回避可能の失態真剣でいいですよね?そう言って私に真剣を渡そうとする沖田を土方が怒鳴り付ける。その声を聞きながら、私はこの後どのように打ち合おうかひたすら考えていた。私と沖田の手合わせに、近藤や原田、藤堂はひどく反対した。女子である私に手合わせをさせるなんて、まして相手は沖田なんて危険過ぎる、と口を揃えて却下したのである。しかし、ある男の助言で彼らは押し黙らざるを得なくなった。斎藤一、彼は何一つ感情の読み取れない声音で言ったのだ。今の新選組には、女性である私を常時隔離的に保護する為に割ける程隊士がおらず、私の保護は現状では厳しいものである、と。そして、もし私がそれなりに実力を持っていれば、隊士として新選組と行動を共にしてもらいたい、と。なるほど、と私は思った。私を間者であると疑っているだろう斎藤の言う保護とは、監視という意味で間違いないだろう。間者の可能性がある私には、当然監視がつく。しかし、間者の可能性がある人間の監視となれば、それなりに実力のある隊士に任せなくてはならないはず。いちいち私がいる部屋の前に隊士を付けていては、新選組に負荷がかかりすぎてしまう。出来ることなら楽して私を監視したい。そう考えれば、隊士として常に隊士や幹部と一緒にいさせるという考えはきわめて筋道が立っていた。手合わせは私がボロを出すのを期待してのものだとばかり思っていたが、案外こっちの理由が本命なのかもしれない。私が沖田の剣を避けたのを直接見ていた斎藤であれば、私にある程度の実力があると見越して手合わせを行うことは、至極当然の思考であった。こうして斎藤の意見を経て、後日手合わせが行われることとなったのである。私的にも、部屋に閉じ込められているより隊士として身動きが取れる方が好都合なので、良い方向に事が進んでくれて有り難かった。「残念だったね真剣でヤれなくて」結局土方に真剣での試合を認めてもらえなかった沖田が、やや不機嫌そうに私にそう言った。あのね沖田くん、普通に考えてね、真剣でやったら確実に大惨事だからね。私鬼だから治るけど痛いの嫌だからね、うん。いや、鬼だってバレるからそもそも切られちゃダメなんだけどもさ。はぁ、と誰にも気付かれないような溜め息を一つ吐き出した。彼は私を殺してしまいたいんだろうな、なんて思いながら沖田の猟奇的な瞳を見つめていた。「これより、雪村と沖田の手合わせを開始する」静かでいて凛とした声が響く。遠くで、数鳥が羽ばたいた。バサバサ、と。( 37 / 41 )[ *prev|next# ] ←back -しおりを挟む-