女はイケメンに弱い、これ絶対「あの、私には沖田さんが何を言っているのかよくわからないのですが…」動揺しているのがバレないよう態度を変えることなく彼の瞳を見続ける。「僕さ、ちらっとだけど見ちゃったんだよね。君がアレを殺すところ」土方さんたちは見てなかったみたいだけど、そう続けて沖田は一度言葉を切った。心臓の音が、バクバクと耳元で鳴り響く。あの時、彼らの気配が遠かったから見られていないと勝手に判断したが、甘かったようだ。私はあの隊士たちを殺す姿を、沖田に目撃されたらしい。沖田の言葉を信じるならば、の話ではあるけれど。私にカマをかけているだけかもしれない。ただ、もし本当に彼の言うことが真実ならば、あまりよろしいことではない。もちろん私がアレを殺した可能性など、あの状況を考えれば誰もが思いつくことだ。しかし、私は女だ。誰もがすぐに私以外の第三者が殺したのだろうと考えを改めるだろう。私が奴等を殺したとなれば、ますます私の自由が奪われるだろう。と言うか、私の身の安全は完全に奪われるだろう。「まぁ君が殺したのを見たってのは流石に冗談なんだけどさ。……あの時の君は、死体に対して驚きも恐怖も、というかなんにも感じてなかったよね。それなのに今の君は僕らが何か言うだけでびくびくしてる。僕が最初に見た君は、今の君とあまりにもかけ離れてる」核心をつくような沖田の言葉。彼の言うように、あのときの私と、今のか弱い少女にしか見えない私に矛盾を感じるのもおかしくはない。普通の娘が恐怖せず死体と対峙することなんて、まずあり得ないのだから。たとえ腕が良い剣士だろうがなんだろうが、死体を見れば必ず何かしらの感情を露わにする。普通ならば。でも、私は違う。そもそも私が殺したのだから当然といえば当然なのだけれど。「君は何者?いったい何を企んでるの?」まるで刀のつっ先を突きつけられたように、鋭い一言が私を追い詰めてゆく。ぎゅっと、手を握りしめた。どうにかして、打開策を見つけないと。( 32 / 41 )[ *prev|next# ] ←back -しおりを挟む-