女はイケメンに弱い、これ絶対「私は雪村千鶴です、それ以上でも以下でもないですよ」私の言葉に眉間にシワを寄せた沖田。まだ演技でもするの?と言いたげに細められた目が私を見つめる。恐らく、ここで何を言おうと彼から私の不信感がなくなることはない。ならば、せめて向こうが反論しづらい返答をし、それ以上何も聞かれないようにすればいい。「…私は幼少より医者である父の元で多くの患者を診てきました。その中には残念ながら救えない命も多くありました。蘭方医見習いとして、亡くなった方を見ていちいち動揺は出来ません。亡くなった方を見た時は心を押し殺すようにしています。私は、普通の人に比べて他人の死に慣れているんだと思います。本当に何も隠したりなんてしてません」医者見習いとして他人の死で感情を出さないようにしている、それは事実だ。現代にいた頃からずっと、それだけは変わらない。「へぇー、死体に慣れている、ね。まぁ今はそういうことにしといてあげるよ」そう言うや否や私から視線を外した沖田。彼は思っていたよりもあっさりと私の言葉を受け入れたので少し拍子抜けした。すると突然襖を開け部屋に入ってきた彼。何をするのか見ていれば、彼の手にはおそらく私のものと思える御膳が1つ。「はい、これが君の朝食ね」私の前に膳を置き、自分は私の前に座った沖田。なんで部屋から出ていかないのだと彼を見ていれば彼は不敵な笑みを浮かべ口を開く。寒いなか僕を外でほったらかすの?と。まぁ確かに寒空の下ただ部屋の前に出させているのも忍びなくもないが、私を軟禁しているのは彼らなんだからそれぐらい我慢しろよと言いたくなる。とりあえず、じっとこちらを見られながら食事なんて気が引けてしょうがない。そう心の中で毒づくも、口には出さなかった。「ぬるい…です」お味噌汁を口に含んで思わず言葉がこぼれた。ぬるい、と言ってもちょっとレベルの話じゃあない。もはや温かさを感じないくらい、冷たい。とても美味しいと言えたものじゃない。「文句あるなら自分に言いなよ。僕が起こしても起きないで暢気に寝てたんだから」「え?」その言葉に弾かれるように沖田を見る。全く何のことを言っているのか身に覚えがない。そもそも、起こされた記憶そのものがない。いたずらだろう、そう思ったときだった。「え?じゃないよ。今の時刻わかって言ってるの?」そう言われて外を見る。確かに朝にしては日が高い気が…というか、もうこれ昼じゃないかな?ねぇ、これ昼だよね?!「明日からはちゃんと起きてよね」やらかした、私がそんな顔をすればニヤニヤとして私を見た沖田。現代のアラームに慣れきった私は寝起きが悪い、それも尋常じゃなく。要するに、私は寝坊したらしい。しかも大幅に。多分、沖田は本当に私を起こしてくれたんだと思う。でも、私は全く起きなかった。そう思ったら恥ずかしくなって手を頬にあてる。頬に熱が集まるのがわかる。ただもう恥ずかしいよりも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。「千鶴ちゃん、早く食べたら?」したり顔でこちらを見る彼に、言い様のない敗北感を感じた。かっこいいんだよ、このヤロー。思わずそう叫んだ。もちろん心の中で、だけど。--------------大事なことだから2回言います。沖田さんはイケメソ、沖田さんはイケメソ( 33 / 41 )[ *prev|next# ] ←back -しおりを挟む-