回避可能の失態「これならどう?」楽しそうに歪められた沖田の唇。彼の目は獲物を見つけた獣のようにギラリと私を睨みつけていた。沖田は飛び退いた直後、私向かって突きの体制をとる。そして、すぐさま目にも止まらぬ速さで三回の突きが私を襲った。これがかの有名な三段突きか、と内心感動しながら思わず身を引く。しかし後方に飛び身体を捩るだけでは、3回もの突きを避けられないと悟った私は、あえて沖田の懐へ向かって飛び込み、ギリギリの所で突きをかわして左下段から彼の胴を狙った。「……やっぱり君、面白いね」流石は沖田である。私の攻撃に意表を突かれた彼であったが、下からの刀を素早く受け止め、沖田は私の顔の真上で私を見下ろしながら小声でそう言った。「それは、褒め言葉ですか…っ」先程までよりも重く押さえ込まれる刀に、私は声を詰まらせ答える。さて、どうしたものか。この手合わせはどのような形で終えるべきだろう。隊士としての実力はもう示せたと、チラリと見やった周りの反応で察する。むしろ、示しすぎたようにも思う。ついムキになってしまったが、女子である私がここまで沖田と打ち合えるなんて、怪しすぎる気がする。「手合わせ中によそ見なんて妬けちゃうなぁ!」「あ…っ」考え事に気を取られていた隙をついて、沖田は私の木刀を薙ぎ払う。気づけば私の首元には沖田の木刀が添えられていた。「勝負あり!」斎藤の声が響くとともに残念そうに降ろされる沖田の木刀。私もホッとして肩の力を抜いた。最後の一撃は油断し過ぎた。もし真剣だったら首が飛んでいただろう。まあ本当の斬り合いなら油断なんてしないだろうけれど。「なぁ、お前って本当に女なのか?」「えっ?」手合わせが終わってすぐ、近くに腰を下ろしていた藤堂がそんなことを口にした。「いや、俺、女の子がこんなに剣が使えるなんて信じられないっつうか…」頭を掻きながら、訝しげにこちらを見やる藤堂。そうして周りを見れば、他の男たちも彼と同じ考えのようで、疑り深い目線をこちらに向けていた。しまった、と思う。背中に汗が伝っていく。ヒヤリ、と。( 39 / 41 )[ *prev|next# ] ←back -しおりを挟む-