駒を動かすのは、沖田総司、斎藤一。そう口にした途端、向けられる殺気。何で知っている?そう目が語っていた。私はどうしてこんな大事なことを忘れていたのだろうか。この世界が、薄桜鬼の世界だと。お陰様で、私は今、まんまとゲームの原作のストーリーに突入してしまったのだ。これじゃあ、まるで、まるで私は手のひらで踊らされているみたいじゃないか。もし私がゲームの冒頭部分を覚えていたら、確実に私は京都になんか来なかった。今こうやって彼らに会ったのは、誰かに仕組まれたことのようにしか思えない。私がストーリーに関わるように、ストーリーがちゃんと進むように。巧妙に。この先に起こらなければならない未来があるかのように。それに私を導いているようにしか、思えない。でも、一つだけわかった。私に拒否する術はないのだ。所詮、私は駒でしかない。この薄桜鬼という世界を変えるための、それも他人に忠実な良い駒。私の存在がイレギュラーであっても、私自身の思いでストーリーは変わらない。誰かが駒を進める通りに、私は盤上を移動する。なんて滑稽なのか。別に私にストーリーを動かす力がないとは思えない。私のポジションは主人公だし、ストーリーに及ぼす影響は大きい。ただ、それがすべて誰かの思惑なんじゃないか、そう考えると、どうしようもない、やりきれない気持ちでいっぱいになる。どうして私がこんな目にあわなきゃいけないのか。私はただ、ただ普通に現代に生きていただけなのに。薫と一緒にいたかっただけなのに。気づけばカタカタと、刀を持つ手が震えていた。それが悔しいからなのか、怒りからなのか、よくわからない。「……ねぇ、君、人の話聞いてる?あんまり黙ってばかりだと、殺すよ?」( 14 / 41 )[ *prev|next# ] ←back -しおりを挟む-