そうです、私は嘘吐きです優しそうな声音だが、どこか刺々しい言葉を吐いた沖田。彼はゆっくりと目を細め、口に三日月を浮かべた。一見ニコニコと笑ったように見えるが、彼の瞳は鋭く私に突き刺さる。「君の話の《全て》っていうのはすぐに終わるの、って聞いてるんだけど」私が黙っていれば少し強い口調でそう繰り返す沖田。そこで、嗚呼そういうことか、と納得する。彼が言いたいのは、話が全て終わるのにいったい《どのくらい》時間を要するのか、ということだろう。その話がすぐ終わろうと、10年かかろうと、話の全てを《話終える》事実にはかわりない。つまり、例えば私が話をいつまでも終わらせずに何年も話し続ければ、私は何年も殺されずに済むと言うわけだ。おそらく、沖田はその可能性を疑っているのだろう。もちろん疑っているのは沖田だけではないのだろうけれど。しかし、言葉は本当に面白い。私はただ単に自分の話を聞いてもらいたかっただけだが、取りようによっては沖田の言っていることも間違ってない。むしろ彼らのような人間にとっては、私の発言がそれを狙ったものだと疑う方が当たり前なのだと思う。とりあえず私的には、どちらにしても自分が綱道の娘だと伝えることさえできればなんでもいいんだけど。「……?あの、おっしゃる意味がよくわからないのですが…。私はただ、皆さんに話したいことがあるだけで…」沖田が指していることがわからないというように首を傾げる。あくまで純粋で素直な少女のように。正直、私には自分の発言から語弊が生じようが生じまいが微々たるものでしかない。はっきり言えば、どうでもいい。そもそも私が得たかったのは私の話を聞いてもらう機会でしかない。それ以上でも以下でもない。私が無事に屯所に居着くために必要なものは事実と機会、そして雪村千鶴に対する先入観だけ。既にこちらの手駒は揃っている。「…だからさ、僕が言ってるのはそういうことじゃなくて」「総司、もういい。…おい、そんなに話したいことがあるなら思う存分話してみろ。約束通り全て俺たちが聞いてやる」埒があかないと感じたのか、土方が沖田の言葉を遮り私に話を促す。してやった、とニヤリと笑った。もちろん心の中で。チェックメイト(王手)だ。( 28 / 41 )[ *prev|next# ] ←back -しおりを挟む-