない。人のこと縛りながら実に楽しそうな顔をしていたよ、あの男。まぁ縛られただけで終わったから良かったんだけど。四肢を縛られ口までもしっかりと塞がれてしまえば、上体を起こすどころか、常識的に普通の人は口で息をすることすらままならない。しかし、それはあくまで普通の人の話であり、鬼である私にその常識が当てはまることはなかった。もしここがチリやハウスダストだらけの現代で、縛られた人が鼻炎を患っていたら窒息してしまうだろうな等、この状況に似つかわないことを考えるところからして、私は鬼でなくとも普通の人に当てはまるのかという謎は置いておこう。昨夜から一晩まるまる、私はこれからについて考えていた。ストーリー通りでいくのならば私は無事ここで暮らしていけるはず。しかし、私の記憶違いかもしれないが、昨日の出来事は私の記憶しているストーリーとは異なっていた。おそらく、否、確実に雪村千鶴が隊士を殺したり、沖田総司と刃を交えたりすりことはなかった。ほとんど無いに等しい記憶しかなくても、これだけは自信をもって言える。そんなストーリーはなかった、と。つまり、私が彼女に成り代わったことで多少なりともストーリーに変化が生まれているかもしれない。本来あるべきストーリーから、ずれてしまっている、かもしれない。もしその私の推論が正しければ、私の行動で私の未来が変わるということだ。私みたいなやつが一人で何をしようと結局行き着く先は誰かの思惑通りかもしれない。寧ろ、その思惑を遂行するのにぴったしだった私をわざわざこの世界に来させたのかもしれない。そう思うと何もかも誰かの手の上で転がされているようで、悔しい。お前は何もできないんだよ。そう言われているような気さえしてくる。でも、誰かに踊らされているなんて仮説は所詮私の考えの1つで、本当であるという確証はない。そんな不確実なことに嘆く暇はない。私にだって、譲れないことがあるのだ。本来あるべきストーリーをねじ曲げたとしても、絶対に譲れないことが。( 18 / 41 )[ *prev|next# ] ←back -しおりを挟む-