翌日、俺は大助に詰め寄った。
 一体何なんだ、アイツは、と。

 先日あった事を全部彼に話したうえでそう問いかけたのだが、大助は困ったように笑うばかり。しかしどこかその笑顔は固かった。


「京ちゃん、襲われたんて本当?」


「だぁーから、そういってんじゃん!」


「だれに?」


 そこでは、と我に返る。
 笑顔がぎこちない大助。こんなときのコイツは、めちゃくちゃ本気で、キレている。今は見る影もないが、こいつは昔相当荒れていたらしい。笹木や倉森とやり合ったという話しも聞いた。
 信じたくはないが、笹木や倉森も昔は凄かったらしい。高坂なんて足元にも及ばないくらい。そんな大助がキレるとどうなるか、笹木達から良く聞かされていた。良くて半殺し。悪かったら、なんて言いたくもない。
 今は俺が前にいるから必死に怒りを抑えているのだろう。

 大変だ。
 このままじゃ、高坂の命が!


「し、知らない奴だった」


「そうか、そりゃ残念やわ。息子さん使えんようしてやろう思っててんけど」


 過激過ぎます、大助サン。




***




 業後、俺はまた第二図書分館に来ていた。
 あれから京一がどうしているか気になったからだ。また襲われている所に鉢合わせたら嫌だな、とか思ったがそう頻繁に起こるイベントでもないようで京一は本の生け垣の真ん中に、静かに座っていた。

 視線が必死に活字を追っている。
 途中、眼鏡をかけ直す事と頁を繰る事以外全然動きゃしない。しかも、すぐ近くにいる俺にも気付かない。物凄い集中力だ。

 何だか面白くなくて、手を伸ばして彼の頬を思いっ切り抓ってやった。


「…………………」


 反応無し。
 うそ、マジですか。

 手を離すと、ほんのりと赤くなってしまっていた。罪悪感から指先でゆるゆると撫でる。すると、ぱ、と視線が僅かに上に持ち上がり、ようやく俺に気付いたかと思えばそうではないようで、ゆっくりと視線は窓の外に投げられた。
 じっと、活字を追っていたときのように、熱心に何かを見つめる京一。


 何を、見ているんだろうか。
 気になって窓の外に視線を向けようとしたとき、


「何の用だ、米川」


「ッ!」


 ビビった。
 慌てて視線を京一に戻すと、彼はじっと俺を見ていた。窓の外にはもう目もくれない。


「お前も本を読みに来たのか?」


「え、いや…俺は違くて」


 曖昧な反応を返す俺に、京一は首を傾げる。茶色がかった髪がさらりと揺れた。というか、こいつ普通に話してるよな。
 適当に相槌を打ってはいおしまい、じゃなかったのか。それとも、昨日の件で懐かれてしまったのだろうか。


「また襲われてないか不安で」


「安心しろ、そんな物好きはアイツだけだろうよ」


 いやいや、そんな事も無いと思うよ。知らないのだろうか、自分を見ているクラスメイトの視線を。周囲の目を。声を。

 …言っても伝わらない気がしたので、言わないでおく。
 この人、案外というかめちゃくちゃマイペースなところあるみたいだし、しかも凄い鈍感。その上天然っぽい。

 少し、自覚したほうが良いのでは…。


「なぁ、さっき何見てたの」


 好奇心から問いかけると、京一は首を傾げたまま考えるようにして、それから


「わからない」


 と答えた。
 ボケるのもいい加減にしませんか…、京一さん。

 俺が呆れたように息を吐くと、彼は少しまた考えるように宙に視線をさ迷わせて口を開く。


「何だか、気になって仕方ないんだ」


 何が、と聞き返そうとしたが、その前に京一は本の世界に戻っていってしまった。頬を抓っても、髪の毛を弄っても、無反応。


 …俺は言葉の先が気になって仕方ありません。




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