回避可能の失態男であるんじゃないかという疑いの眼差しがグサグサと私に刺さっている。文字通り、視線が痛い状況だ。やってしまった。調子に乗って必要以上に剣を振ってしまったばっかりに、いらない疑いを受けてしまった。あちゃーって感じだ、あちゃー。…なんてくだらないことを考えている場合じゃなくて。私が男だと疑われているということは、私が"雪村千鶴"であることが疑われているということと同じ。要するに、私は雪村千鶴に化けた間者じゃないかって言われているわけで。一体どうやってこの疑いを晴らすべきか…。「私も藤堂くんの言うことに同感です。女性である彼女にこのような剣術が身に着くなんて、信じ難いですからね」山南が冷静に自分の意見を述べる。優しそうな声音に反して、彼がかけた眼鏡の奥からはありありと敵意を感じられた。彼の優しそうな声と表情が返って怖かった。「俺も同感だ。そもそも俺は初対面じゃこいつが女子には見えなかったしよぉ」山南に続き、永倉が口を開く。腕を組みながら訝しげにこちらを見る彼の様子から、本当に私が女子には見えていないのだと伺えた。そんなにこの顔は男っぽいだろうか。私が言うのもなんだけど、千鶴ちゃんの顔ってすごい可愛いでしょうが。貴様の目は節穴か。「俺は女子にしか見えねぇけどな。まぁ中性的な顔立ちだからな。なんなら脱がせてみるか?」「ならん!!ならんぞ!!女子の服を脱がせるなんて絶対に許さん!!」苦笑いを浮かべながら、原田は私が女である主張をした。しかし彼の後半の台詞に、近藤が顔を真っ赤にして否定の声を上げる。続けて近藤は熱心に原田に道徳を説き始めていた。しかし正直なところ、原田の言う通りなのも事実である。容姿や技術的な面で男性である疑いをかけられたのだから、もう脱ぐ他に私が女であることを示す方法はないに等しい。これは意を決して脱ぐべきなんだろうか…。いやいや、でもめちゃくちゃ恥ずかしいよね。何が嬉しくて他人に、しかも男に裸なんて見せるのさ?でも見せなきゃ疑われるし、でも、でも。あああああ。………落ち着こう。だいたいこの身体は私のものであって私のものじゃない。雪村千鶴のものだ。本当の私の姿じゃないのに何を恥ずかしがることがあるのか。何かされるわけでもない。ただ少し脱げば良いだけじゃないか。そもそも私は薫を救う為にここまでやってきたんだ。こんなところで下手な疑いなんてかけられてる場合じゃない。薫の為なら、なんだって出来る。薫は、私の全てだから。「あの、私脱ぎ…」「女の子だと思いますよ」意を決して私が言葉を発した言葉を、予想もしなかった男が遮った。( 40 / 41 )[ *prev|next# ] ←back -しおりを挟む-