京一は業後、専ら第二図書分館で本と戯れているそうだ。情報源は勿論大助。業後は部活で大変なんやでーとかなんとか語ったら自分は第二図書分館で本を読んで過ごしているのだ、と初めて自分から語ったらしい。その時の感動といったらもうなんちゃらかんちゃら。ウザいから右から左でした、はい。
分館とは言え、とてつもなく広い。入ると吹き抜けのホールが現れ、両脇にカウンターがあって五人ずつ、計十人もの図書委員が貸出作業や返却作業に追われている。しかも、正面には馬鹿でかい階段が。どんだけ金かけてるんだか。
確か、彼は三階の最深部で窓際を陣取って本を垣根のように積み上げ、その中央で一心不乱に活字を追っているらしい。この辺の情報源は笹木達だ。突然京一の事を問いただした俺に二人は驚いているようだったが、嬉々とした面持ちで語ってくれた。
三階まで一気に駆け上がったところで、人気が妙に無くなった。
どうやら此処は案外マイナーなジャンルを取り扱っている階らしい。断定できないのは、この階の棚の表記やら本のタイトルが全部英語だかドイツ語だからだ。
俺はそういうの、無理。だって日本人だし。英語なんて話せなくったって生きていけますカラ。
あの茶色がかった頭を探してうろうろするけど、何故か見当たらない。どういうことだ。今日は来ていないのだろうか。その時、かさ、と紙が掠れるような音がして、次いで大振りな分厚い本がごとん、と二、三冊通路に飛んできたのが見えた。
足早に近付いて本棚の間を覗き込むと、そこには金髪がいた。…正確に言おう。
京一に馬乗りになって今まさにシャツを引き裂こうと腕に力を込める金髪がいた。
「………え」
俺、びっくり。
布が引き裂かれる音がして、白い小さな釦が俺の足元に飛んできた。それを目で追っていた京一が、俺の姿を見つけて驚いたように目を見開く。
…これは、助けたほうが良いのか?
いやでも、合意の上でやってるんだったら俺が口を挟む権利とかないし。
…………。
俺は馬鹿か。
両手縛られて口に布突っ込まれてて、何が合意だ畜生。
俺は通路に飛んで来ていた分厚い、めちゃくちゃ重たい本(こんなもん本って呼んでいいのか?)を金髪の頭目掛けて力いっぱい振り下ろした。
鈍い音がして、金髪は力無く京一の上に倒れ込む。よく見たらそいつは同じクラスの高坂だった。……何やっちゃってんだよお前は。
二、三度しか話したことはないが、高坂は結構有名な不良さんらしい。有名ってことは、つまり、喧嘩がめっちゃ強いってことで。そんな奴を一発で気絶させられるこの本って、すげぇ。
「えーと……」
京一は呆然と自分の上の高坂を眺めていたが、しばらくして俺に視線を移す。
そんな彼に一体何と声をかけようか迷った揚句、
「だいじょうぶ?」
月並みな言葉しか出てこなかった。
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bkm